ガス欠や車検違反は御法度。でも攻めないと勝てない……スーパーGTエンジニアが頭を悩ませる無数の計算
スーパーGT第6戦SUGOではレース終盤のガス欠、レース後の再車検不合格が起こるなど波乱が相次いだ。このことは、各チームのエンジニアが様々な事象を考慮しながら“ギリギリ”を攻めているという事実を改めて浮き彫りにしたと言える。
レース中に大きなアクシデントが発生し赤旗中断という波乱の展開となったスーパーGT第6戦SUGOは、その幕切れも劇的なものとなった。
GT300クラスでは、トップチェッカーを受けようとしていた52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GTが最終ラップの最終コーナーでガス欠により突如失速。その横を18号車UPGARAGE NSX GT3が駆け抜け、見事勝利を勝ち得た……かに思われたが、18号車はレース後の再車検で最低地上高違反が見つかり失格。優勝は52号車に転がり込んだ。そしてGT500クラスでも、トップチェッカーの17号車Astemo NSX-GTがスキッドブロックの厚み違反で失格に。文字通り勝者が二転三転したレースだった。
ガス欠に関しても、車検違反に関しても、各チームが勝利を目指して出来るだけ早くピット作業を終えようするために最小限の給油量となったり、レギュレーションのギリギリでのセッティングを追求している以上、こういったことは起こり得ると言える。ただこれほどまでに失格やガス欠といったトラブルが重なると「もっと計算に余裕を持たせることはできなかったのか?」と思ってしまいがちだが、レース後に埼玉トヨペットの近藤收功エンジニアから出てきた言葉が、スーパーGTというカテゴリーで勝つことの難しさ、そして各チームがどれほど強い気持ちでレースに臨んでいるかを象徴していたと言える。
「(給油量で)もう少しマージンを持てば良かったですが、(スーパーGTは)攻めないと勝てないですし、自分もGT500に負けないくらいの気持ちでやっています」
「計算やマージンの読みが甘かったので、そこは反省しないといけないなと思っています。ただ根底にあるのは、タイヤ交換のメカさんが頑張ってくれているということ。今後も精度を上げながら、給油時間を0.1秒でも削って、ギリギリ(の燃料搭載量)でトップチェッカーを受けられるようにしたいです」
では各チームはどんな事象を考慮しながら、“ギリギリ”を攻めているのか?
■給油時間の計算は単純ではない
#17 Astemo NSX-GT
Photo by: Masahide Kamio
給油に関しては、走行開始前の金曜日に各々が自チームのピット前で実際に給油を行ない、燃料の流速を複数回チェック。それを基に決勝レースでの給油時間を計算する。しかし、その時に出た数値が決勝レースでも全く同じものになるとは限らない。流速は様々な要因に左右されるため、それらをケアしないといけないのだ。
まず要因になってくるのが、燃料が供給される“給油タワー”と車両の給油口との高低差。これが大きいほど、燃料は勢い良く流れることになる。つまり流速が速くなるのだ。
「SUGOだと勾配がついている(ピットウォール側からガレージ側に向かって下り坂になっている)ので、できる限りマシンをピットガレージ側に近付けていると、流速が上がる傾向にあります」と説明するのは、前述の埼玉トヨペット近藤エンジニア。裏を返せば、レース中にピットロードの混雑によって停車位置が思わぬ形(斜め向きに“ダイブ”するなど)になると、流速はやや変化してしまう。さらに近藤エンジニアによると、給油ホースのねじれ方も一因になるといい、「なるべく無理のないような形で燃料を給油口に持っていかせようとすると、流速が上がる」とのことだ。
また、GT500クラス・Astemo REAL RACINGの田坂泰啓エンジニアは、金曜日に流速チェックを行なう際の車両と、レースを戦っている中でピットに入ってくる車両とでは燃料タンク内の圧力も異なってくるため、流速が変わる可能性があると指摘する。
「走行状態の車両が温まった状態で、燃料タンク内の圧力が負圧になっているのか正圧になっているのかも関係しています」
「負圧(燃料タンク内の圧力が低い)だと燃料を入れた瞬間にガバッと入っていくので、流速が上がります。でも正圧(燃料タンク内の圧力が高い)だと一瞬『ポコっ』といってから流れ出したり……」
「止まっている(レース中ではない)クルマとレース中のクルマにホースを挿すとき、(流速が)まるで同じかと言われると、断言するのは難しいですね」
ARTA 8号車の一瀬俊浩エンジニアは、これについてさらに詳細に説明した。曰く、暑いコンディションでは燃料タンク内の圧力が高まりやすく、想定よりも燃料が入らないケースが考えられるという。特に彼は2021年までGT300のTEAM UPGARAGEでエンジニアを務めていたということもあり、GT300が特にその影響を受けやすいという印象を持っているようだ。
「ガスバック(燃料タンク)が温められてしまうと、パーコレーション(燃料が気化してしまうこと)によりガスバック内の圧力が上がってしまい、給油ホースを入れた時にガソリンが入っていきません。特にGT300はスチール製のフレームなので、ガスバックが温まってしまいます。GT300のNSXでも、タイに行くと圧力の関係で燃料が全然入らないとか、そういったことがありましたね」
第2戦富士ではハード面のトラブルによりガス欠症状に見舞われた8号車ARTAだが、一瀬エンジニアはソフト面での給油量計算においては、最も流速が遅くなる条件、最も流速が速くなる条件で流速チェックを行ない、そこから実際のピットイン周回数と相談しながら給油時間を決めているという。
■スキッドブロック違反が続いた背景は
#23 MOTUL AUTECH Z
Photo by: Masahide Kamio
GT500クラスでは、2戦連続でスキッドブロック違反による失格車両が出た。第5戦鈴鹿では23号車MOTUL AUTECH Zの2位が取り消しとなり、前述の通り第6戦SUGOでは17号車Astemoの優勝が幻となった。
スキッドブロックとは、マシンの底面に取り付けられた板状のパーツ。新品スキッドブロックの厚みは10mmとなっているが、テクニカルレギュレーションを見ると、この厚みの最低値は4mmもしくは5mm(場所によって異なる)とされている。レース中にマシンが底を擦ることで必要以上にスキッドブロックが削れてしまうと、失格となるリスクがあるのだ。
鈴鹿での23号車NISMOの違反に関しては、レース中にタイヤが「壊れる手前」になっており、それによって車高が下がり、スキッドブロックを削ってしまったようだと日産の松村基宏総監督が説明していた。一方で17号車Astemoの田坂エンジニアは失格裁定の直後、「ウチは一番(車体の底を)擦ってない方だった」といぶかしげな表情を浮かべた。17号車に関してはスキッドブロックが局地的に削れており、車高を低くし過ぎたことによるものとは考えづらいとのことだった。
これには複数の背景が絡んでいる可能性がある。ARTAの一瀬エンジニアが仮説として挙げたのが、”ダウンフォースマシン”のNSX-GTを使うホンダ陣営と、その他の陣営との違いだ。
「ホンダ陣営はダウンフォース命で走っているので、特にマシンの底を擦らせたくありません。(気流がストールして)ダウンフォースが抜けてしまいますからね」
「日産陣営やトヨタ陣営は(レース中に)毎回煙がモクモクあがっている印象があるので、(レース毎に)新品のスキッドブロックを入れて、車高を攻めているように見えます。ただホンダ陣営は最初から薄いスキッドブロックを使っていることが多い、という可能性もあります」
「ただ、薄いスキッドブロックは強度がないので、縁石に乗ったことで割れてしまうこともよくあります。また新品スキッドブロックの厚さは10mmですが、裏側が肉抜きされている部分もあるので、当たりどころが悪いと(そこが)一瞬で無くなることもあります」
一瀬エンジニアが言うように、各チームがレースに向けて厚さ10mmの新品スキッドブロックを装着するのか、走行によってある程度削れたスキッドブロックを使うのかは判断が分かれるようだ。例えばARTA 8号車の場合、フリー走行で新品スキッドブロックを卸し、その削れ具合を確認しながら、削れ過ぎたものは予選用に回し、ある程度厚さに余裕のあるものは決勝に回す……そういった判断をしているという。
ちなみに、GT300クラスのGT3車両にはスキッドブロックが取り付けられていないが、18号車UPGARAGE NSX GT3のように最低地上高を超えてしまうと失格となる。一瀬エンジニアはSUGOで起こり得るケースの一例として、SUGOは高速で大きく右に回り込む最終コーナーがあるため、走行後に左側のスプリングがくたびれてしまい、その分車高が下がってしまう恐れもあると説明した。
ここ数戦のスーパーGTでは車検違反が頻発し、ファンが帰路につく中で結果が変わってしまうという後味の悪いレースになってしまったことも確か。しかし、このスーパーGTでより良い結果を残すためには“安全パイ”ではなく攻めの姿勢が不可欠だというのもまた、確かなことだと言えるだろう。
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