フェラーリF1ビノット代表:持続可能燃料への切り替えは「重要なこと」
F1は、2025年シーズンから新たな仕様のパワーユニット規則を導入する予定だ。そしてこの次期パワーユニットは、持続可能燃料のみで稼働することになる。これについてフェラーリのマッティア・ビノット代表に話を訊いた。
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現在のF1は、1.6リッターV6ターボエンジンに熱&エネルギー回生システムを組み合わせた、いわゆるパワーユニット(PU)を動力源としている。これは2024年シーズンまで引き続き使われる予定で、2025年シーズンからは新たな規格の”PU”が登場する予定だ。
2025年からのPUは、その詳細こそまだ話し合われている最中ではあるものの、ガソリンではなく100%持続可能燃料によって稼働するよう切り替えられることになっている。
では、それはどれほど大きな変化ということになるのだろうか? 自然吸気V8エンジンから、現行のハイブリッドPUに変わった時と同じくらい大掛かりな変更となるのだろうか?
また現在、世界中の政府は内燃エンジン車の撤廃を声高に訴えており、将来の自動車の選択肢は、電気自動車しかない……という風潮である。そんな中、内燃エンジンを使い続けることを目指すF1は、自動車とモビリティの未来の選択肢は、電気だけではないというメッセージを発信することができるだろうか?
この問いについて、フェラーリF1のチーム代表であるマッティア・ビノットと、同チームの燃料パートナーであるシェルのモビリティ担当グローバル・エクゼクティブ・バイス・プレジデントであるイストバン・カピタニーに話を訊いた。
エンジン用の燃料については、その進化が急速に加速している。多くの国では、植物由来のバイオエタノールを10%含む、より環境に優しいE10燃料が使われている。F1も来シーズンからこのE10燃料を使い、2025年にはこのバイオエタノールの割合を100%にしようと計画している。
F1がこの道を進んでいくことができれば、その技術はすぐに市販車へと転用され、世界中の道路を走る無数の自動車がそれに追従することになるだろう。
「それはとても重要なことだ。F1のロードマップを持続可能なモノとするためには不可欠だ」
ビノット代表はそう語る。
「F1はパフォーマンス、信頼性、テクノロジーだけでなく、持続可能性のためのイノベーションの場でもある。完全電動だけが解決策ではない。我々は、持続可能な燃料との組み合わせなど、他の解決策もあると信じている」
Charles Leclerc, Ferrari SF21
Photo by: Erik Junius
「エンジンの設計に関しては、ノウハウという面で大きな変化になるだろう、モータースポーツの環境下では、まだよく知られていない新世代の燃料について、学ぶことがたくさんあると思う。2022年のE10燃料……エタノールを10%含んだ燃料を導入する。しかし今後5年間で得られるモノは、確かにE10燃料最初のステップとは、大きく異なるはずだ。それは挑戦しがいがあり、急速な学習曲線でもある。興味深いことだが、革新と言ってもいいモノだ」
「課題は、100%持続可能燃料となった時に最大限のパフォーマンスを引き出すことにある。競争の激しい環境であり、競争は相対的な利点が全てなのだ」
2014年に現行のPU規則が導入された時、ファンからは様々な反応があった。その中で最大の不評だったのが、音が小さくなりすぎてしまったということだ。現在のF1用PUは、エネルギー効率が50%を超えていると言われる。そんなに高効率の動力源は、世界広しともそれほど多くはない。ある意味革新的とも言える存在だ。しかしそんな話題も、”音が小さい”という不評によってかき消されてしまった。
では、2025年にはファンはどんなことに気付くだろうか?
「外から見ても、何も分からないと思う」
そうビノット代表は言う。
「V8からV6に移行したことで、エンジンの音が変わった。でもマシンの形という面では、ファンにとっては大きな変化はなかったと思う。今日我々が手にしているPUは、非常に高いエネルギー効率を達成している。そのことを、ファンが完全に認識しているとは思わない」
「それを考えれば、持続可能燃料の成果を説明し、強調するのは我々の責任であると思う。だから変化という面で言えば、技術者やチーム、PUメーカーにとっては大きな変化だと思うし、大きな挑戦になるだろう。しかしそれがファンの目に明確に見えるようにはならないと思う」
またシェルのカピタニー氏も、次のように語る。
「近年には、バッテリー技術の驚異的な進歩があった」
「しかし液体燃料はエネルギー密度が高いため、高いパフォーマンスを生み出すチャンスを与えてくれる。それが、我々がフェラーリと協力するのが重要であると考えている理由のひとつだ」
「持続可能燃料を手にするためには、様々な方法がある。そしてF1は、そういう類の活動に適した実験室だ」
「我々はすでに、第2世代のエタノールを、商業流通できる量生産できるようになっている。しかもそれは、サトウキビの食用の部分を使うのではなく、農作物の残り物から生産できるんだ。またIH2テクノロジーと呼ばれる、特許を取得済みの解決策もある。これは農業で発生した廃棄物、そして家庭から出た廃棄物を使って、高品質の燃料を生み出すのだ。そして我々は、e燃料や合成燃料、合成コンポーネント、水を電気分解した水素と二酸化炭素を合成する”power to liquid”についても、知らないわけではない」
「持続可能燃料は、EVの代替手段のひとつだ。EVは非常に優れており、今後登場し、商品ラインアップの一部になるだろう。しかし様々な解決策、つまりお客様に様々な選択肢を提供することも必要である。それが、我々がこの世界で働きたいと思っている理由なんだ」
では現時点で次なるステップは何なのか? そう尋ねられたビノット代表は「ロードマップの問題だ」と語った。
「我々の場合、シェルと共にFIA、F1、そして他のチームやサプライヤーと協力して、2025年に持続可能燃料100%を実現するための正しい仕様とレギュレーションを設計しているところだ。我々はそれに向けて懸命に取り組んでいる。それが早急に必要であること、そしてモータースポーツの将来にとってそれがいかに重要か……それは十分に理解している」
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