【デイトナ24h】レクサスRC F GT3初戦「BOPの設定が苦しかった」
デイトナ24時間を戦ったレクサスRC F GT3。その開発の指揮を執ったTRDの木下美明氏に、その初レースについて訊いた。
2017年のモータースポーツ・シーズン開幕を告げるデイトナ24時間レースは、1月28〜29日の両日、アメリカ・フロリダ州にあるデイトナ国際スピードウェイで行われ、プロトタイプ・クラス初登場のキャデラックが圧倒的な速さで勝利を飾った。
このレースはIMSAシリーズ開幕戦。IMSAはWEC同様にプロトタイプからGTまでが参戦出来る耐久レースで、今回のデイトナ24時間にもプロトタイプ、GTなど合計55台のクルマがひしめいた。
GTクラスはフェラーリ、ポルシェ、コルベット、ランボルギーニなど多彩な顔ぶれだが、日本車としてはレクサスRC F GT3、アキュラNSXなどが参戦し、注目を浴びた。その中からレクサスRC F GT3の開発指揮を執ったTRD(トヨタテクノクラフト)木下美明氏にインタビューをして成果を伺った。ちなみにレクサスRC F GT3は2台が出走。1台が序盤にリタイア、もう1台は総合36位・GTDクラス14位(27台中)で完走した。
燃料容量はあと6リットル欲しかった
「スタート後2〜3時間は、走行ペースは予想より1周0.5秒ほど遅かった。平均的にクラス7位ぐらいまでは行くが、ピットに入ると13位あたりまで落ちる。給油時間が足を引っ張るわけです。給油のリストリクターが絞られていて、給油流量が少ないので時間がかかる。燃料タンクが92リッターしかないのにリストリクター径が小さいので、給油時間がライバルより4秒ほど長い。その点を指摘したが、IMSAはこのレースが終了してから様子を見て調整すると」
そう木下は振り返る。
「IMSAはシーズンを通してレギュレーションを変更していくので、こういうことが起こる。92リッターではタンク容量も少ないので、満タンでもデイトナは27周しか走れない。もう6リッター欲しいといったら、それもデイトナが終了してから考慮しましょうとのことでした。IMSAの目標は29周で、全車29周でピットへ入れたいとのこと。でもレクサスは27周しか走れない。この2周差と、給油時間が4秒から5秒余計にかかる。これが弱点でした」
「同じクラスのランボルギーニやアウディのドラフティング(スリップストリーム)には入れますが、そこから出るとまた遅くなる。最高速も4〜5マイル(6.4〜8km/h)足りませんでした。我々にとってやや厳しいレギュレーションに調整されていたのですが、我々は新参者なので仕方ない点もありました。BOP(Balance of Performance=性能調整)のある競技ですから、新しくBOPを設定した新しいクルマがいきなり勝つという状況はIMSAも避けたかったのだと思います。我々にとれば第1戦のデイトナが一番重要なイベントでしたので、ちょっと困りましたが」
【参考】BOPに関する各車の数値(1月半ばの時点)
アキュラ 重量:1300Kg 燃料:98L ターボ過給圧制限
アウディ 重量:1315Kg 燃料:90L リストリクター:39㎜
BMW 重量:1325Kg 燃料:106L ターボ過給圧制限
レクサス 重量:1330Kg 燃料:92L リストリクター:38㎜
AMG 重量:1320Kg 燃料:102L リストリクター:34.5㎜
ポルシェ 重量:1305Kg 燃料:89L リストリクター:39㎜
「リストリクター径とエンジン馬力は大体比例しています。しかし、前衛投影面積がライバルの1.5倍ほどあるレクサスは、同じ馬力でも最高速が遅いんです。対策としてリストリクター径を42㎜に上げてくれと言ったんですが、聞き入れられませんでした。少なくとも40㎜ぐらいは欲しいですね。もともとGT3のポリシーは前衛投影面積が大きいクルマは馬力を与えて最高速を合わせるというものです。だから、大きなクルマも小さなクルマも、同じ土俵で戦えるというのがポリシーなんですが」
RC Fを襲ったタイヤバースト
「レースは夜半はほとんど雨だったのですが、レクサスは雨が速かった。雨でもドライのセッティングのままです。テストでも雨のタイムは良かった。クラストップに躍り出もしました」
「でも、トップに出たと思ったらタイヤがバーストしました。2回バーストしたんです。2回目の時はドミニク・ファンバッハが乗っていて、インフィールドからオーバルに出たところでバーストしたので、ピットに帰ってくるまで距離が長かったです。バーストしたタイヤが全部はずれてくれれば良かったんですが、破れたゴムが残っていて、そのゴムに叩かれたカウルが全部なくなりました」
「タイヤ屋さんに尋ねたら、6台が同じように右後輪タイヤがバーストしたそうです。原因は構造の強度不足で、サイドのカーカスがズボッと抜けたんです。トレッド面とサイドを繋ぐショルダーの強度が弱い。僕たち以外にもアウディがそうなった。危ないということで3時間ほどもイエローが出ました」
「デイトナは特殊なコースで、ドライタイヤはデイトナ専用です。でもウエットタイヤはデイトナ用がなくて一般用。なぜならオーバルの雨のレースはないですから、タイヤの設定もありません。それで普通のタイヤを持って来たのですが、右後輪の外側のショルダーが弱くて、左後輪を右に履かせるという奇策になりました」
「なぜかというと、アメリカのサーキットは左回りが多く、キャンバーをつけたクルマは左後輪の内側のショルダーに当たりながら曲がるので、左後輪のショルダーは補強されているんだそうです。そこで左後輪を右に持ってくれば、外側が補強されている方になるので、強いんだそうです。つまり、後輪は右も左も左用のタイヤで走ったんです。それ以降は誰もバーストしませんでした」
「タイヤはコンチネンタルですが、コンパウンドが非常に硬く、チョイ濡れだと1スティント走っても新品同等なんです。ゴムは硬いんですが、構造が耐えられなかったんです。我々のレクサスは一番重量が重かったんですが、レース装備をしているので更に重く、それでトップタイムで走っていたので余計にストレスがかかったのだと思います。最初からわかっていれば加減できたのですが、残念でした」
クラッシュ、トラブル、レクサス試練の刻
「14号車はスタートから1時間40分ぐらいでスコット・プルエットがクラッシュしましたが。映像で見ていた時にはスコットの単独事故かと思っていました。スコットはぶつけられたようだと言っていたんですが」
「帰ってきたクルマを見たらリヤに少し筋が付いていました。ぶつけたというドライバーのいるチームに話を聞きに行ったら、第2コーナーで後ろギリギリにくっついて走っていて、横に移動した時にチンスポイラーでディフューザーを擦ったらしいんですね。そのクルマはコルベットで、黄色い筋が付いていました。スコットの言ってることが合っていたんです。彼はデイトナに17回出ていたんですが、もらい事故は2回目だと言っていました。こういう不運があるレースだね、と本人は言っていました」
「残った15号車は順調でしたが、日曜日の朝の10時ぐらいにステアリングを1回交換しました。ステアリングはクルクル巻かれたスイッチ類のコードが裏側にぶら下がっているのですが、そのコードがコーナリングの度に振れてドライバー・クーリング用の空気吹き出し口に当たっていたんです。それを何時間も何百周も繰り返すうちに、空気吹き出し口に当たる部分の皮膜が破れたんです。空気吹き出し口はカーボンですからね。それで破れたところがショートし始めたのでステアリングを交換しました」
「それで終わるかなと思っていたら、最後にフードが外れました。メインストレートで前のクルマのドリフティングに入った瞬間にバキッと外れたんです。右前のフードのピンの台座のところが折れていたんです。ドミニクが一度タイヤバリヤに右前から突っ込んだことがあったので、それが理由かもしれませんが、いずれにせよ急激な気圧変化で壊れたわけですから、次までには補強します」
「あとは大きな問題はありませんでした。15号車のレース走行距離は3350kmぐらいです。GTレース10回分ぐらいです」
間違っていなかった開発の方向性
「気をつけた個所はブレーキですね。ブレーキにはデイトナ特有のストレスがかかる様で、ここのようなコースでしか起きない事故がかつてBMWに2度起きています。BMWに話を聞いたのですが、ストレートが長くブレーキダクトを大きくしているとストレートで(ブレーキが)冷えすぎて困ると。しかし第1コーナーがきついので、思い切りブレーキを踏む。すると急激に(ブレーキの)温度が上がる。その熱応力のくり返しで表面からクラック(亀裂)が入るんです。でも、ダクトを絞るとブレーキがもたない。そこで我々はブレーキ交換を2回予定していました。実際には雨が降ったので1回で済ませましたが、ローターもキャリパーもパッドも全取っ替えです。安全性は譲れません」
「14号車が事故にあったあと修理をするか考えましたが、修理に3時間かかるし、スペアパーツを使ってしまっては15号車に何かあった時に修理ができない状態になる可能性があったので、14号車はリタイアすることを決めたんです。スペアのドアは1セットしかなく14のゼッケンを貼っていたのですが、ゼッケンを15に張り直して使いました」
「このRC F GT3のホモロゲーションが取れたのが1月17日頃。それから2週間後のデイトナに2台出すのは結構大変でした。我々はRC F GT3をアメリカだけでなく日本、ヨーロッパ合わせて6台出しますので、カーボンの部品などを6台分揃えるのはギリギリでした」
「今回のクルマに関しては、開発の方向性は間違っていなかったと思います。これまでは細切れでテストはしてきましたが、連続でこれほど長い距離を走ったのは初めてでした。でも、間違ってはいなかったと思います」
今のGT3はかつてのGT1のようなモノ
「ドライバーに関しては、ドミニクは速かったですね。ジャックも凄い良いドライバーでした。彼らはこのクルマはLMPマシンのような走りをすると言っています。コーナーをよれずに回るということですね。レースでは第1コーナーが苦しいのではないかという予想でした。しかし、データを見ると第1コーナーは横Gが1.2ぐらいしかからない。バンクは最終のところを抜けてくるところが一番強くて、縦Gが1.8から2ぐらい。最高速が時速177マイル(280km/h)ほどなので2Gに収まっています。インディカーだと350キロは出ているので、3Gとかそれ以上かかります」
「今まではデイトナで3回、アトランタで1回テストをしてきて、今回のレースでした。この先は2月後半にセブリングでテスト、それからセブリングのレースです。アメリカでのテスト距離はこれまでに1万km近く走り込みました。その前に日本で開発車を1万kmは走らせています。1500kmぐらいのテストを6回くらいやりましたから」
「実は今のGT3はかつてのGT1(みたいなもの)ですからね。GT1がなくなってGT2がなくなってGT3になったんですが、そこに自動車メーカーが入って来たので実質的にはGT1だと言った方が良いでしょう。5年前のGT3のコンセプトと今のGT3の現実は、レベルが違いすぎています。ホモロゲーションもルールがあってないようなものです。参加メーカーが相談しながら改造していくのでそうなるんですね」
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