今更聞けないタイヤのこと(2)レーシングタイヤ基礎編〜単純に見えて奥が深い“グリップ”〜
街中を走る乗用車やオートバイ、レース用の競技車両でも使われている“タイヤ”。今回は横浜ゴムに今さら聞けないタイヤの基礎知識を取材した。
クルマやオートバイにとってなくてはならない存在“タイヤ”。しかし、我々はこのタイヤについてどれくらいのことを知っているのだろうか? 知っているようで、意外に知らないことが多いのではないか? 今回は横浜ゴムの協力を得て、今さら聞けないタイヤに関することを紹介していこうと思う。
第1回目はタイヤの基本構造や使用されている材料などについて横浜ゴムの秋山氏に解説いただいたが、第2回目は乗用車用に使われるタイヤとモータースポーツに使われるタイヤの違いに加えて、レースの世界でよく聞かれる“グリップ”についても詳しく訊いた。
レーシングタイヤと一般(乗用車用)タイヤの違いは?
乗用車用の通称『一般タイヤ』とレース専用に設計されたいわゆる『レーシングタイヤ』とでは、どのような違いがあるのだろうか?
タイヤの大きさや溝の有無などが違いとして一般的に挙げられるが、製造するにあたってのコンセプトから大きな違いがあるという。
「一般タイヤは、様々な条件下での安全性・快適性・経済性・社会適合性(環境・法規)を考慮した設計がなされています。求められる性能としては、レーシングタイヤ同様ドライ路面、ウエット路面での操縦安定性はもちろん、乗心地や静粛性(パターンノイズ、ロードノイズ、車外騒音等の低減)、転がり抵抗の低減、長期間使用を前提とした耐久性や耐候性など多岐に渡ります」
「それに対してレーシングタイヤは、限定された環境下での“速さ”を追求した設計になっています。求められる具体的な要件は、ウォームアップ性、ピークグリップ、持続性、レース距離を走りきる摩耗寿命、耐久性……レインタイヤであればこれらに加えて排水性が必要となります」
「ただ、これはタイヤコンペティションの競技の場合であり、ワンメイクタイヤの場合は性能はもちろんですが、必ずしも性能一辺倒ではなく、確実な供給と製品の均一性がより重要になります。またワンメイクタイヤを含め、市販のスリックタイヤやパターン付き競技用タイヤにおいては、ある程度の経済性(摩耗寿命、価格等)、社会適合性(環境・法規)も要求されます」
グリップとは摩擦のこと
タイヤを語る上で避けては通れないのが、グリップである。レースの現場でもドライバーのコメントなどを見ると「グリップが足りない」とか「グリップが高い」という文言をよく見るが、これは一体何のことなのだろうか?
「路面とトレッド間の摩擦がいわゆる“グリップ”です。ふたつの物体間の固有値となるので、タイヤだけで決まるものではなく相手(路面)がある話です。だから我々はグリップを高めるためにコンパウンドの開発と、路面の解析を並行して行っているわけです」
その中でレーシングタイヤはドライ路面の場合、溝のない「スリックタイヤ」を装着する。あまりモータースポーツ観戦歴が多くない人は「なぜレーシングカーのタイヤには溝がないのか?」と疑問を抱いたこともあるだろう。それは、少しでもグリップを得るためなのだ。
「レーシングタイヤの使命は速く走ることです。だから制駆動力と旋回力をより高いものにしなければなりません。つまり摩擦力を高めなければなりません。その手段のひとつとしてタイヤの溝を排除し、接地面積を最大にしたのがスリックタイヤです」
タイヤの内圧によってもグリップは変わる
さらにグリップを上げるためのひとつの手法として「空気圧の調整」がある。
「速く走るために(レース開催時などの)現場で出来ることは、グリップがより高いソフトタイヤを選択するか、低内圧(タイヤの空気圧を低く設定する)で使用して接地面積を稼ぐかです。ただ、いずれの選択も耐久性とは相反することになります」
「走行を重ねるうちに、タイヤの内圧は上昇します。特に走行前の最初の設定が高すぎると過度な内圧上昇を誘発することがあり、走行を重ねていくうちに接地面積が減り、性能が悪化してしまう。ただし、一方でたわみが抑制されるため、耐久性には有利に作用することが考えられます」
「それに対して、低圧でスタートすれば走行により到達する内圧の上限を抑制できるので、性能の持続性には有利です。さらにたわみが大きくなるため、接地面積(摩擦力)は増大します。ただしその反面、そのたわみによってタイヤが揉まれることから、耐久面では不利になります」
つまり内圧を低くすることで、タイヤの形状が路面に合わせて変形しやすくなるため、接地面積がわずかに増えるということだ。これでグリップを稼ごうとして内圧を下げる傾向が散見されるが、逆に変形量が増えることでケースへの負担が大きくなり、タイヤに負荷をかけてしまう可能性がある。
それに対し内圧が高くなれば、路面の接地面積が減り、性能が悪化してしまう。ゴム風船にたくさんの空気を入れると、パンパンに硬くなり、変形しにくくなる……それを想像していただければ、分かりやすいかもしれない。この状態はグリップ低下につながる傾向にあるが、逆に変形量が少ないためにケースへの負担が減り、タイヤへの負荷リスクを低減する。
ソフトやハードといったコンパウンドは実際どう違っているのか?
もうひとつ“グリップ”の話をする上で出てくるのが“コンパウンド”だ。以前からソフト、ミディアム、ハードといった呼び名で分けられているが、単純にゴムの硬さを表しているものではないという。
「ソフト、ミディアム、ハードの違いはコンパウンドの材料とその配合で決まります。しかし、柔らかい、硬いがそのまま単純にグリップ力の大小を示しているというわけでもありません」
「確かにソフトの方が実接地面積が大きくなりますし、負荷を吸収して路面に伝える力も大きくなります。一般的にはソフト=ハイグリップは間違いではありません。しかし壊れてしまっては摩擦力には繋がりません。マシンの高速化・高負荷化に合わせてコンパウンドの強度も増す必要が生じているのです」
「今までのように、ただソフトなだけではダメで、ある程度の強度を持った上でのグリップでなければ意味がないのです」
レースの世界ではソフトコンパウンドの方がグリップが高いと言われているが、一般タイヤになるとまた考え方は変わるとのこと。それは限られた状況下で高い性能が求められるレーシングタイヤならではの要素も影響しているという。
一般タイヤとレーシングタイヤで異なる点はまだまだある。その中でも重要なもののひとつが“ウォームアップ”だ。これについても、我々が知っているようで知らない奥深さがあるという……(次回に続く)
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