新型コロナウイルスへの対応が分かれたF1とフォーミュラE
パドックで新型コロナウイルスの感染者が確認されたことを受け、開催が中止されたF1開幕戦オーストラリアGP。しかしその判断には非常に時間がかかり、正式に発表されたのは走行開始2時間前だった。一方でフォーミュラEは、迅速に対処したように見えた。
Sam Bird, Virgin Racing, Audi e-tron FE06 Nyck De Vries, Mercedes Benz EQ, EQ Silver Arrow 01, Nico Müller, GEOX Dragon, Penske EV-4, Robin Frijns, Virgin Racing, Audi e-tron FE06
Nick Dungan / Motorsport Images
3月12日(木)の夕方、F1開幕戦オーストラリアGPに向けて準備が進められていたアルバートパーク・サーキットのパドックに衝撃が走った。前日に新型コロナウイルスへの感染が疑われ、検査を受けていたマクラーレンのチームスタッフが、陽性だとする検査結果が出たのだ。
それからの数時間は、F1にとって困難な時間となった。最終的に最初の走行セッションであるフリー走行1回目まであと2時間という時点でイベント中止が決定したが、それに到るまでに長く時間がかかったことにより、そのコミュニケーションと積極性の欠如が問題であると、SNSを中心に批判の声が高まった。商業的な問題の方が、観客やチームスタッフの健康よりも優先されるのか……そんな批判にすらさらされた。
今季の新型コロナウイルスへの対処は、非常に難しいモノだった。感染状況は日に日に変わり、政府やスポーツ団体の反応も、それに応じて流動的でなければならなかった。そうは言っても、F1の反応は他のモータースポーツよりも遅かったように見えた。
一方でフォーミュラEは、今回の状況に非常に早く対処した。フォーミュラEは、確かにF1と比べればファンも関係者の数も、動くお金の額も、はるかに小さい。しかしそれでもなお、F1が示した反応よりも圧倒的に早かったと言える。
F1オーストラリアGPの中止が発表された直後、フォーミュラEは2019-2020シーズンを2ヵ月中断することを正式に発表した。それ以前にもフォーミュラEは三亜ePrix、ローマePrix、ジャカルタePrixの延期を決定しており、それに続く2ヵ月中断の発表となった。
当然、レース延期の発表は、歓迎されるようなニュースではなかった。しかし定期的にレース開催の有無を発表したことにより、フォーミュラEは少なくとも時代を先取りしているように見えた。特に三亜ePrixは、新型コロナウイルスの影響により、開催延期を決めた最初のレースということになった。
James Calado, Jaguar Racing, Jaguar I-Type 4
Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images
レースの主催者は各地の自治体と密に協力しており、メンツを守るために待つということをする必要はない。フォーミュラEは、推測が広まるようなことを避けるためにも、自らニュースを提供することを選んだ。F1はそうはしなかった。
市街地でレースを行なうというフォーミュラEの性質上、採れる選択肢はかなり限られていた。シリーズが市内の中心部に到着したことで新型コロナウイルスの症例が急増したならば、非常に重い説明責任を負うことになっただろう。
人口が密集する環境でレースをするフォーミュラEにとって、今の状況下でレースを諦めるという決断は、より簡単な判断だった。
とはいえ言うまでもないことだが、フォーミュラEとてスケジュールを変更したくはなかった。ただでさえ今年のカレンダーは、FIA世界耐久選手権との日程重複、香港の政情不安など、組み立てるのが非常に難しかったのだ。そんな難産の上に組み上げた2019-2020年シーズンの開催日程を、もう一度作り直したい人など誰もいないのだ。
その一方でフォーミュラEは、レースが延期された週末に、別の会場でレースをしようと調整した。
Michael Masi, Race Director, Andrew Westacott, Australian Grand Prix Corporation CEO and Chase Carey, Chairman, Formula 1 talks to the press
Photo by: Dirk Klynsmith / Motorsport Images
結果的に中断前最後のレースとなったマラケシュePrixの後、フォーミュラEの全てのマシンはバレンシアのリカルド・トルモ・サーキットに運ばれた。このサーキットはプレシーズンテストの会場でもあったため、代替レースが開催される可能性も期待されていた。しかし、ヨーロッパでの新型コロナウイルスの感染が拡大したことにより、この可能性も失われた。
2019-2020シーズンは、これまで5つの開催地で開催済み。FIAチャンピオンシップとしての資格を満たすためには、フォーミュラEのスポーティング・レギュレーションで規定されている6つの開催地でレースを行なう必要がある。現時点では2ヵ月のみの中断であり、ベルリン、ニューヨーク、ロンドンのePrixは予定通り開催される予定となっている。ただ、この中断期間を延ばさなければならないことになったとしても、あと1イベントのみ開催することができれば、条件を満たすことができるということになる。
マラケシュePrixを終えた時点で、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(DSテチータ)とミッチ・エバンス(ジャガー)がランキング1-2となっている。新型コロナウイルスの感染が拡大する中では、モータースポーツを今まで通り続けることが正しいことだとは思えない。しかしながら、いつものシーズンの約半分しかない状態でタイトルを獲った場合、その価値はどのように評価されるのだろうか? しかしフォーミュラEは、シーズンを中断することによる影響を中期的に解消するための手段も手にしている。それは、シーズン再開後のイベントの一部をダブルヘッダーにするというモノだ。
チームとシリーズの主催者は、頻繁に対話を行なっている。そのため、ダブルヘッダー戦の可能性は、常に議題に上がっていた。そういう場面に対する順応性は非常に高いと言えるだろう。
なお、FIAの会長であるジャン・トッドは、F1とフォーミュラEについて次のように語っていたことがある。
「フォーミュラEは、他のカテゴリーと比較するようなモノであってはならない。一部の人は、フォーミュラEがF1の競合相手になる可能性について尋ねる。しかし、ふたつのカテゴリーは全く異なるモノだ。それぞれがそれぞれのクラスなのだ」
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