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連載|ドライバーはレース中に何を思う? "理論派F1候補生"岩佐歩夢が明かす「精神戦」

2023年シーズンもFIA F2に参戦する岩佐歩夢に、マシンを操るドライバーだからこそ理解し得る”精神的な部分”について質問を投げかけてみた。連載5回目は「ドライバーの気持ち」についてだ。

"理論派F1候補生"岩佐歩夢が明かすドライバーの「精神戦」

 FIA F2に参戦している岩佐歩夢選手にはこれまで、スリップストリームやDRS(ドラッグ低減システム)、そしてステアリングというどちらかといえばハード面について解説してもらった。

 今回はドライバーの気持ちといった精神的な側目について語ってもらった。

 ドライバーが一番緊張するのはいつなのか? オーバーテイクを仕掛けるかどうかの決断はどうしているのか? ドライバーでなければ、わからない本音を聞いてみよう。


 モータースポーツを観戦している私たちが最も興奮する瞬間というのは、日曜日のレースのスタートの瞬間だろう。しかし、ドライバーに聞くと、予選でアタックに入る緊張が一番緊張すると言う。岩佐選手はどちらの方が緊張するのだろうか?

「そのふたつであれば、やはり、予選アタックの方が緊張しますね」

 そう岩佐は答える。

「レースに関しては、もちろんフォーミュラのレースはスタートが大事になりますが、全てがスタートで決まるという訳ではないので、スタートというよりレース全体に渡って緊張しています。だから、スタートでガチガチになることはありません。それに比べると、予選はその1ラップで決勝のグリッド、F2だとスプリントレースでリバースもあるので、そこに対しても影響が出るということから、すごく大きなプレッシャーに襲われます」

 岩佐選手も予選の方が緊張するということだが、予選かレースかという二者択一ではなく、週末を通して一番緊張するのはどの瞬間なのだろうか?

「それは、やっぱりグリッドでいい位置につけている時の決勝レースの前ですね。スタートではなくて、クルマに乗り込む前……クルマに乗り込むまでが一番緊張していると思います。それはグリッド上ではなく、F2のパドックでクルマに乗り込む前です。ヘルメットとかも被っていない状況が一番緊張します」

「クルマに乗り込んでからは、緊張が一気に消えるような感じで、パドックからF1のピットレーンへ向かう試走だったり、グリッドに向かうまでのレコノサンスラップでは、もうクルマのフィーリングを感じ取るというところに集中してしまっているので、緊張はパッと消えます。ただ、クルマに乗り込むまでは、特にフロントロウのスタートだったりするとすごく緊張します。でも、すごく不思議なんですけど、実はイギリスのアパートにあるシミュレーターに乗ってレースする時の方が実際のレースよりも全然緊張するんですよね」

 人間は通常、緊張すると心拍数が上がる。岩佐選手が緊張感を持つときも心拍数が上がっているのだろうか?

「もちろん、そこはリンクしていると思いますが、心拍数が上がっていなくてもフィーリング的に緊張しているなというふうに自覚できるときも多々あります。むしろ緊張していなくても心拍数が上がることのほうがよくあります。例えば、スタートの瞬間のリアクションを良くするためには、あえて心拍数をある程度上げるようなウォームアップもしています。そのときは別に緊張はしていません」

 では、レース中の心拍数はどうなっているのか?

「レース中に関しては、全然上がらない方かなと思います。スタートしてしまえば、緊張も収まるし、トレーニングも積んでいるのであまり上がらないです。レースを終えて、コクピットを降りてきて息が上がることは基本的にないです」

Ayumu Iwasa, DAMS

Ayumu Iwasa, DAMS

Photo by: Red Bull Content Pool

 さて、ドライバーはなぜ緊張するのだろうか。少しでも良い結果を残さなければならないというプレッシャーがそうさせるのだろうか?

「僕が考えるに、緊張というのは理由がないからこそ緊張するのかなと思います。結果を出さなきゃという明確なところで緊張していれば、違う考え方をしてその緊張を自分の中でコントロールできると思うんです。でも僕が緊張しているときというのは、スタートのこともそうですし、ピットストップのこともそうですし、全てにおいて明確な理由がないときだと思います。だから、緊張している時は、自分ではどうしようもないと思っています」

 あまり緊張しすぎれば、なかなか自分のパフォーマンスが出せなくなるという一方で、緊張感がまったくなくても自分の力が出せないというケースはよく聞く。岩佐選手にとって緊張感はポジティブなモノなのだろうか、それともネガティブなモノなのか?

「基本的には、緊張感は必ずないといけないと、僕は思っています。緊張感がなければ、程よく気が張っていないということなので、集中力であったり、とっさの判断というところに関して欠けることがあって、僕の個人的な感覚では、緊張感は必ずある程度持っておかないといけないかなというふうに考えます。基本的に今シーズンを振り返ると、予選で必ず上位にいることから、常に緊張感を持ってレースに臨むことができて、それがレースでも良い結果に結びついていたと思います」

「また開幕戦のバーレーンのように、(予選でミスして)最後尾のスタートからとなった場合は、確かに緊張は少なくなるのですが、どこか吹っ切れた気持ちになって、オーバーテイクすることだけを考えて、また緊張感とは違う感覚での集中力を高められるということがあります」

 程よい緊張感を持つことがレースを戦う上で大切だとすれば、その緊張感は予選時やレースのスタート時にどのように高めているのだろうか?

「僕は、ほとんど何も特別なことはしていません。例えばレース前のグリッド上でエンジニアとメカニックがクルマから離れる際には、上位からのスタートの時はメカニックも気合いが入っていて『行くぞ!』というふうに声をかけてもらったり、エンジニアとも握手したり、グータッチしたりするので、そこで僕も緊張感がみなぎり、気合いも入ります。後方からのスタートでも、『とにかくガンガン行けよ!』っていうような感じで、エンジニアとメカニックたちがチーム全体で気合いを入れてくれるので、僕も自然と集中力を高めることができます」

Ayumu Iwasa, Dams

Ayumu Iwasa, Dams

Photo by: Red Bull Content Pool

 F2にはスプリントレース(レース1)とフィーチャーレース(レース2)の2つのレースが1イベントごとに設けられている。スプリントレースは予選のトップ10がリバースグリッドになり、ポイント制度も異なる。レース1とレース2で緊張感は違うのだろうか?

「やはりフィーチャーレースの方が、特に上位からのスタートだとプレッシャーだったり緊張感はあります。というのも、フィーチャーレースとスプリントレースでは根本的にまったく違う考え方でレースに臨んでいるからです。スプリントレースはポイントも小さいですし、予選上位のドライバーはリバースグリッドなので、フィーチャーレースに向けてのテスト、チャレンジという意味合いが強いんです。それはチームも同じで『スプリントレースで勝ちに行くぞ!』という気持ちはもちろんあるんですけども、それよりもしっかりとフィニッシュして、データを取ってフィーチャーレースに向けて、少しでもいいからクルマを改善して、ポイントが大きいフィーチャーレースでより良い結果を出すことが大事だからです」

 レースでは、戦略も重要となる。レース前にどれくらいチームと決めているのだろうか?

「基本的には、戦略はレース前にある程度決めています。オプションタイヤとプライムタイヤのどちらでスタートして、何周目にピットインするのかというのは、レース前にだいたい決めています。ただ、レースの後半に関してまでは、あまり細かくはあえて決めないようにしています。というのも、F2のレースではセーフティーカーがよく出るので、事前に決めても役に立たないからです」

「レース全体のプランをあまり細かく決めてしまうと、とっさの判断が遅れることがシーズン前半戦に何度かあって、それでレースを落としていたこともありました。その結果、お互いがその辺を見直して、今ではとにかく臨機応変に即興で対応するというような取り組み方で戦略を決めています」

「例えば、モンツァでは7番手からのスタートだったんですが、スタートでオプションタイヤと決めてからは、ピットストップのタイミングはコース上の状況を見て臨機応変に対応していました。その結果、セーフティーカーが入ったタイミングで自分の意思でピットインすることができました。このように戦略に関しても、事前に全てを決めてしまうよりも、臨機応変に対応できる緊張感を持っていた方が、いい流れをつかみ取ることができるのではないかなというふうに考えています」

 岩佐選手が指摘するように、現在のレースはF2に限らず、F1も自分ひとりで走る訳ではなく、さらにコース上でのオーバーテイクが難しいため、事前に準備した最速プランが役に立たないことが往々にしてある。そこで重要となってくるのがトラックポジションだ。順位を変える最も大きなチャンスであるピットストップのタイミングをどうするのかで、レースの行方が決まる。そのためには、事前に自分たちが何周目にピットインするかということよりも、このレースでライバルとなると考えるドライバーに合わせなければならない。いわゆる「アンダーカット」、「オーバーカット」だ。

「例えば、シミュレーションでスタート時に履いたタイヤはどれくらいペースで走れば、どれくらい持つのかというデータを元にして、ある程度ぼんやりとしたピットストップ戦略を決めるようにはしていますが、セーフティーカーのタイミングだったり、このレースでライバルとなるドライバーの動きに合わせて、自分たちの戦略を臨機応変に変えていました」

「ただそれでも自分としては後れを取っているというふうに感じていて、レッドブルの(ヘルムート・)マルコさんからもそれに関してアドバイスもあったので、シーズン中盤にエンジニアと話をして、『戦略に関してもっと攻めていきたい』という話をしました。エンジニアも納得してくれて、『後半戦はもっと攻めて行こう』ということになりました」

Ayumu Iwasa, DAMS

Ayumu Iwasa, DAMS

Photo by: Red Bull Content Pool

 さて、話をドライバーのメンタル面に戻そう。よく、アスリートが「重要な試合の前日に寝られなかった」という話を聞く。岩佐選手は今までレースの前に寝られなかったことはあるのだろうか?

「もちろん、何度もありました。でも、それはカート時代あたりで、F4以降のフォーミュラレースではほとんどないです。もちろん、今年のF2に関しても、全くそういうシチュエーションに出会ったことがありませんでした。というのも、F2は週末とても忙しくて金曜日に予選が終わったら、レースに向けてエンジニアとミーティングをして、それはだいたい夕方から夜にかけて行なわれるので、ホテルに帰る時間が遅い……正直頭も身体も全て疲れた状態でホテルに帰るので、もう後は寝るしかないないんです」 

「モンツァに関しては1番睡眠時間が短くて、土曜日のレースの後、なんでペース悪かったのかを、僕のパフォーマンスエンジニアとすごく時間をかけて話し合ったので、帰るのが遅くなりました。例えば、スプリントレースにおいてマシンが良くない状態で14位フィニッシュしたとして、自分のアジャストメントがもう少し良ければあとひとつふたつ上の順位でゴールできたのではないかや、もし翌日にまた同じような良くないマシンになっていた場合にどう対応するのが最善策なのかなどという点を夜遅くまで、ミーティングしました。ミーティングが終わったのは夜の11時半とか12時近くて、そこから帰ってホテルに着いたのが12時過ぎで、そこからシャワー浴びてすぐに寝たんですけども、次の日サーキット入りが715分とかだったので、基本的に寝る時間は少なく、そうなると寝るしかないので、余計なことを考えて眠れないなんていう暇がない(笑) 寝られないということは、まだ何かやることがあるんだと考えています」 


 なかなか画面からだけでは知ることができないドライバーの内面を知ることができたのではないだろうか。次回は、スタート直前の精神状態やスタート直後の1コーナーでの思考回路がどうなっているかなどについて岩佐選手に語ってもらう。 

 
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