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分析

FIAとF1の間に生じた”亀裂”。今後全面戦争に発展してしまうのか?

FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長の発言に、公式な書簡として”抗議”したF1。両者はこれまで、表面的には良好な関係を築いていたように見えたが、この綻びが発端となり、今後大きな事態に発展する可能性はあるのだろうか?

Stefano Domenicali, CEO, Formula 1, and Mohammed bin Sulayem, President, FIA, on the grid

写真:: Steven Tee / Motorsport Images

 先日ブルームバーグが、サウジアラビアの投資ファンドがF1を200億ドル(約2兆6100億円)で買収することを試みたと報じた。これについてFIAのモハメド・ベン・スレイエム会長は「200億ドルという膨れ上がった値札がつけられたことに懸念を抱いている」と自身のTwitterに投稿したが、F1は「商業権に介入している」として公式に批判するという事態に発展した。

 このことは、Netflixで配信されている「Drive to Survive(栄光のグランプリ)」のサイドストーリーではない。F1という世界選手権の運営方法における力関係が変化する始まりである可能性がある。

 表面的には、ベン・スレイエム会長とF1のステファノ・ドメニカリCEOは、団結して物事に当たっているように見えた。しかし実際には、状況は異なっていた。

 FIAとF1のオーナーであるリバティ・メディアとの間には、意見の衝突も数多くあったのが真相だ。しかしこれまで発生した軋轢は、密室で秘密裏に、そして友好的に解決されてきた。生々しい部分が公に晒されるようなことはなかったわけだ。しかし今回のことで、事態は大きく変わった。

 パドックの信頼できる情報筋によれば、今回のベン・スレイエム会長に宛てたF1からの”怒りの書簡”は事実上、FIAとリバティ・メディアとの間の”戦争”の一端であるという。

A huge FIA flag flies on the grid

A huge FIA flag flies on the grid

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

”権力”をめぐる争い

 FIAとF1が衝突するというのは、ここ数年は見られなかったことだ。特にマックス・モズレーがFIAの会長に就任し、FISA(国際自動車スポーツ連盟)を吸収、バーニー・エクレストンがチーム側をまとめ上げ、今のF1を形作った後は、両者が衝突するようなことはほとんどなかった。つまり今の状況は、FISAとFOCA(F1コンストラクター協会)が対立し、F1を二分していた1970年代から80年代と同じようになりつつある……とも言える。

 今回ベン・スレイエム会長の発言にF1が苦言を呈したのは、両者の関係悪化が表面化したひとつの例にすぎない。これまでにも、ベン・スレイエム会長とF1(FOM)との間には軋轢が生じており、それを徐々に悪化させる出来事が複数生じていた。

 その一部は、F1のレギュレーションと、レース運営に関することである。2021年の最終戦アブダビGPでは、FIAのレースコントロールには多くの批判が浴びせられた。またF1は2023年のレースで数多くのスプリントレースを実施しようとしたが、ベン・スレイエム会長はこれに難色を示した。さらに2022年日本GPでは、獲得ポイントに関する混乱もあった。

 またベン・スレイエム会長は、自身直属の組織を使うのではなく、個人的に問題に対処しようとする傾向もあるが、それについての不満も各方面から上がっていた。そういう個人的な動きが強みになることも多々あるだろう。しかし、昨年のF1で起きたポーパシングへの対処について、チームやドライバーと直接話してしまったのは問題だった。実際、ベン・スレイエム会長は問題の全てを詳細にわたって把握しているわけではなかったため、F1関係者を苛立たせることに繋がる場合もあるという。

 またFIAは、2023年のF1開催カレンダーの公表を、F1側と期日を擦り合わせることなく行なってしまったことも、問題の悪化に拍車をかけた。

 さらに今年になって、ベン・スレイエム会長はF1を度々”口撃”している。まずはアンドレッティがF1参入に名乗りを挙げたことについて、後ろ向きなF1を批判。そして今回のF1の”値札”についてである。ベン・スレイエム会長の発言は、徐々にエスカレートしていっているように感じられる。

 ただ今回のことは、いろいろなことを象徴しているようにも思える。本来ならばサウジアラビアのファンドがF1買収を試みたという”噂”に、FIAの会長が個人的に反応する必要性はまったくない。むしろ無視しても問題なかったわけだ。その一方で、200億ドルという額が表面化したことについては、何か意図的なモノを感じざるを得ない。このことが話題になることで、最も大きな利益を手にするのは誰なのか? そしてなぜ今明るみに出たのか? 実に不可思議だ。

 今回の一連の報道と動きで大きな影響を受けたのは株価だ。ブルームバーグの記事が掲載される前、1月19日のFWONA(フォーミュラ・ワン・グループ)の株価は、59ドルにも満たなかった。しかし記事が掲載されると、株価は急上昇。7.8%上がり、63.6ドルの最高額を記録した。

 なおFWONAの時価総額は、現在160億ドル前後にあると言える。それを考えれば、ブルームバーグが報じた200億ドルという金額は、法外な値札とは言えない。しかしながらこれにベン・スレイエム会長が食らいついたのは何のためだったのか……。

Max Verstappen, Red Bull Racing RB18, Sergio Perez, Red Bull Racing RB18, Lando Norris, McLaren MCL36, Charles Leclerc, Ferrari F1-75, Carlos Sainz, Ferrari F1-75, the remainder of the field at the start

Max Verstappen, Red Bull Racing RB18, Sergio Perez, Red Bull Racing RB18, Lando Norris, McLaren MCL36, Charles Leclerc, Ferrari F1-75, Carlos Sainz, Ferrari F1-75, the remainder of the field at the start

Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images

F1チームに及ぼす影響

 現在、各F1チームはF1とFIAの戦いを傍観しているが、その成り行きに注視しているのは間違いない。F1が記録的な観客動員数と収益で好調を維持している今、そうした権力闘争は不必要な摩擦となるかもしれないからだ。

 ただ複数の関係者によると、上層部で起きていることはスポンサーやファンから見て、チームやF1のグローバルイメージにダメージを与える可能性があると警戒してはいないようだ。

 また、ベン・スレイエム会長とFOMの関係が完全に壊れてしまったとしても、FIAはFOMが必要とするプロセス(グランプリ週末の運営、F1カレンダーの承認、世界モータースポーツ評議会によるルール変更の整理など)を継続させるはずであり、チームの生命線とも言える商業権収入に、今回の論争の影響が及ぶべきでもない。

 ベン・スレイエム会長の行動がどう捉えられるかにもよるが、最大の変化はFIAの内部で起こるだろうと彼らは指摘する。ただ、FOMはベン・スレイエム会長の発言によって生じた損害については、FIAが「責任を負うべき」だと警告しているが、そうなる可能性も少ないだろう。

 今回の一件は、FIAがF1に関連するいかなる商業面についても関与しないと同意していたことを、思い出させるきっかけになった。2001年、EUの反カルテル当局は、F1の商業権に対するFIAの影響が終了していることを明確にした。そして欧州委員会が当時発表したプレスリリースには、次のように書かれている。

「FIAの役割は、スポーツ規制当局としての役割に限定され、商業的な利益相反はない」

「したがってFIAは、F1世界選手権の商業的利用について、影響を与えることはない」

Mohammed Ben Sulayem, President FIA

Mohammed Ben Sulayem, President FIA

Photo by: A.S.O.

今後何が起きるのか?

 気になるのは、今後事態はどんな方向に進んでいくのか……ということだ。短期的には、ベン・スレイエム会長が自分の発言に固執するか、あるいは謝罪して今後の方針を変えるのかというところが注目される。

 FIAが望んでいる可能性が最も高いこと、それは、FIAの責任が及ぶ範囲を、明確に定義するということだろう。特に、ベン・スレイエム会長がF1を思い通りに進化させようと、悩みの種となるような形で行動できないようにしたいと考えているだろう。

 一方でF1側は、以前にEUとの間で合意したように、FIAが商業的な部分に関与しないということを、改めて保証するよう求めるだろう。

 ベン・スレイエム会長は、自分とドメニカリCEOとの間に大きな問題は生じていないと長いこと主張してきた。昨年のアブダビGPの際には、ふたりで問題について1日置きに話しているとも明かしていた。

 また2023年のWRC開幕戦ラリー・モンテカルロでも、ベン・スレイエム会長はやはりドメニカリCEOとの良好な関係を主張していた。

「しかし、FIAもその仕事をしなければいけない」

 そうベン・スレイエム会長は語った。

「良いことは、ステファノと良い関係を築いているということだ。ステファノはモータースポーツ界にも、自動車産業にも身を置いていたことがあるため、双方を前に進めることができやすいようになった。商業的な知識だけを持ち、スポーツについてまったく知らない人を連れてくるというようなモノとは異なる」

 そしてベン・スレイエム会長は、FIAとF1の軋轢についての話は、メディアが勝手に作り出したモノだと主張した。

「この構図を作り出したのはメディアだ」

「彼らは、お互いが物事を正すために何かをすると、分裂が始まると報道するんだ」

 しかし今回は、F1が実際に書簡を送っている。軋轢が生じているというのは、ジャーナリストの妄想ではない。逆にこれは、F1の将来の方向性を決定づけるための真の意味での戦いであり、今後数ヵ月にわたってパドックを賑わせる話題の発端ということになる可能性が大きい。

 
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