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スーパーフォーミュラに“五輪流メソッド”。元JOCスタッフが伸び悩むレース界に仕掛けた意識改革の「ゲーム」

スーパーフォーミュラには今、他のスポーツや業界での経験を活かして改革を進めようとしている人たちがいる。広報セクションの上田大介氏は、オリンピックアスリートの“視座”を高めてきた経験を基に、スーパーフォーミュラのドライバーやチームの意識改革に取り組んでいる。

スタートセレモニー

 今、スーパーフォーミュラが変わろうとしている。

 日本最高峰、アジア最高峰のフォーミュラカーレースでありながら、観客動員に伸び悩んできたスーパーフォーミュラ。「このままではシリーズが消滅してしまう」——そんな危機感から『SUPER FORMULA NEXT50』と呼ばれるプロジェクトが産声をあげたのが2021年秋で、以降シリーズを運営する日本レースプロモーション(JRP)は様々な改革を行なってきた。それはレースフォーマットや車両のテコ入れにとどまらず、レースをさらに楽しむためのアプリ『SFgo』の導入や、“にわかファン”を増やすためのプロモーション施策など、枚挙にいとまがない。

 そんな変革の最中で、JRPのスタッフの顔ぶれもかなり様変わりした。その中でも特に印象的なのは、元々異業種で働いていた人材を次々迎え入れていること。これは固定観念に捉われず、業界にとって斬新なアイデアを取り入れていく上で非常に大きな役割を果たしているはずだ。実際JRPには、モータースポーツ以外で培った経験を活かして改革を進めようとしている人たちが多くいる。

 現在JRPの広報担当として働く上田大介氏は、元々JOC(日本オリンピック委員会)で働いていた人材。北京冬季五輪の現地に派遣されていた2022年初頭にJRPとコンタクトし、そこからスーパーフォーミュラにも携わることになった。

東京五輪躍進の裏にあった、アスリートの“視座”を上げる取り組み

JRP上田大介氏

JRP上田大介氏

写真: Motorsport.com Japan

「当時は業務委託という形で、JOCの選手強化本部でインテグリティ教育事業を担当していました」

 そう語る上田氏。インテグリティ(Integrity)という言葉はあまり聞き馴染みがないかもしれないが、日本語で「誠実さ」「高潔さ」「健全さ」などを指す。上田氏がJOCに着任したのは東京五輪の開催が迫るタイミングであったが、当時の日本代表は、競技問わず様々な不祥事が続いていた。

 このままでは競技成績への影響も避けられない上に、ファンに満足に応援してもらうこともできない……そんな状況下で彼に白羽の矢が立ち、“スポーツの価値”を守るための不祥事対策に奔走することになった。

「ただ不祥事対策だと言って『アレが危ないコレが危ない』と言っても、団体も選手も耳を貸さないんですよね」と上田氏。ただ、元々スポーツ選手向け研修の経験が8年間あった上田氏は、「寝に来ている」選手たちにいかに耳を傾けさせ、行動変容を起こすかのノウハウを持っていた。講師を招いての“説教”ではなく、選手同士でコミュニケーションをとらせることで刺激を与え、アスリートとしての意識を高めるというアプローチだ。

「一番最初に取り組んだのは、選手たちの“視座”を上げようということです」

「オリンピック強化指定選手向けの基礎研修会を新たに導入しました。そこでは様々な競技の選手が集まり、お互いに話し合いをしてもらいましたが、やはり同世代で同じものを目指している選手が言っていることは、何より刺激になります」

「中途半端な気持ちで来ていた選手も、意識の高い選手にすごく刺激されていました。たった1日の研修ですが、終わりの方では自分の考えをバンバン言い始めるようになるんです」

 選手の意識を高める施策はそれだけではない。専用の情報共有アプリを作ることで、世界中で活動している選手たちが、他選手の不祥事やポジティブな出来事など様々な情報に24時間アクセスできるようにした。さらに各競技の団体に教育担当者(夏季、冬季競技合わせて計80名ほど)を置き、上田氏とのホットラインを構築。こまめな情報共有を行なった。

JRP上田大介氏

JRP上田大介氏

写真: Motorsport.com Japan

 こういった施策の効果は、味の素ナショナルトレーニングセンター(通称トレセン)にも表れた。トレセンはオリンピアンたちが泊まり込みの合宿やトレーニングを行なうことができる施設だが、選手たちをモニタリングしていた上田氏曰く、お互いに挨拶するようになったり、施設を丁寧に使うなど、選手の意識の変化が見てとれたという。

 東京五輪に向けて、より高いところの景色を見据えるようになっていった選手たち。迎えた同大会では、過去最多数のメダルを獲得。まさに、人間力なくして競技力なし——。JOCの信念は実を結んだ。

「視座が上がれば自ら成長していきます。だから(JOCで)ずっとやってきたのは、彼らに常に高いところを見せること。世界に行くのはどんな人間なのか? そういう世界レベルの人間になりたいなら、横を見ていてもダメ。目線を上げると、しょうもないこともしなくなります」

レース界に生きる者たちの「喉を乾かせる」

写真: Masahide Kamio

 そんな上田氏が、“ドライバーズファースト”を掲げるJRPから与えられたミッションは、スーパーフォーミュラに参戦するドライバーの価値をいかに上げるかということ。スポーツの価値を“守る”ための不祥事対策、インテグリティが根幹にあったJOC時代とはテーマが異なるようにも感じられるが、共通しているのはドライバーやチームの意識を変えていくということだ。

 スーパーフォーミュラを盛り上げ、その価値を高めていくためには、プロモーターによる情報発信にも限界があり、やはり選手側、チーム側と一枚岩になって発信をしていく必要がある。上田氏はその中で、「構造上の欠陥」がいくつかあることに気付いた。

「ドライバーがいくらファンを呼んだところで、彼らにはお金が入らないんですよね。チケット収入はそのままサーキットへ行くわけですから」

「私も2022年の頭に(JRPに)お声がけいただいた当初、なぜ彼らは自分のファンクラブを作ったり、発信やファンサービスに積極的ではないのだろうと考えていました。それは結局、いくら頑張ったって彼らにお金が入らないという構造も一因だと気付きました」

 そこでスーパーフォーミュラは、選手のモチベーションを上げるような取り組みにも着手。『SFgoアワード 推しドラ部門』なるものを創設し、アプリ『SFgo』内でファンから最もお気に入り選手登録されたドライバーには、賞金100万円を贈呈している。ちなみに2023年はリアム・ローソン、2024年はJujuが同賞を受賞した。

 また参戦チームに関しても、レースへの飽くなき情熱を原動力に参戦している感が強く、そのレース活動をしっかりとPRしてビジネスに活かしていくという意識がやや希薄に感じられる部分があるのも確か。これも、他の業界からやってきた上田氏にとっては驚きだったという。

昨年開催された「アフターレース・グリッドパーティー」

昨年開催された「アフターレース・グリッドパーティー」

写真: Motorsport.com Japan

「最初に自分が聞いたのは、彼ら(参戦チーム)は“レース屋さん”であって、既にスポンサーからもらっているお金で速い車をつくり、車を走らせ、“レースをすること”が目的で、お金儲けが目的じゃないということでした。しっかり広報をして、車両にある(広告)スペースを売って利益を上げる仕組みではないんです」

「そこのマインドを絶対に変えないといけないと思いました。そこ(利益を得ること)が彼らのモチベーションになっていけば、さらに良い環境になっていくと思っています」

 長くこの業界で生きてきたチームの意識を大きく変えるのは簡単なことではない。その中でも上田氏は、参戦チームの“レース屋”としてのマインドセットを逆手に取り、彼らの「競争の本能」を呼び起こすような仕掛けにトライしている。

「様々な数字をお見せして、彼らの本能である競争精神に働きかけることにしました。彼らは競うことを楽しんでいるので、負けたくないですから」

「例えばレースの前後1週間で、チームやドライバーの名前が(SNS上で)どれだけ話題になったかなどのデータを見せるんです。すると優勝しているチームが下位のチームに数字で負けていることもあります」

「それで悔しさを感じた彼らの喉も渇き始めていき、『どうやったら注目してもらえるんだろう』と思うようになります。そこに我々は間髪入れずに『表敬訪問行きましょう』『学校訪問行きましょう』『僕らがサポートしますよ』と言います。チームとしても『こんなことができるんだ』と思うわけです」

「これがスポーツの力です。そういった“ゲーム”をみんなでやっていきましょう、ということです」

写真: JRP

 実際、ここ数年はスーパーフォーミュラのドライバーがサーキットの外に出てPRする機会が格段に増えている。岩佐歩夢や太田格之進、山本尚貴らの母校訪問も然り。宮田莉朋は地元神奈川県の県知事を、B-Max Racingは拠点がある神奈川県の綾瀬市長を、それぞれ“全日本選手権”での優勝やチャンピオンという成果を手土産に訪問した。その様子は我々モータースポーツ専門メディアにとどまらず地元の新聞やテレビでも取り上げられている。彼らの名前が、外界に知られるチャンスとなっている。

「注目されることは、ほとんど良いことしかないですし、見られているチームほどしっかりしてきます。これはある意味スポーツの価値を上げること、守ることに繋がると思っています」

 上田氏はそう語った。スーパーフォーミュラをさらに発展させるためには、まだまだ課題は山積み。しかし、世界の頂点を極めた数々のアスリートを見守ってきた彼の目には、ドライバーやチームを突き動かす新たな“ゲーム”の青写真が映っている。

 

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