F1で磨いてきた技術と人材。ホンダ浅木LPL「苦しみながら戦ってきたからこそ、急激に進歩できた」
ホンダのF1プロジェクトのラージ・プロジェクトリーダーである浅木泰昭氏は、ホンダのPU開発を振り返り、F1に参戦したからこそ、急激に開発が進歩してきたと語った。
写真:: Andy Hone / Motorsport Images
2021年限りでF1活動を終了するホンダ。10月21日にオンラインで行なわれた『シーズンクライマックス 取材会』に出席した同社のF1プロジェクトのラージ・プロジェクトリーダーである浅木泰昭氏は、F1という厳しいレースを戦ったからこそ、様々な開発が急激に進んだと語った。
浅木LPLは「技術者たちがどんな開発をしてきたのか、後世にも残しておきたい」と話し、ホンダが進めてきた技術開発の中核について説明した。
ホンダは、2018年に投入したスペック3と呼ばれるパワーユニット(PU)から、新しい燃焼コンセプトへの取り組みを始めたという。副室ジェット燃焼でノッキングが起きる前に、超高速でガスを燃焼させるという画期的なモノだったが、これにより色々な部分に想定していなかった破損が起きていった。
それに対処しながら、PUのアップデートを重ねていき、2019年からはレッドブルとタッグを組んだホンダ。市販車とはかけ離れた領域のターボを、高いシミュレーション技術ホンダジェットの開発部隊と協力して行なった。
お互いの人材を育てながら、オールホンダ体制の「いいとこ取り」で技術を進歩させていったという浅木LPL。燃料についても、ホンダの先進研究所と相談した末に新しい燃焼コンセプトに適した新燃料を開発。その調達もホンダが行ない、エクソンモービルがレギュレーションにブレンドを行なっているという。これが、2019年の日本GPで投入された”最適な燃焼を実現する”という燃料だ。
この燃料は、理論的にはカーボンニュートラル化が可能だと考えているという。浅木LPLは「レースで実証実験をしながら、世の中の役に立てないか考えていた」と明かした。
今季後半から投入された新しいエナジーストアは、電極内の材料配分を最適化させることにより、低抵抗化と小型軽量化を達成。なお、この技術に関しては特許が出願されているという。技術を公開することになるため、レース開発で特許が出願されることは滅多にないが、これも「ホンダが新しい未来のために、レースを実験の場として進めようとしていた部分だ」と浅木LPLは話した。
ホンダは今後、二輪レース活動を行なうHRC(ホンダ・レーシング)に4輪レース活動機能を追加して、モータースポーツ活動が強化していくが、浅木LPLは燃料の開発を含め、レースを実験の場として活用していくべきだと話す。
「自分たちがもがき苦しんでいる中で、変な事象が起きて、そこを追求していこうと思うか思わないか。そんな経験が技術者を育てます。どのくらい執念を持ってやっているかが、それを見逃さないか、諦めないかという根底だと思います」
「F1をやってたからこそ、こんなに急激に進歩したと信じています。レースで実験室を超えた実証実験ができるということを証明するために、今回も急いでバッテリーを投入しました。ホンダ社内でもそういうことをアピールしていきたいと思いますし、実証実験の場としてレースをオールホンダでどう活用していくかを、HRCの中でテーマとして持ってやっていくのがいいと、私は思っています」
「内燃機関の将来が見えない根本の原因は、再生可能燃料の将来が見えないことだと思います。2輪の方でも、絶対にカーボンニュートラルの方向に行くと思ってますので、燃料系では(2輪の開発部門と)コラボレーションしていくことになると思います」
「(市販車での技術活用は)燃焼についてはなかなか難しいかもしれませんが、カーボンニュートラルの燃料ですとか、ハイブリッドシステムのバッテリーやモーター、コントロールユニットが急に近づいてきて、今のF1だったら走る実験室たりえるんじゃないかと思います。そっちの方向で世の中の役に立っていけたらなと思います」
今季のF1も残り6レース。浅木LPLは、自他ともに認める世界一になれるよう、戦っていきたいと意気込んだ。
「レースを実証実験の場として、燃料やバッテリーの開発をして、世の中の役に立つということをホンダは企んでましたので、今後のレースにおいてもただレースをするだけじゃなく、そういうことに関わっていければ、世の中とのつながりも含めた役に立つ技術者を育てていくことになると思います」
「自己満足と言われないように、自他ともに認める世界一を目指して、あと数戦頑張っていきたいですね」
「今の技術者たちがなにかのリーダーになって、困難に立ち向かうときにそういう気持ちが前面に出るに違いないと信じています」
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