【特別インタビュー】「インディは本当に楽しい」佐藤琢磨がアメリカ最高峰のレースに魅せられる理由

インディ500で3度目の優勝を目指す佐藤琢磨。アメリカでのレース活動をスタートさせて10年以上が経ったが、彼をそこまで魅了するものは何なのか?

【特別インタビュー】「インディは本当に楽しい」佐藤琢磨がアメリカ最高峰のレースに魅せられる理由

 今年もインディ500マイル・レースの時期がやってきた。1周4kmのオーバルコースを200周、800km(500マイル)で争う過酷なレースだ。世界中から30万人ともいわれる大観衆が集まり、優勝賞金数億円の激戦に一喜一憂する。この世紀の大レースを2017年、20年の2度制した佐藤琢磨。3度目の勝利はあるのか? ビッグイベントを前に大いに語った。(2回連載の1回目)

ーーまずはインディ500の話からです。今年も開催が目前ですが、琢磨さんはそのインディ500で2勝の大記録を持っています。2017年と20年。2度の勝利、自分の中で変化はありましたか?

「ありました。インディ500に勝つという意味は同じですが、1度目より2度目の方が喜びが加速したように思います。そもそも、他のレースとスケールは違い、こちらも心構えが違う。1回勝っただけで一生チャンピオンと言われる面白いレースですからね。2017年の初勝利は、本当に自分の夢が叶った瞬間でした。2012年にフランキッティに挑戦してスピンして夢が消え泣いてから、5年後の勝利でした。凄く嬉しかった。それに比べ20年はコロナ禍でのレースで、本来なら30万人以上入る観客席に誰もいない。歓声もゼロ。そんな状況下でのレースでしたが、開催してもらえたことが凄く嬉しかったですね。だって、レースがなくなる可能性だってあったんですから」

ーー危機感の中でレースをした。

「医療関係者が大変な思いをして頑張ってくれている、あるいはコロナと戦っている人がいる中で、モチベーションを上げたり勇気に繋がったりするスポーツの持つ力に加われたことが嬉しかった」

ーーそれもレイホールというチームでの勝利でした。

「17年にアンドレッティ・オートスポートで勝った時には、オーナーのマイケルも言ってましたが、『自分は弾を6発持っている』みたいな感じで、6人もチームメイトがいて、この6人の中の誰かが勝つだろうというような勝利だった。でも、20年の勝利は違いました。18年にレイホール・レターマン・ラニガンに移って、19年に3位まで上がって凄い成長を感じて、それで20年にはスコット・ディクソンとチップ・ガナッシという最強の組み合わせに真っ向から勝負してやっつけたんですから」

Winner Takuma Sato, Rahal Letterman Lanigan Racing Honda

Winner Takuma Sato, Rahal Letterman Lanigan Racing Honda

Photo by: Michael L. Levitt / Motorsport Images

ーーやっつけたという表現は、まさにその通りですね。

「そうなんです。すべて完璧でした。クルマも速かったし、ピットストップも凄くよくてミスひとつ無かったし、僕自身もミスを犯さなかった。この勝利をレイホールで達成出来たというのが嬉しくて。だって、2012年に最終ラップでクルクル回ったあのチームなんですよ。あのときのチーム関係者の落胆は計り知れないものがあったと思います。僕がピットに戻ったとき、レイホールが抱きしめてくれて『誇りに思う』と言ってくれたんですが、絶対悔しかったと思う。あれから8年、チームのみんなが僕を信じてくれていて、サポートしてくれていた。ビクトリーレーンにオーナーと上がれたのが何よりも嬉しかった」

ーーインディ500で2度勝つということはとんでもない偉業です。

「2勝目ってホントとんでもないことですが、この勝利を支えて下さった多くの方がいたからこそです。それと同時に、完璧にレース展開を自分達のものに出来たというのが嬉しかったですね。僕も17年に勝ったことで、勝つには何が必要かということがわかっていました。少なくとも先頭に出るとはどういうことか、ひとつひとつのスティントで何が必要か、ということは綺麗に組み立てられるようになったので、僕が最初の頃に出ていたレースのスタイルとは全然違う走り方になっていましたね」

ーーインディ500で勝つには最初からトップグループにいないといけませんか?

「色々な考え方がありますね。インディではイエローが出るとレースはリセットされるので、トップと同一周回にいるとある意味立て直しが出来るんです。だから、ずっと先頭を走る必要はない。でも、19年はピットストップでホイールが割れてあっという間にラップダウンになった。その後は一度も先頭を走れなかった。だから、ラップダウンな上に20位くらいから這い上がってこないといけない。すると、トラフィックの中ではトップグループを走る時に求められるものとは全然違うものが求められるんですよ。そうやって一度も先頭を走ることなく最終スティントを迎えると、これは絶対に勝てない。そういうことは本当に経験しないとわからない」

ーー集団の中から追い上げるとなると、リスクもつきものですよね。

「リスクを負えばいけると思います。でも、オーバルって何かあったときのバッファがないから一発です。なので、とにかくリスクマネージメントをして、徐々に徐々にクルマを作っていくんです。最後のトップ争いは2台ですよね。だから、そこに向けてどうやってクルマを作ろうかと。やっぱり前の方にいると事故に巻き込まれるリスクも少ない。それで先頭を交替して行くんですが、先頭走っている時にはこうとか、2番手の時はこういう動き、3番手の時はこう、と」

ーーそんなに緻密なんですね。

「それにあわせてピットストップ毎にタイヤの内圧とウイングアジャストをする。そのふたつしか出来ないんですが、クルマは全然違ってくる。それを変えていって最後に勝負に出る。20年はそれが出来ました。これがもし、ずっと後ろにいたらわからないですよね」

Takuma Sato, Rahal Letterman Lanigan Racing Honda

Takuma Sato, Rahal Letterman Lanigan Racing Honda

Photo by: Phillip Abbott / Motorsport Images

ーー2019年はそうだったのですか?

「最後のリスタート、25〜6周残っていたのかな。6番手だったのでだんだんと上がって行って3番手まで行った。でも、足りなかったんですよね。ゴールしたときはトップからきっと0.2秒くらいの後れだったと思う。800km走ってきて0.2秒後れの3位なんだけど、そのタイム差以上の隔たりがあるんですね、そこには。だから、やっぱり前にいないと」

ーーそのためには優秀なクルマも必要だし、ドライバーがそのクルマのことをよく理解していないといけない。

「F1でもインディでもトップクラスまで来るドライバーは、みんなジュニアクラスでチャンピオンになっているし、運転するというアクションに対する技術はみんな持っていて、正直誰が勝ってもおかしくないと思います。F1の様に巨大な組織になるとドライバーが担えることはそれほど大きくないけど、その中でたぐり寄せていかないといけない。インディで面白いのは、クルマがスペック(ワンメイク)シリーズに近いでしょ。エンジンメーカーが違ったりダンパーは自由だったりするんだけど、やっぱり1万分の1秒を争うカテゴリーだから、本当に微細なミスも許されない。それはドライバーもエンジニアもメカニックも同じ。メカニックひとりの技量にしても、F1と比べるとインディはアナログというか、ナットの締め方ひとつとってもダブルナットでやるわけで、最後の締め方ひとつで変わるわけです。そういう世界でやるためには、メカニックの気持ちと魂がクルマに反映されるんですよ。そういう中で、よし、こいつを勝たせようとみんなが思ってくれないと本当に上手くいかない。インディにおけるドライバーの存在は、そういう点を見るとF1より比重が大きいかもしれません。不確定要素の多い世界ですが、ドライバーのコントロールする領域が多いのがインディで、そこはやっていて本当にやり甲斐があります」

ーードライバーの重要性はF1よりインディの方が大きいということですね。

「ある意味ではそうかもしれませんね。平均的に見て、勝敗に関してクルマの占める割合は7割とか8割かもしれませんが、最後の勝負になったとき、ドライバーの発揮するエネルギーの比重はF1よりインディの方が何倍も大きいかもしれません。とはいっても、レースって本当にジグソーパズルのピースがピタリと合わないと勝てませんが」

ーー勝つというのは難しいことです。

「速いということは絶対条件ですが、それはもう要素のひとつでしかないんです。その他にレースの展開がある。その展開もドライバーは自分で作れます。たぐり寄せるというか。僕の場合にはやっぱり経験が凄く大きな力になってきました。色んなものが分かるようになってきたというのは大きな強みです」

ーーインディでは既に11シーズン走っていますが、愛着の理由は何ですか?

「愛着ですか? 何だろうね。レースが楽しい。本当に楽しい。達成感が凄い。例えば物理的にマシンだけを見るとF1の方が美しいし、テクノロジーは最先端だし、お金のかけ方が違うので、それはもう良いクルマですよ、F1マシンは。でも、そのマシンの性能によって僕はF1ではライバルから離された。そうした経験をしていると、インディカーでの可能性の高さに喜びを感じる。アンドレッティやペンスキーといったそれぞれ6台ものクルマをインディ500に出場させるトップチームと戦って、たった1台のA.J.フォイトのチームが勝てる。それこそがスポーツだと思うわけです。インディは本当に楽しいんです」(第2回に続く)

 

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