自宅に超本格シミュレータを完備。シーズン開幕に向けフェネストラズは準備万端
2020年は国内最高峰カテゴリーであるスーパーフォーミュラとスーパーGT(GT500)に参戦するサッシャ・フェネストラズ。自宅に高性能のシミュレータを完備している彼は、“ステイホーム”を続けながらも開幕に向けて着々と準備を進めている。
Sacha Fenestraz sim
Motorsport.com / Japan
新型コロナウイルス蔓延を受けて緊急事態宣言が発令された影響で、今シーズン、スーパーGTのGT500クラスとスーパーフォーミュラに参戦するはずだったサッシャ・フェネストラズは、シーズン開幕を迎えられないまま外出自粛要請の出されている東京にいる。サーキットを走りたいけれども走れない。そんなフェネストラズの思いを受け止めていたのが、アパートに設置された自分専用のシミュレータだった。
「このシミュレータは、ロンドンのアパートで使っていたもの。それをそのまま運んできたんだけど、全部で200kgにもなるから大変だった」
フェネストラズの使うシミュレータのプラットフォームは他のプロドライバーの多くが使っている『iRacing』だが、ディスプレイ、シート、操作系を固定したいわゆる”リグ”は、ペダル、ステアリングともに実車に即した本格的なものとなっている。特にブレーキは油圧を介して踏力を検知する仕組みで、操作感は実車そのものだ。フェネストラズは本気なのだ。
「シムレースを始めてから5年ほどになる。現実のレーシングカーを走らせていない間、何もしないのはよくない、何かの形でレーシングカーを走らせたいと思ってシミュレータを導入した。僕の周囲では多くのレーシングドライバーがそう考えてシミュレータを導入している。今使っているシミュレータは2年前に手に入れたものだ。このコロナウイルスの状況下も、東京にいながらオンラインで世界を結びヨーロッパや故国アルゼンチンの友人知人とレースしているんだ」
フェネストラズはマクラーレンのランド・ノリスと親しく、よくオンライン上で一緒にトレーニングをするという。ノリスはeレーシングの世界でも一目置かれるトップ選手である。フェネストラズはeレーシングを使ったトレーニングから何を学んでいるのだろうか。
「シムレースは楽しいだけではなく、そこからたくさん学ぶことがある。特にオーバーテイクのやり方を身につけるのに役立つと思う。今年は初めてSUPER GTでGT500クラスを走ることになっているけど、(GT300など周回遅れになったクルマによる)トラフィックをうまく処理する方法を学ぶのに非常に有効なんだ」
eレーシングでは加減速やコーナリングでGを感じることができないのでリアリティに限界がある、とする意見についてフェネストラズはこう言う。
「確かにコーナーへの負荷、Gフォースを実際に感じることはできないので、クルマの限界を感じるのはとても難しい。特に横方向が難しいんだ。だから同じレーシングカーを運転するにしてもアドレナリンの出方が違う。ルノーと契約していた頃、F1用のシミュレータを経験したことがあるけど、シートが6mほどの幅で移動してGを再現していた。自宅でGを再現することは出来ないけど、考え方だと思っている」と、フェネストラズ。
彼は、ユーザーの意識の持ち方によってシミュレータの意味が変わる、と理解している。Gの感覚を含め不足している情報を自分の感性の中で補って走ればリアルに近づくことができるし、その努力をせずにGが感じられないからダメと突き放してしまえばそれまでだと言うのだ。
「僕のシミュレータは、最初は小さな設備だったけど、だんだん充実してきた。シミュレータを改善することによって、より現実に近い感覚で走らせることが出来るようになるんだ」
フェネストラズのリグに装備されているペダルやステアリングは、バーチャルの世界をよりリアルの世界に近づけるための積み重ねだったのだ。
Sacha Fenestraz
Photo by: Motorsport.com / Japan
このシミュレータを使ってどれくらいの時間をトレーニングに使うのかと聞いてみた。
「(オフラインの)ローカルで自分自身の走りをトレーニングする一方、オンラインでトラフィックの処理や燃料管理などをトレーニングするんだけど、多いときには1日4時間くらいかな。毎日というわけではないけどね。本番レースの2日前または3日前から前日までが多い」
iRacingはプロ選手御用達のプラットフォームだけに、その気になれば実車と同じセッティングを試すことが可能である。セッティングだけでなく、時間の経過や天候、路面の汚れも再現できる。
「セッティングは現実同様、全て変更できて、とてもリアルに反応する。3月末に富士で行なわれたスーパーフォーミュラ合同テストの前、エンジニアと一緒にシミュレータセッションを行なって、そこで多くのセットアップを試してから実際のクルマを走らせた。現実での反応はほとんど同じだった。たとえばフロントアンチロールバーなどを変更すれば反応して感じ取れるし、現実でも同様に反応する」
スーパーフォーミュラとスーパーGTでのデビューに向けて、フェネストラズは今も東京のアパートに設けたシミュレータでエンジニアとタッグを組んでトレーニングを積み重ねている。準備は万端、後はリアルの世界で走り出すだけなのだ。
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