アクセルは左手、ブレーキは右手……ザナルディが両手で操作可能な自身のコックピットを解説
『スーパーGT×DTM特別交流戦』に参戦したアレッサンドロ・ザナルディ。事故で両脚を失った彼は、ハイパフォーマンスなDTMマシンを両手だけでコントロールしている。
富士スピードウェイで初開催された『スーパーGT×DTM特別交流戦』にBMW Team RBMから参戦した“不屈の鉄人”アレッサンドロ・ザナルディ。2001年のアクシデントで両脚を失った彼が、両手のみでどのようにマシンを操っているのか? 気になるコックピット内のシステムについて訊いた。
ザナルディは2001年のCART(チャンプカー・ワールド・シリーズ)のレース中に大クラッシュに遭い、両脚を失ってしまったが、懸命なリハビリの末、事故から約1年半後には義足をつけてレース復帰。その後WTCCに参戦した他、2006年にはF1マシンのテストドライブも行なった。
また彼はパラリンピックの競技にもなっているハンドサイクルにも力を入れ、2012年のロンドン大会、2016年のリオデジャネイロ大会では金メダルを獲得。人々はいつしか彼を、“不屈の鉄人”と呼ぶようになった。
そんなザナルディが、11月23日~24日に行なわれた『スーパーGT×DTM特別交流戦』にBMW Team RBMから参戦。普段はDTMにレギュラー参戦している訳ではないのだが、2020年に控えた東京パラリンピックのハンドサイクル競技コースの下見も兼ねて、初開催となるドリームレースのメンバーとして来日したのだ。
以前は義足をつけて、通常のドライバーと同じような操作方法でレーシングカーをドライブしていたザナルディだが、BMWは彼のために両手だけで全操作が可能なコックピットシステムを開発。昨年のDTMミサノ戦に彼がゲスト参戦した際に初導入した。今回彼が乗った#4 BMW M4 DTMにも組み込まれ、ザナルディは義足をつけずにマシンに乗り込み、DTMマシンをドライブした。
では、実際にどのようにしてアクセルやブレーキ、さらにシフトチェンジといった操作をしているのか? レースウィーク中にザナルディ本人に話を訊くことができた。
アクセルは左手、ブレーキは右手……
「僕は(2001年の)アクシデントで両脚を失って、コックピット内での操作方法が大きく変わったけど、どうすれば効率よく操作できるか? という課題と向き合ってきた中で、僕たちのエンジニアが素晴らしい解決策を見出してくれて、全ての操作を両手で効率よくできるシステムが出来上がった」
そう語ったザナルディは、コックピット内での操作を細かく説明してくれた。
基本的なステアリング操作は通常の車両と変わらないのだが、一番大きく違うのがアクセルとブレーキを手で操作するということ。アクセルに関してはステアリングの後ろ側に“スロットルリング”というものがついており、これを手前に引く度合いでアクセル開度を調整できる。これは基本的には左手で操作するという。一方のブレーキは右側についている白い大きなレバー。これを奥へ押し込むことでブレーキペダルを踏んでいるのと同じ役割を果たすのだが、これがかなり重たいのだという。
「右手にあるレバーを押すとブレーキを踏んだことになるんだけど、パワーアシストなどはついておらず、他のドライバーが足でブレーキペダルを踏んでいるのと(感覚的には)同じくらいの重さがある」
ザナルディは現在ハンドサイクルの競技に力を注いでおり、毎日腕を鍛えているとのこと。そのため、ハードブレーキングも問題なくできるという。
「右手でブレーキレバーを押し込むのはものすごく力がいるけど、幸い僕はハンドサイクルの競技をやっていて、常に腕を鍛えているから、このシステムでハードブレーキングをすることに関しては問題はない」
シフト操作にもザナルディに負担がかからないような工夫が
またシフト操作に関しては、通常の車両と同じくパドル操作となるのだが、その装着位置がザナルディ車の場合は両手で効率よく操作できるように調整されている。
まずシフト操作は全て右手で行う。シフトアップは通常のレーシングカーと同じ右手の人差し指・中指付近にある手前に引く方式のパドル。1回の操作でギヤがひとつ上がる。これに対しダウンシフトは右手親指側についており、奥に押し込むことでギヤがひとつ下がるようになっている。
さらに富士スピードウェイではTGRコーナーやダンロップコーナーのようにブレーキングをしながら複数回シフトダウンする必要があるコーナーがあるのだが、そういった場面でも対応できるようにブレーキレバーにもシフトダウン専用のスイッチがついており、そこでも操作可能となっている。
これにより、様々なコーナーに対応することが可能になったというザナルディだが、富士スピードウェイでの一番の鬼門はコカ・コーラコーナーだったという。
「富士スピードウェイでいうと、ターン1(TGRコーナー)のようなスローコーナーはそれほど大きな問題はない。まずはハードブレーキングをしてシフトと車速を落として右にステアしていく。車速も落ちているから、スロットルとブレーキの開度も細かく調整できる」
「ただ、問題はハイスピードなターン3(コカ・コーラコーナー)だ。ブレーキを一瞬かけて、1つギヤをダウンして、すぐに左にステアする。それをほぼ同時にやらなければいけないから、他のドライバーたちと比べると多少の妥協を強いられることにはなる」
富士スピードウェイの攻略でのメリット、デメリットなども細かく説明してくれたザナルディ。一番の利点はこのシステムができたおかげで、体力的にはかなり楽になったことを挙げた。
「このシステムができたおかげで、よりクルマの状態を細かく感じ取りながら走れるようになった。以前はフィジカルの面ではものすごくハードだし厳しい部分があったけど、このシステムができたことによって、僕のレースに対する人生は大きく変わったと感じている。今ではBMWと共にロングディスタンスのレースにも参戦することができるようになったし、やろうと思えば24時間レースにも挑戦できるようにもなった。それくらい、体力的にも楽になった部分はある」
アレッサンドロ・ザナルディ Alex Zanardi #4 BMW M4 DTM
Photo by: Masahide Kamio
「通常のドライバーと比べると妥協は必要だけど、画期的なシステム」
とはいえ、富士スピードウェイでは特にセクター3などアクセルとブレーキの細かなコントロールが要求されるコーナーもあり、それらを全て両手で操作するのはかなり難しいこと。ザナルディも通常のドライバーと比べると完璧にコントロールすることはできないことを認めつつも、それ(完璧を求めること)は重要なことではないと語った。
「もちろん操作は難しいし妥協が必要なところもたくさんある。正直、今の僕は純粋な競争力という部分で他のドライバーと比べると不足している部分はある。やはり僕は両脚がなくて、すべての操作を両手でしなければいけない。さらにDTMには素晴らしいドライバーがたくさんいるし、僕自身はDTMのクルマに対する経験がそもそも少ない。だから、レースで勝ちたいと考えた時に完璧な状態ではないけど、僕がレースに挑戦していく上では(この新しいシステムは)とても良いソリューションだと思っている」
この新システムは、ザナルディにとっても、BMWにとってもかなり画期的なものになっているのは間違いない。今後はこのシステムを使って様々なレースに挑戦する彼の姿がみられるかもしれない。
Be part of Motorsport community
Join the conversation記事をシェアもしくは保存
Top Comments
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。