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特集|ガラリと変わるフォーミュラEのシーズン9。ニューマシンやニューフェイス……幕開けを前に知っておきたい5つのこと

速くなったマシン、新たな顔ぶれ、新チーム。メキシコシティで開幕を迎えるフォーミュラEは新たな時代へと突入するが、2021-22年のシーズン8からは多くの変化が起きている。ここでは、フォーミュラEのシーズン9に向けて知っておきたい5つのことを紹介する。

Edoardo Mortara, Maserati Racing

 2023年のフォーミュラEシーズン9に先立ち、フォーミュラEでは11チームのうち10チームがドライバーラインナップを変更し、エントリーリストには様々な名前が並んでいる。これまでフォーミュラEで使用されてきたGen2マシンは役目を終え、戦闘機にインスパイアされたGen3マシンに置き換えられる。なお、このチャンピオンシップに否定的な姿勢を取る人たちに向けて言うと、ファン投票によって出力向上が行なえる「ファンブースト」は廃止された。5秒の出力向上ではほとんど差が生まれることはかったが、もう単なる”人気投票”とはならないのだ。

 開幕を前に、各チームはデリバリーされたGen3マシンを箱から出し、タミヤのプラモデルのようにマシンを組み立てていったのだろう。そして出力向上が行なわれたパワートレインを新たに搭載する機会を得たのだ。

 駆動用モーターは、これまでの250kW(340PS)から350kW(475PS)に最高出力が大幅アップ。フロントに搭載される250kWのモーターはエネルギー回生用としてのみ使用され、フロントとリヤで計600kWの回生能力を持っている。レース中に使用されるエネルギーのうち40%が回生によるもので、Gen2の25%からは大きく増加しており、フォーミュラEはこの数字に誇りを持っている。

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 ウイリアムズ・アドバンスド・エンジニアリングが設計したGen3の新バッテリーでは、これまでマクラーレン/アティエヴァ(現ルシッド・モータズ)が製造していた52kWhの旧パッケージから小型化に成功。結果として、マシンの軽量化にも貢献している。

 タイヤサプライヤーもミシュランからハンコックに変わり、新シーズンに向けて基準となるモノはほとんどない。しかしその未知の領域は、これからどんどん開拓されていくことだろう。

 そうした要素が相まって、シーズン9は本当に素晴らしいシーズンとなるかもしれない。新レギュレーションによる予想不可能性、競技フォーマットの調整、そしてリセットされた各チームの開発進度によって、一進一退のタイトル争いが展開される可能性もある。新マシンによるスペクタクルなレースが実現すれば、伸び悩むフォーミュラEのの視聴率も大きく向上するかもしれない。

 ただ、ここで問題なのが、開幕前に発生しているマシンの問題だ。Gen3に使用される共通部品の納期に遅れが生じ、メーカーがテストをキャンセルする事態が発生。新型バッテリーの開発も難航し、オーバーヒートや出力低減が頻発し、パッケージングそのものを見直す必要に迫られた。

 フォーミュラEはGen3マシンでリヤブレーキを廃止し、モーターの回生で制動能力をまかなうという大胆な選択を行なったが、走行マイレージが限られるテストの中で、ブレーキ・バイ・ワイヤーの問題に悩まされたチームもあった。

 ジャガーから参戦するサム・バードはルーマニア・カラファートで行なわれたプライベートテストでクラッシュを喫し、エンビジョン・レーシングのセバスチャン・ブエミはスペイン・バレンシアで行なわれた公式テストでマシンがシャットダウンするトラブルに見舞われた。

 不安要素ではあるものの、これはあくまでもテスト。エンジニアたちは、実戦を前に全てのトラブルを洗い出すために「マシンを壊す」必要があるとも言う。仮に開幕戦メキシコシティePrixでこれらの問題が続けば、ドライバーは危機的状況に陥るが、我々はまだその時を迎えていない。緊急ブレーキの搭載が準備されているが、開幕戦までには間に合わないだろう。

ブエミは日産からエンビジョンへ移籍したが、良い蹴り出しとはならなかった。

ブエミは日産からエンビジョンへ移籍したが、良い蹴り出しとはならなかった。

Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images

 また、フォーミュラEがシリーズのデザインを一新したことに対して、界隈の外からの反応は……控えめに言っても様々だ。新しい書体で描かれたグラフィックは非常に現代的だが、新しいロゴは賛否両論あるようだ。筆者には、2000年代初頭、スペインの田舎町にあった貸別荘ブランドを思わせるロゴだ。しかし、F1が2018年にリブランディングした時の騒動を覚えている人はいるだろうか? 次第に慣れていくことだろう。

 一方で、マシンはどうだろうか? Gen3はかつてル・マンを走ったデルタウイングを彷彿とさせるデザインとなった。画面で見ると棺桶のようで心配にもなるが、コース上ではドライバーがマシンを手懐けようとしているため、生き生きと見える。

 このピーキーさは、これまでのミシュラン製タイヤよりもハードで耐久性のあるハンコック製タイヤに起因するモノ。ただグリップ不足については、ドライバーから不満の声が上がることだろう。

 また、グリッドに並ぶマシンは色鮮やかになった。ありがたいことに、近年で増えていた暗い基調色にブルーのアクセントカラーという定番カラーリングが減っている。

 2022年12月のバレンシアテストでは、初めて全マシンの走行を見ることができた。各チームともGen3に関する理解度が異なるため、たった一度のテストからシーズン9のオーダーを占うことは至難の業だが、テストでは一人の名前がタイムシートのトップにあった。

 マセラティMSG(元ヴェンチュリ)に加入したマキシミリアン・ギュンターは、7回のテストセッションのうち5回でトップタイムをマーク。DSペンスキー(元ドラゴンペンスキー)と並んで常に上位に立っていた。マセラティとDS、ふたつのステランティスブランドは共通のハードウェアを持っており、この2チームが開幕戦での優勝候補と目されている。

 しかし、他メーカーが開発競争で秀でる可能性もある。ジャガーでテクニカルチーフを務めるフィル・チャールズは、次のように説明する。

「進化し続けるだろう。誰もが本当に急な学習曲線の上にいて、安定した状態には程遠いと考えている。面白いことになりそうだ。タイトルの揺れ動きも激しくなりそうだ」

 新時代のフォーミュラEは多くの可能性を秘めているが、それを活かすがどうかはチャンピオンシップ次第。完全オープンホイールとなったニューマシンはミスに厳しく、チームやドライバーの”計算されたリスク”には応えてくれる。レースの品質は格段に良くなるはずだ。信頼性については、Gen3時代を最高の形でスタートするためにも、テスト中に発生したトラブルの再発は避けなければならない。

新シーズンに向けて知っておきたい5つのこと

1:2度あることは3度ある? それとも3度目の正直?

Mitch Evans, Jaguar Racing

Mitch Evans, Jaguar Racing

Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images

 2度に渡りタイトルを逃し続けてきたジャガーのミッチ・エバンスにとって、シーズン9は3度目の正直となるのだろうか?

 エバンスはここ数シーズンでフォーミュラEをリードする存在へと成長し、過去2シーズンではタイトル候補に挙がっていたが、いずれも失意のうちに終わっていた。2021-22年の最終戦ベルリンePrixでは、決勝グリッドから発進できずに同じくタイトル候補だったエドゥアルド・モルタラ(現マセラティ)に追突されてチャンスが潰え、翌シーズンは第14戦ロンドンePrixでの電装系トラブルによってレースを失ったことで、最終戦ソウルePrixで勝利を収めながらもタイトルには手が届かなかった。

 しかしこのソウルでの勝利は、エバンスの心の強さを証明している。タイトル獲得のチャンスが不本意な形で潰えた次のラウンドで、優勝するだけの速さを発揮することは難しいモノだ。エバンスはその勢いを2023年以降に持ち越すに違いないが、Gen3ではアプローチを完全にリセットする必要があると彼は認めている。

「2022年のレースは全体的にとても良かったと思う」とエバンスは言う。

「そしてその勢いと自信を今季に繋げたいんだ。気持ちとしては、良い気分で期待に胸を膨らませ『今こそ、もうひとつ上を目指す時だ』と思うようになるんだ。その一方で、少し現実的なことも考えなきゃいけない。Gen2からGen3に持ち越せるモノは、それほど多くないからね」

 シーズン9に成功を収められるかどうかの多くは、ジャガーが速いマシンパッケージを提供できるかどうかにかかっている。『I-Type6』が上位勢の常連となれば、間違いなくエバンスはタイトル候補のひとりとなるだろう。

 チームメイトのバードが新レギュレーション下で復活を果たせれば、少なくともエバンスの独壇場となることはないだろう。しかしフォーミュラEというフィールドでは、誰にとってもタイトルの候補があるといえるのだ……。

2:新チームに並ぶお馴染みの顔ぶれ

ヒューズとラストがメルセデスのチームを引き継いだマクラーレンのラインナップに並ぶ。

ヒューズとラストがメルセデスのチームを引き継いだマクラーレンのラインナップに並ぶ。

Photo by: Alastair Staley / Motorsport Images

 フォーミュラEで2年連続のダブルタイトルを獲得したメルセデスはシーズン8限りでシリーズを去ったが、チームとしてはマクラーレンとしてシリーズに残っている。チーム代表のイアン・ジェームスはメルセデス撤退後もチームを存続させたいと考え、メルセデス・モータースポーツを率いるトト・ウルフCEOはチームを丸ごと売却することに。チームはブリックスワースにあるメルセデスHPPを離れ、ビスター・ヘリテージのモーターマリーナに本拠地を移した。

 マクラーレンは参戦カテゴリー拡大に向けてサウジアラビアの公共投資ファンドから支援を受け、パワートレインは当面の間、日産から供給を受けることになった。日産は低迷からの脱却を目指しており、テスト序盤にはいくつかトラブルが発生したものの、マクラーレンにとっては心強いパートナーとなっているようだ。

 イタリアの高級車ブランドであるマセラティもパワートレインのサプライヤーとしてフォーミュラEに参戦。MSGレーシングチーム(元ヴェンチュリ)のパートナーになっている。こちらもチーム自体に変更はなく、準ワークスチームとしての地位を固めるリブランディングに過ぎない。ドライバーラインナップには、過去2シーズンに渡りタイトル争いに加わってきたエースのモルタラにギュンターを迎える。

 元々マセラティはメルセデスに所属していたニック・デ・フリーズを指名していたが、そのデ・フリーズが2023年にアルファタウリからF1フル参戦を果たすことになったため、ギュンターが遅めの契約となった。しかしバレンシアテストでは最速タイムを連発しており、早くから新チームでスピードを発揮している。

3:はじめましてと久しぶり

ソウルePrixでフォーミュラEデビューを果たしたフェネストラズは、日産からフル参戦を果たす。

ソウルePrixでフォーミュラEデビューを果たしたフェネストラズは、日産からフル参戦を果たす。

Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images

 シーズン9からは、1シーズンぶりにアプトの名前がフォーミュラEに戻ってくる。彼らは2021年末のアウディ撤退に伴いシーズン8はグリッドから姿を消していたが、Gen3レギュレーションでの復帰を常に意識していた。

 チームはロビン・フラインスとニコ・ミュラーという強力なドライバーラインナップに、スペインの自動車メーカーであるクプラの支援を受け、ZF設計のマヒンドラ製パワートレインを使用する。

 ただ、バレンシアテストでは順風満帆な時間を過ごすことができなかった。アプトのトーマス・ビアマイヤー代表は、新シーズンに向けた準備を急ぐ必要があるため、チームは「良く眠れていない」と認めている。ただ、軽い試走のみでテストを迎えたことを考えれば、テスト進行が遅くなったのは無理もないだろう。

 シーズン9にはフォーミュラE復帰組が3名おり、ミュラーとレネ・ラスト、ノーマン・ナトーが帰ってくる。ラストは、アウディ離脱に伴い2022年はドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)を走っていたが、2023年からはマクラーレンからフォーミュラEを戦うこととなった。

 ナトーは2020-21年のシーズン7をヴェンチュリから参戦し、シーズン8ではジャガーのリザーブとして負傷したバードの代役としてソウルePrixに出場していた。ナトーはシーズン9に向けて日産に加入し、再びフル参戦の機会を得た。

 ナトーとチームメイトを組むのは、サッシャ・フェネストラズ。彼はナトー同様にアントニオ・ジョビナッツィの代役としてソウルePrixにドラゴン・ペンスキーから単戦ながらもフォーミュラEデビューを果たしている。フェネストラズはこれまで、3年半に渡り日本で武者修行を行ない、2023年から戦いの場をフォーミュラEに移すこととなった。

 フェネストラズがルーキーでないとすれば、ラストとマクラーレンでコンビを組むジェイク・ヒューズが唯一のルーキーと言えるだろう。FIA F2やFIA F3では財政的に厳しいチームでドライバーを務めてきたが、ついに世界選手権のレースに挑むチャンスを得た。

「今のところ、とてもポジティブだよ」とヒューズは言う。

「このシリーズに飛び込んで、基本的に自分の自然なドライビングスタイルを貫くという点では、かなり早い段階で自分のモノにできたと思う」

4:戦略家の頭脳が活きる。競技フォーマットの調整

45分+1周のレース形式で成功を手にしたポルシェだが、シーズン9からはその戦術に頼ることはできない。

45分+1周のレース形式で成功を手にしたポルシェだが、シーズン9からはその戦術に頼ることはできない。

Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images

 フォーミュラEでは、これまで45分+1周のタイムレース形式が採用されていたが、シーズン9からは周回数制が導入される。セーフティカーが出動した場合の延長制度は継続されるが、ロスタイムではなく周回数が追加されるようになる。

 2021-22年シーズンのメキシコシティePrix決勝では、ポルシェがレースペースをセーブし、故意にレースを延長させ、後続を引き離した。その戦略を成功に導いた手腕は評価に値するが、周回数制の方がより公平なレース展開になるだろう。

 シーズン9からはファンブーストが廃止され、F1でも導入されているルーキードライバーのフリー走行起用制を導入。各チームはシーズン中に少なくとも2回ルーキードライバーを起用しなくてはならない。

 また、人気の高いノックアウト方式予選にも微調整がある。Aグループ、Bグループそれぞれから準々決勝以降の”デュエル”に進出したドライバーは、デュエルでのコンディションによって有利不利が出ないようにデュエル決勝までは対峙しないようになった。

 なお、ドライバーにレース中での選択肢を与えるため、アタックモードにも変更が加えられている。これまで、通常1レースあたり4分間×2回の使用が可能となっていたが、シーズン9からは一括して4分が与えられることに。その中で、1分と3分、2分と2分、3分と1分のように分けて使用することができるようになり、バラエティに富んだ戦略が期待できる。

 フォーミュラEは2023年後半に新たなソリューションを導入しようと考えているが、それまではレーシングライン外に設けられたアクティベーションゾーンを通ることでアタックモードを起動することになる。

5:アタックチャージがもたらす新次元

フォーミュラEは年内のアタックチャージを導入を目指しており、チームは多くのことを把握する必要がある。

フォーミュラEは年内のアタックチャージを導入を目指しており、チームは多くのことを把握する必要がある。

Photo by: Sam Bagnall / Motorsport Images

 アタックチャージは、アタックモードと急速充電をひとまとめにしたモノだ。フォーミュラEがEVの課題となっていた充電問題を次のステップへ持っていきたいと考えるのは当然のことで、アタックモードと結びつけることは良い方法と言えよう。

 アタックチャージは次のように作動する。まずレース開始から15分後にピットウインドウが開き、ドライバーはウィンドウが開いている時に30秒間の急速充電を行ない、4kWhを補給。そして、ドライバーはその電力をアタックモードとして自由に使用することができるようになるのだ。

 フォーミュラEのジェイミー・ライグルCEOは、連日開催となるイベントでは片方をアタックチャージレース、もう一方をこれまでのアタックモードレースにすることで、戦略にさらなるバリエーションを加えることを示唆している。先のバッテリー開発の遅延により急速充電キットはまだ導入されておらず、フォーミュラEはシーズン9半ばの導入を目指している。

 仮にそれが実現すれば、同じ会場でのレース開催でもレース展開が一変するかもしれない。バリエーションは人生のスパイスとは良く言ったものだ。ベルリンePrixでは開催2日目にコースを逆周りするフォーマットを採っており、また違った趣がある。ダブルヘッダーでは、少し違ったフォーマットを試してみるのは良い選択肢なのだろう。

 フォーミュラEシーズン9の開幕戦メキシコシティePrix予選は、1月15日(日)午前0時40分から、決勝レースはその後午前5時03分から開始される。

 
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