メルセデスF1の開発方法論。F1のブレーキを”次のレベル”に引き上げる?
メルセデスは2020年用のF1マシンW11に、空力効果を追求したブレーキシステムを採用してきた。この開発は、F1のブレーキを次のレベルに引き上げることになったのか?
写真:: Giorgio Piola
ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
Analysis provided by Giorgio Piola
メルセデスが2020年シーズン用のF1マシンとして登場させたW11。このマシンは、画期的なステアリングシステムDAS (二重軸ステアリング)やサイドポンツーンのコンセプト変更などで大きな注目を集めた。
しかしこのマシンは、ブレーキなどあまり目立たない部分も細かく改良されているようだ。
フロントブレーキのディスクベルは、チームによってその考え方が2種類に分かれる。ひとつはフェラーリなどのように、最大の剛性を求めるという考え方。もうひとつは、レッドブルなどのように極力軽くしようというモノだ。
しかしメルセデスの場合は、無数の穴が開けられている。これにより必要な剛性と軽量化を実現するだけでなく、空力効果を得ることも目指している。ただこれは、過去のF1でも見られた解決策である。
2012年、エイドリアン・ニューウェイが、レッドブルRB8で新たなソリューションを採用した後、各チームが空力効果を生むために設計をシフトしていった。
このレッドブルが投入したソリューションはブロウン・アクスルと呼ばれるモノ。ブレーキダクトから空気を取り入れ、ハブに開けられた穴から、マシンの側面方向に向けてその空気を引き抜いている。
Red Bull RB8 blown axle wheel detail
Photo by: Giorgio Piola
しかしFIAは、このデバイスを違法と認定。当時のF1レースディレクターであるチャーリー・ホワイティングは、回転するホイールとアクスルの穴を「可動空力装置」とみなし、カナダGPから使用を認めなかったのだ。
Williams FW35 front brake duct, captioned
Photo by: Giorgio Piola
しかしF1チームは、このアイデアをそのまましまっておくことはしなかった。ウイリアムズは翌シーズン、コンセプトを合法的に使うことができるアイデアを最初に見つけたのだ。
FW35は、固定されたノズルを内包したアクスルを用意した。レッドブルのソリューションは、軸が回転していたため違法とされたが、このウイリアムズのモノは軸の中心から気流を吹き出すため、違法とはならなかった。効果自体が全く同じだったわけではない可能性はあるものの、ホイールとタイヤによって生じた乱気流の一部を整えるのには十分役立ったはずだ。
この後数シーズンにわたって、各チームがこのソリューションの開発を推し進めた。しかしFIAが2019年に新たなレギュレーションを導入した際、このシステムは非合法になった。
それまでメルセデスは、フロントホイール周辺の気流コントロールは、フロントウイングに取り付けたデバイスで行なっていた。そのため、ブロウン・アクスルの開発にはあまり積極的ではなかった。
ただ2019年のレギュレーション変更により、フロントウイングの空力デバイスも規制が強化されてしまう。それらに依存していたメルセデスにとっては、厳しいレギュレーション変更だったはずだ。
そんな中メルセデスは、ブレーキの冷却とみなされる方法で、ブレーキダクトから取り入れた気流をマシンの側面に引き抜く方法を見出した。
Mercedes AMG F1 W11 brake flow
Photo by: Giorgio Piola
ドラムが外された状態のイラスト(左)を見ると、ブレーキダクトから取り入れた気流を、ブレーキディスクの外周を通るようにしてホイールの中心部に吹き出すように誘導するパイプが設けられているのがわかる。
F1のテクニカルレギュレーション第11.4.3条には、次のように規定されている。
「いかなる空気流も、中心が軸に沿い、その平面が、第12条8.2に記載されているホイールファスナーの内側面と一致する、直径105mmの円形区間を通過してはならない」
ただメルセデスは、この空力的な目的のダクトだけを設けているわけではない。他にふたつのダクトが開けられているが、これはいずれもドラムの外周部分に設けられている。
Mercedes AMG F1 W11 brake disc comparsion
Photo by: Giorgio Piola
穴が開くディスクベル。軽量化が狙い?
2019年にこの開発で成功を収め、それをさらに強化する方向で開発を進めたメルセデス。2020年のW11では、ブレーキベルが大幅に変更されることになった。
この部分については、レッドブルRB8が先駆者と言える。ベルに数多くの穴が開けられ、空気をマシンの側面に向けて吹き出している。これにより、タイヤとホイールによって生み出された乱流を整えている。
FIAがメルセデスの新しいソリューションを精査したかどうかは不明だ。しかしながらレッドブルの前例を見れば、メルセデスはこの穴について、軽量化を目指したモノだと主張するだろう。そして、空力効果は副産物であると言い張ることもできるだろう。
これは、F1チームがパフォーマンスを追求するための一例である。ほとんどの人にとっては無害であるように見えるコンポーネントが、優れた空力デバイスに生まれ変わることがあるのだ。メルセデスの設計論もそれを物語っている。他のマシンと同様、完璧さを追求するため、あらゆる手段を講じているのだ。
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