「オペ前日は一睡もできなかった」MotoGP界の至宝マルケス、その引退危機を救ったスゴ腕医師に聞く
2020年に右腕を骨折したマルク・マルケス。最終的には4度の手術を受けることになったが、最後の1回を執刀した医師は、オペ前日には一睡もできなかったと振り返っている。
写真:: Gold and Goose / Motorsport Images
2020年、レプソル・ホンダのマルク・マルケスはスペインGPの転倒で、右腕の上腕骨を骨折。この影響は後を引くことになり、2022年度までに4回もの手術を受けることになった。
彼の最後の手術はアメリカのメイヨー・クリニックで行われたが、執刀医のサンチェス・ソテロ医師はオペ前日は眠れなかったと振り返っている。
スペインGPでの転倒後、マルケスは手術を受けた直後にもかかわらず連戦となるレースでの復帰を目指していた。
しかしフリー走行などは走ったものの、最終的にレース出走は断念。さらに悪いことに、過度の負荷をかけてしまったことが原因となり、2度目の手術を受けてシーズン全体を欠場することになってしまった。
そしてマルケスの受難は更に続き、年末には3度目の手術を受けた。翌年には復帰を果たしたものの、2022年には4度目となる手術を受け、長期欠場を挟んで今に至っている。
一時は『引退』も頭をよぎったというマルケス。そんな彼が受けた4回目の手術は、適切ではない回旋度で接合していた右腕上腕骨の骨を再び切断し、適切な向きでつなぎ合わせるというものだった。
手術はMotoGPライダー御用達となっている医師ではなく、世界最高峰との評価も受けるメイヨー・クリニックで行なわれた。motorsport.comは執刀医となったソテロ医師にインタビュー。当時のマルケスの状況や、手術を行なうことになった経緯、マルケスへの考えを明かした。
Marc Marquez has undergone four major operations on his arm since breaking it in 2020
Photo by: Repsol Media
──マルケスがそちらで治療を受けるというアプローチは、どのように生まれたのでしょう。
「彼はスペインで3回手術を受ける必要があった。3回目はアメリカや欧州でも著名なドクターによって行なわれたものだ。彼は私に電話をかけてくると、(2回目の術後に生じ、3回目の手術の原因となった)感染症は治ったものの、動きに問題があると訴えていた」
「最初は彼に数ヵ月の余裕を持ち、できる限り回復を試みるようにアドバイスした。その後、彼は依然としてバイクをコーナリングで上手くコントロールできず、ブレーキングで問題があると語っていた。腕を固定できず、内側に向かっているとね。そして、CTスキャンのデータも送ってくれたのだ。3Dプリントの助けを借り、彼の両腕の上腕骨を再現したんだ。片方が角度が適切ではないものだ。そして、映像でそれを見せると、彼は『手術を受ける』と語ったよ」
──なぜ遠くアメリカで手術を受ける必要があったのでしょうか?
「整形外科領域では、手術の複雑さが増すにつれ、特定の分野で経験豊富な医師を見つけることが重要になっている。そして、メイヨー・クリニックのユニークな点は、その専門性なんだ。肩と肘を専門にしているが、3Dプリンターや手に入りにくいとても多くのリソースを使うことができる」
「マルクと同様の症例をこなす頻度は低いが、年間に1~2回は行っている。基本的には同じようなことが起きた場合、多くの患者はその状態で日常生活に適応していくんだ。もしサッカー選手がああなっていたら、その人はその腕でプレイすることになれるだろう。もちろん、その場合でも髪を洗うときのように、アクションに制限はあるだろうがね」
──彼に何か制限はありますか?
「私としては、彼には何も制限は無いと思っている。むしろ以前受けていた肩(の脱臼グセの治療)の手術のほうが、問題を引き起こす可能性があると思う」
「医学的な観点からすれば、彼の上腕骨は転倒前と同じになっている。唯一疑うところがあるとすれば、それは彼のバイクを走らせることへの不安だ。もっとも、彼はその点をコントロール下に置いているように思える」
──マルケスの患者としての特徴はどんなところにありましたか?
「彼にはふたつ、非常に優れた特徴がある。そのひとつは専門家の見解を信頼することだ。彼は明確で直接的なコミュニケーションを望んでいる。そして、彼は自分のすること全てに全力なんだ」
──彼がこの4回目の手術が最善の策だということに、疑っている姿を見たことがありますか?
「彼は上腕骨の3D画像を見たとき、手術が最善の方法だと理解したんだ。あれはとても視覚的な証拠だった」
「改善の可能性を理解すると、彼はすぐにこちらへ来ると言ってきた。とても勇敢な男だ。普通、腕を骨折した患者に『もう一度骨を切る』なんて言えば、その大部分は『クレイジーだ』と言うものだ」
──失敗の可能性については話されましたか?
「細心の注意を払って計画を立てたことが助けとなった。以前彼の骨を診察した他の外科医は、骨折と同じ部位を切ることを進めていた。ただ私としては感染症があったため、リスクがあると考えていた」
「そして手術の侵襲性とリスクを最小限に抑える方法を探して、少し高い場所で骨を切ることにした。手術室では常に問題が起こる可能性があるものの、上手くいくという感覚があった。もちろん、オペの前日は一睡もできなかったがね。『神よ、全てが上手くいきますように』と思っていた」
ソテロ医師の執刀を受けたマルケスは、2022年シーズンの後半戦からレースに復帰。初期は筋力が落ちていることなどの影響もあったが、徐々に調子を上げていった。
2023年シーズンのプレシーズンテストの段階では、既に腕は復調しており、問題にはなっていない様子。それだけに2019年から遠ざかっているチャンピオンの座に、どこまで挑めるかがファンにとっては楽しみな点となるだろう。
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