【スーパーフォーミュラ】もはや手がつけられない……野尻智紀はなぜこんなにも強いのか?

2021年スーパーフォーミュラの選手権争いを独走する野尻智紀。彼が手のつけられないほどの強さを手にした背景には何があるのか?

【スーパーフォーミュラ】もはや手がつけられない……野尻智紀はなぜこんなにも強いのか?

 2021年のスーパーフォーミュラは、野尻智紀(TEAM MUGEN)の独壇場とも言える状況となっている。野尻は開幕戦富士、第2戦鈴鹿で連勝を飾ると、第3戦オートポリス、第4戦SUGOは予選で苦しみながらもしっかりとポイントをゲット。そして第5戦もてぎでは予選で圧倒的な速さでポールポジションを獲得し、勢いそのままに見事ポールトゥウィンを達成した。

 今季は第6戦もてぎ、第7戦鈴鹿の2レースを残しているが、ここまでの野尻の獲得ポイントは76。ランキング2番手の大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)に35ポイントという大差をつけ、ポイントリーダーに君臨している。現段階では大湯はじめ関口雄飛(carenex TEAM IMPUL)、福住仁嶺(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)、平川亮(carenex TEAM IMPUL)にも逆転タイトルの可能性が残されているが、基本的には2戦2勝かつ野尻の不調が絶対条件であり、彼らからすれば状況は厳しいと言わざるを得ない。

 自身にとって初となる国内トップカテゴリーでのタイトルに向け突き進む野尻。彼はこれまでにもスーパーフォーミュラで優勝やポールポジションを獲得し、度々その速さを発揮してきたが、タイトル争いとは縁がなかった。しかし今季は文字通り手が付けられないほどのパフォーマンスを見せており、ライバルたちからも半ば呆れにも似た称賛の言葉が聞こえてくる。

今季は富士、鈴鹿を制して開幕2連勝

今季は富士、鈴鹿を制して開幕2連勝

Photo by: Masahide Kamio

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 スーパーフォーミュラ参戦8年目、今年(9月15日)で32歳を迎える野尻は、まさに“円熟期”を迎えているように見える。タイトル争いに絡むまでに時間がかかったという面ではやや遅咲きとも言えるが、彼が今季開花した背景にはどういったものがあるのだろうか?

 野尻がTEAM MUGENに加入した2019年から担当エンジニアを務める一瀬俊浩氏は、好調の要因について次のように分析する。

「彼のクルマの好みが3年目にしてだいぶ見えてきました。それによってパフォーマンスを安定させられているのが要素のひとつかなと思います」

「これまでは、野尻選手が好きなクルマのバランスを作りきれない部分がありました。彼の場合、リヤ(のグリップ)があってフロントが曲がっていくクルマが好きなんですよね。ただ、それはタイヤ特性、エアロ特性の関係で、SF19では完璧に出しきれない部分もありました」

「そこを彼も理解してくれていて、『リヤ(のグリップ不足)はある程度我慢するから』と妥協を許してくれました。彼はドライビングの幅が広く、そこをうまく合わせてくれていることも要因だと思います」

 また、TEAM MUGENと野尻はこれまで「決勝は速いが予選が遅い」「予選は速いが決勝が遅い」といった両極端なマシンに仕上がってしまう事に悩まされていたという。しかしながら今季、彼らは予選と決勝のセットアップを分けることで、これらの経験をうまく活かしているようだ。

「予選で速いクルマと決勝で速いクルマっておそらく違うんですよね」と一瀬エンジニアは言う。

「スーパーフォーミュラは予選と決勝で4、5秒タイム差があります。4秒も変わってくればコーナリングスピードもかなり変わるので、そう考えるとそれに合わせたクルマ作りをしないといけないと思います」

「サーキットに来るまでは野尻もエンジニア」

 野尻と言えば、レース前に非常に入念な準備を行なうドライバーだという評判もよく耳にする。実際野尻はどんな“準備”をしているのだろうか?

「基本、サーキットに来るまでは彼もエンジニアをやっているようなものです」

 一瀬エンジニアはそう語る。

一瀬エンジニア(左)と話し込む野尻

一瀬エンジニア(左)と話し込む野尻

Photo by: Masahide Kamio

「現場に来るまでにミーティングを2、3回行ない、『クルマをこういう風に動かして欲しいんだけど、今どうなってるんだっけ』『今はこういう風なセットアップでこういう動きをしてるよ』『違うな、もう少しこういう方向だな』……そんなやり取りをしています」

「彼はドライバーの目線とエンジニアの目線を持っています。だからサーキットに来てからあまりドタバタしないんです。彼の頭の中でクルマのイメージが既にできているんでしょうね」

 また、スーパーGTで野尻が所属するARTAでチーフエンジニアを務めるライアン・ディングルも、motorsport.comのインタビューに対して次のように語っていた。

「野尻はとても几帳面な人間だ。彼はたくさん準備をすることを好むし、クルマに対する探究心が非常にある。彼はセットアップに直接的に関わろうとするし、詳細なフィードバックをたくさんしてくれる」

 自らも“クルマ作り”に積極的に関わり、改善の提案もするという野尻に、現在のようなアプローチをとるようになった理由について尋ねてみた。

「色々なレースを戦う中で“なぜ”と思う事が多々ありました。エンジニアさんの言う理論は分かるんですけど、今それを当てはめるべきではないんじゃないかと体感的に思ったことも少なくありませんでした」

「そういったことから、『何を変えたら直るんだろう』ということを自分でも考えるようになりました」

「本来レースは全員で作っていくスポーツです。極端な言い方をすれば、以前は『僕は乗るだけ』という一方的な部分もありましたが、それは違うと感じました」

「クルマに乗って『ここがアンダーステアです。ここがオーバーステアです』と言ったところで、本来解決すべき点は解決しないと思います。大体そういう時って、アンダーを直したら次オーバーになって……そのオーバーを直したら今後はまたアンダーになって……というのが繰り返される事が多いです。そのもどかしさを自分の中でどうにかしたいと思っていました」

「そこで僕は、自分の知識と経験を言語化できるように取り組んできました。エンジニアさんともたくさん会話をしましたし、経験と知識をうまくリンクさせられるような取り組みをしてきたつもりです」 

転機となった2018年オフの合同テスト

 中でも、野尻にとって自らの考えを改める大きな転機となったのが、DOCOMO TEAM DANDELION RACINGからTEAM MUGENへと移籍する直前、2018年のシーズンオフに鈴鹿サーキットで行なわれた合同・ルーキーテスト。野尻はそのテストにTEAM MUGENから参加し、同年にチャンピオンを獲得した山本尚貴のマシンをそのまま受け継いで走ったというが、その際に大きな驚きを感じたという。

2018年の合同・ルーキーテストでTEAM MUGEN16号車を駆る野尻

2018年の合同・ルーキーテストでTEAM MUGEN16号車を駆る野尻

Photo by: Masahide Kamio

「僕は2019年からTEAM MUGENに移籍することが内々で決まっていたので、山本選手が乗っていたSF14をそのまま受け継いで走りましたが、『こんなにクルマって違うんだ』と思いました。驚くほど違っていたんです」

 野尻はそう語る。

「クルマについているパーツは全てパフォーマンスやフィーリングに作用してくるので、そういったクルマのベースの違いもあると思います。その時に僕は当然ながら乗り慣れていたダンディライアンでのセットアップを試したりしたんですけど、同じ感覚には一切なりませんでした」

 過去3度にわたってスーパーフォーミュラのタイトルを獲得した山本と、今季のスーパーフォーミュラをリードしている野尻の共通点は、どちらもエンジニアレベルの視点を持ち、クルマ作りに主体的に携わるというところにあるだろう。一瀬エンジニアは次のように語る。

「今の若いドライバーって、乗ったら速いじゃないですか」

「でも、ベテランと呼ばれる方で今も残っている方は、クルマを“外さない”能力があります。そういったベテランの味が野尻選手や山本選手にはあるのかなと思います」

 野尻の今季の活躍は、「スーパーフォーミュラは速いだけではチャンピオンになれない」ということを改めて示していると言える。先日のもてぎ戦で圧倒的な速さを見せてポールポジションを獲得した直後、野尻はインタビューで「誰よりもレースと向き合ってきた自信がある」と語っていたが、この言葉にも野尻の“強さ”の理由が集約されているのかもしれない。

 

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