「彼女は大谷翔平のような存在になる」スーパーフォーミュラ参戦Jujuを支えるマネージャーに聞く広報メソッド。政治力よりも“マスの力”で世界最高峰目指す
スーパーフォーミュラ参戦ドライバーの中で、ひときわ注目を集めているJuju。担当マネージャーは、F1へのステップアップを目指す彼女を「みんなで支える」仕組みを作ることも、マネジメントにおけるアプローチのひとつだと考えている。
ある意味新鮮な光景だった。
東京・三軒茶屋にある日本大学の三軒茶屋キャンパスで、レーシングドライバー“Juju”(野田樹潤)の記者会見が実施された。Jujuが進学する日本大学のロゴが入った紅白の鮮やかなパーテーションが会見場を彩り、登壇者の前には彼女が参戦するスーパーフォーミュラの車両が堂々鎮座。BGMには、人気音楽ユニット『YOASOBI』の“ikura”(幾田りら)を輩出した日大芸術学部 情報音楽コースの川上央教授がこの日のために手がけた楽曲が流された。
詰めかけた一般メディアの数も多数。モータースポーツ関連の会見では報道陣が顔馴染みの面々となることが常だが、今回の会見場は普段のそれとは違った空気をまとっていた。
こういった華々しい会見というと、2022年のKONDO RACINGの体制発表を思い出す。近藤真彦監督が、歌手“マッチ”として行なっていた全国ツアーの千秋楽に、会場である豊洲PITでスーパーフォーミュラの参戦車両のカラーリングをお披露目したのだ。共にツアーを回っていた野村義男も会見に登場して掛け合いを見せ、芸能記者や多くのテレビカメラの注目が青いレーシングカーに注がれていた。ただ、近藤監督は押しも押されもせぬ芸能界のスターであって、いちレーシングドライバーがこれほど一般メディアの注目を集める会見をしたというのは、近年例がないといって差し支えないだろう。
Jujuがこれほど注目を集めているのには、様々な要因があるだろう。まず、男性ドライバーが大多数を占めるモータースポーツ界において、“女子高生レーサー”(4月からは女子大生レーサーとなるが)として欧州をはじめとする様々なカテゴリーで奮闘してきたこと。そしてその女子高生レーサーが、今年から「F1の次に速い」と言われる日本最高峰のフォーミュラカーレース、スーパーフォーミュラに挑戦しようとしていること……。
確かに、上記のような戦績やストーリーがJujuの注目や知名度に繋がったということに疑いの余地はない。しかしながら、その注目度が前例のないレベルとなりつつあるのは、上記の要素にプラスアルファして、裏方であるマネジメントサイドの広報戦略や尽力なしには語れないのではないか……そう感じずにはいられなかった。
Jujuサイドには、日本国内におけるスポンサー営業やメディアとの交渉などを担当するマネージャーが存在する。それが村司宏樹氏だ。
■「みんなでJujuを支えよう」という形に
日大で行なわれた会見。左端が村司マネージャー
Photo by: Motorsport.com / Japan
村司氏は大学卒業後からスポーツ選手やアーティストのマネジメント事業に携わり、現在はクマモトコミュニケーションズという会社の代表を務める。レース業界に携わるのはJujuのマネジメントが初めてで、彼女がデンマークF4に参戦する直前からサポートを行なっている。
「スポンサーにまつわることはなんでもやります、という感じです」
村司マネージャーは、自らの仕事内容についてそう語る。
言うまでもなく、レース活動には多額の資金が必要となることから、レーシングドライバーにとってスポンサーによる支援は欠かせない。そのため、村司マネージャーは数え切れないほど多くの企業にアプローチしているという。彼はある意味体育会的な自身のスポンサー営業を「誰にでもできること」だと表現する。
そしてそのスポンサーとなり得る企業にアピールをするためには、企業の心を打つような資料作りが必要になる。「資料づくりには命をかけている」とまで言う村司マネージャーが重要視するのは、数字。特にどれだけのメディア露出があったのかというデータは、スポンサーに交渉する上で「Jujuを応援する具体的なメリット」として武器になる。そういった認識も、一般メディアを活用しようとしている現状に寄与していると感じられる。
その後もさらに話を聞いていくと、彼らがどのような形でJujuをサポートしようとしているか、その輪郭が見えてきた。
村司マネージャーによると、Jujuサイドは大口のスポンサーだけでなく、企業が月額5万円や10万円といった少額から参入できる“サポーター”という仕組みを作りたいと考えているという。これは多数の者から支援を募る「クラウドファンディング」の考え方に近いと言えるだろう。
「これは月額5万円からできるもので、しかも企業版ふるさと納税として収めれば、負担もさらに軽減されます。こういった比較的応援しやすいパッケージも作っています」
「これはJujuを幅広く応援していただきたいと思っているからです。『うちは◯千万円以上じゃないとやりません』ということではなく、みんなに応援してもらいたい存在ですから」
Jujuを「みんなで応援する、支える」というのは、彼らの掲げるコンセプトのひとつのようだ。Jujuは世界最高峰のレースであるF1を目指すと公言しているが、ヨーロッパの世界で生き抜くために、政治的な力ではなく、“マス(集団、大衆)の力”で対抗していきたいという想いもあるという。
「彼女の今後においては、多数のファンのサポートが必要だと思っています」
「モータースポーツはヨーロッパが中心で、ヨーロッパ主義なところがあると思います。したがって、アジア人が追いやられてしまうきらいがあります。それをどうにかするには政治的な力も必要なんでしょうけど、僕はマスの力……『これだけファンがいるJuju選手をみんなで支えよう』という形に持っていくのも、サポートのひとつだと思っています」
「一部のすごくお金を持っている方だけに応援してもらうのではなく、みんなに応援してもらう形にした方が、将来的にも役に立つと思っています」
■「Jujuは大谷翔平のような存在になる」
Photo by: Motorsport.com / Japan
自動車メーカーの所属ドライバーではないJujuがスーパーフォーミュラに参戦することは、資金的にも相当大変なものであることは間違いないだろう。村司マネージャーも「やっぱり、簡単じゃないですね」と苦笑するが、実際Jujuが乗るTGM Grand Prixのマシンには多くのスポンサーロゴが貼られているとはいえ、最も目立つサイドポンツーンは空いている。
村司マネージャーがアピールするのは、Jujuがメジャーリーガーの大谷翔平のような存在になり得るということ。大谷は現代野球では不可能と思われた投手と野手の“二投流”で活躍し、エポックメイキング的な成功を収めたが、Jujuも「女性ドライバーがモータースポーツでは活躍できない」というステレオタイプを払拭することを目標に掲げている。
「僕たちのようにスポーツ選手をサポートする立場や、スポンサー企業の立場であれば、仮に大谷翔平をサポートできる企業のひとつになれるとしたら、みんな手を挙げると思います。Juju選手は大谷翔平選手のような存在になると思っています。彼が野球界を変えたように、Juju選手がモータースポーツ界を変える存在だと思います」
「そういった選手をサポートできているという点で言えば僕は幸せですし、サポートしがいがありますよね」
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