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かかるプレッシャーはドライバーと同等……もしくはそれ以上か。SFチャンピオンエンジニアが極限の戦いの中30代にして意識した“引き際”

スーパーフォーミュラ、スーパーGTで活躍する一瀬俊浩エンジニアは、自身のスキルの限界、後輩のエンジニアに対する劣等感を感じたことで、昨年末M-TECを退社した際には「この先長く続けていく自信がない」というネガティブな感情があったという。

Tomoki Nojiri, TEAM MUGEN

写真:: Masahide Kamio

 レースエンジニアとして国内トップカテゴリーで複数回タイトルを獲得してきた一瀬俊浩エンジニアが2024年をもってTEAM MUGEN(株式会社M-TEC)を退社するというニュースは、関係者やコアなモータースポーツファンにとっても驚きと言えた。

 しかしそれ以上に驚きだったのが、一瀬エンジニアがM-TECを離れるという決断をした動機には、「新しいことをやりたい」というポジティブな側面だけでなく、「自分のエンジニアリングスキルに限界を感じ始め、この先長く続けていく自信がなかった」というネガティブな側面もあったということだ。

後輩たちの活躍に感じていた劣等感と自身の限界

 一瀬エンジニア退社の報は、昨年12月の段階でパドックを駆け巡っていたが、実は彼からは当時、退社・独立を機に2025年シーズンはエンジニアとしてレースに参戦しない可能性もあると伝えられていた。その理由として挙げていたのが、前述のネガティブな側面だった。

 セルブスジャパン、M-TECと渡り歩き、スーパーフォーミュラ、スーパーGTの国内最高峰カテゴリーでトラックエンジニアとして活躍してきた一瀬エンジニア。2019年にはARTAでスーパーGT・GT300チャンピオンに輝くと、2021年、2022年にはTEAM MUGENで野尻智紀のスーパーフォーミュラ連覇に貢献した。しかもまだ30代であり、エンジニアとしての“引き際”を考えるにはあまりにも若すぎると感じられる。

 最終的にはスーパーフォーミュラで苦戦が続くThreeBond Racingから声がかかったことで、今季はエンジニアとして新たな挑戦を迎えることになった一瀬エンジニアだが、昨年自身が抱いていた負の感情について、改めて話を聞いた。

「最近で言えば、一番感じていたのは小池に対してです」

小池智彦エンジニア

小池智彦エンジニア

写真: Masahide Kamio

 一瀬エンジニアはそう切り出した。“小池”とは、TEAM MUGENの小池智彦エンジニアのこと。小池エンジニアはスーパーフォーミュラではこれまで笹原右京、リアム・ローソン、岩佐歩夢を担当し、特にローソンとのコンビでは来日1年目でチャンピオン目前というパフォーマンスを見せた。また今シーズンはスーパーGTでも、ARTAの2台を統括する立場になるという。ふたりは世代こそ近いが、小池エンジニアが後輩にあたる。

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「彼は優秀で、色々なことができるのですが、『俺はこんなに時間がかかっても、これくらいのアウトプットしかできないのか』と、劣等感のようなものを感じる時もありました」と一瀬エンジニアは続けた。

「あと昨年8号車(ARTA MUGEN)のトラックエンジニアとしてデビューした辻(凱杜)も、1年目ながらGT500で普通にやれているんですよね。自分のトラックエンジニアデビューはGT300でしたが、1年目からあのレベルになるのは僕の中では考えられなかったです。僕の場合、3年から5年でようやくなんとかなった、1人前になれたという感覚だったので」

左から辻エンジニア、野尻、一瀬エンジニア、松下信治

左から辻エンジニア、野尻、一瀬エンジニア、松下信治

写真: Masahide Kamio

「彼らとそれほど世代は変わらないですが、今の若い世代のスピード感はすごいなと。そういうところを見ていくと、この先自分は戦えないんじゃないかと思いました。彼らが経験値を得たら、とても太刀打ちできないと感じました」

 また、そういった若手エンジニアの台頭に時を同じくして、一瀬エンジニアは自身の判断力にも限界を感じた部分があるという。

 レースエンジニアというと、マシンのセッティングを決める上での分析力や思考力が求められるというイメージが強いが、レースウィークやセッション中の限られた時間の中で瞬時に判断を下していく瞬発力も非常に重要。ただ一瀬エンジニアは、その判断において過去の実績に縛られることが多くなってしまい、その結果決断に遅れが生じてしまっていると感じているようだ。

「計算ではこっちの方がいいと出ているけど、『去年こうだったから……』と。自分の計算を信じられないことで、若い人たちに対して判断のスピードと正確性が負けているなと思いました」

レースエンジニアの双肩にかかるもの

 一瀬エンジニアがこういった感覚を覚えるのも、緻密かつ迅速なデータ分析を武器に、本最高峰の舞台で極限の戦いを繰り広げてきたからこそと言えるだろう。どうしても“競技者”としてはドライバーがフィーチャーされがちだが、そのドライバーたちがそのスキルを最大限発揮できる“速いマシン”を作るのはエンジニアたちの仕事であるため、かかるプレッシャーも相当なようだ。

 一瀬エンジニアはプレッシャーの程度は「人によるとは思います」と前置きしつつ、こう続けた。

「トラックエンジニア、チーフエンジニアという立場は、ひとりのドライバーの人生や、チームの未来など全てに関わっているといっても差し支えないくらいです」

写真: Masahide Kamio

「(エンジニアの)自分が失敗したら来年スポンサーがいなくなるかもしれない、来年ドライバーの契約は更新されないかもしれない。僕はそういう結末が耐えられないので、そうならないようにと戦うのは結構プレッシャーになりますね」

「スーパーフォーミュラもドライバーが速いか遅いかに帰着しがちですが、ドライバーに求められるのはクルマの性能の100%を出せるか出せないかです。クルマの性能自体が他に対して30%劣っていれば、ドライバーがその中で100%を出したところでタイムは数秒遅れになってしまうわけです。そういう意味でも自分の影響度はかなり大きいので、レースウィーク中は緊張でえずいてしまうほどでした」

 ただ今季は常に勝利やチャンピオンが求められる環境から、入賞から遠ざかっている下位チームの立て直しという新たなチャレンジを始めることになる。一瀬エンジニアとしてもやや肩の荷が降りた感覚があるようで、「上を見るだけなので、僕もチームも気負いなく新しいトライができると思います。それが結果に結び付いてくれば、より楽しいと思えるようになるかなと。大胆に行きたいですね(笑)!」と語る。

 前述の通り、ThreeBond Racingは昨年ノーポイントと苦しんだ。昨年から所属する三宅淳詞は実力を評価されているドライバーなだけに、パッケージとしてのポテンシャルは十分。一瀬エンジニアはまず、エンジニアリングの基礎からテコ入れし、チーム力向上を目指してくことになりそうだ。

 自身を「現実主義者」と表現する一瀬エンジニアは今季の目標について、次のように語った。

「去年は1度も予選Q1を通過できていないので、まずQ1は絶対通ることをスタンダードにすることが第一歩かなと思います」

昨年はノーポイントに終わったThreeBond Racing

昨年はノーポイントに終わったThreeBond Racing

写真: Masahide Kamio

「今年はタイヤも変わりますし、チームも体制が変わって尚且つ1台体制なので高望みできるかは分かりませんが、予選・決勝のトップ3に少なくとも年1回以上いけるレベルにならないと、それ以上の結果は求められないと思います」

「MUGENやトムスやダンディライアンも勝つのが当たり前なので、勝てる状況でピットに来てもミスが起きないんですよ。勝ちに慣れてないチームにとっては、たまたま勝てるところにいても、多大なプレッシャーを受けることになるので、エンジニア、ドライバー、メカニックが何かやってしまうんですよね」

「だからこそ、それ(上位争い)が当たり前になるようなチームづくりをするという点で、トップ3に年1回以上入ることが大事かなと思います」

 

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