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【F1特集】ピットストップのしくみ……最速1.82秒の速さを裏付ける“時計仕掛けの”チームワークとトレーニング

F1のタイヤを1本変えるには何人必要なのか? ピットインの際ドライバーは何をする必要があるのか? F1のピットストップでは何が起きているのかをご紹介しよう。

Daniel Ricciardo, McLaren MCL35M, in the pits

写真:: Steven Tee / Motorsport Images

 現代のF1では、ピットボックスにマシンを止めてから4本のタイヤを交換し再びマシンが動き出すまでの時間は約3秒。これまでの世界最速記録は2019年ブラジルGPでレッドブルが記録した1.82秒と、まばたきをすれば見逃してしまうほどの速さだが、この早業は“偶然の産物”ではない。

 ピットストップはF1でのレース戦略上、非常に重要な位置を占めているため、ピットストップを担当する各チームのメカニックは日々練習を重ねている。そこでは全ての作業を完璧に行なう必要があり、スピードのみならず安定性も求められる。では、完璧なピットストップを行なうには、具体的に何がカギとなるのだろうか?

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F1のピットストップは何人で行なわれる?

 F1には人数制限は設けられておらず、1度のピット作業に20人以上が配置されていることが多い。ふたつのマシンのどちらかを担当するメカニックから選抜されたメンバーが、固定でピットクルーを組み、決勝レース中のピットストップを行なっている。

 誰かが体調を崩したり、何らかの理由によりグランプリに参加できなくなったりしない限り、ピットクルーのメンバーに変更はない。仮に欠員が出た場合はリザーブを投入することになり、その場合に備えてほとんどのチームメンバーは他のポジションを担当できるようにトレーニングを受けている。

 シーズン開始前からピットクルーはファクトリー内の練習台で何千回もの練習を積み、チームワークに磨きをかけ、それぞれのポジションが作業を最適化していく。実際には、様々なポジションに就くメカニックたちがチーム内で競い合うプロセスでもあるのだ。

ピットクルーはどのような装備を使っているのか?

 フロントノーズからマシンを持ち上げるフロントジャッキとリヤエンドからマシンを持ち上げるリヤジャッキ。かつては単なる手押し車に過ぎなかったが、現在はそれすらも高性能化されている。ジャッキはハンドルが押し下げられるとマシンが持ち上がるようになっており、時間短縮のためにマシンを自動的にジャッキオフするクイック・リリース機構が備わっている。

 また、ジャッキオフした後にスタートするマシンをクルーが妨げないよう、フロントジャッキには先端が左右に回るピボットが備わっている。その複雑さから、フロントジャッキはひとつあたり約25万ポンド(約2500万円)の費用がかかり、予備のために少なくとも2台は用意されている。

 なお、フロントウイングが破損し、フロントジャッキを使用できない場合に備え、マシンを左右から持ち上げるサイド(センター)ジャッキも用意されている。

 タイヤ(ホイール)を固定している中央のジングルナットを外したり締めたりするためのホイールガン(インパクトレンチ)もジャッキ同様に複雑だ。トルク4000Nm・10000rpm以上の速さで回転するホイールガンは、ホイールナットを緩める作業を行なうと、次の締める作業を迅速に行なえるように自動で回転方向が切り替わる。各チームのガレージには、予備も含めて24台が配備されており、ほとんどのチームがパフォーマンス向上のためにホイールガンに改造を施している。

 以前クルーはタイヤ交換が終了するとそれぞれが挙手し、作業が完了したことを知らせていたが、現在のホイールガンには作業完了を知らせるボタンが付いている。問題がない際にはそのボタンを押し、何かしらの問題が発生した場合には頭の上で腕をクロスさせて作業が完了していないことを知らせている。

Red Bull Racing wheel gun detail

Red Bull Racing wheel gun detail

Photo by: Red Bull Content Pool

ピットストップの際、クルーはそれぞれ何をしている?

 ピットストップは、クルーひとりひとりが明確な役割を持って作業にあたる。誰が何を行なうのか、順序立てて見ていこう。

  1. フロントジャッキマン(1名)は、マシンがピットボックスに飛び込んでくると最初にアクションを起こす。フロントジャッキをフロントノーズ下に滑り込ませ、ハンドルを押し下げてマシンを持ち上げると、マシン端まで移動しジャッキオフに備える。フロントジャッキマンが止まりきれなかったマシンに押され転倒したり、ジャッキが動かなくなったりした場合に備え、控えのサブジャッキが側で待機している。
  2. ホイールガンを持つガンナー(4名)は、マシンが停止したと同時に作業を開始するべくナットとホイールガンがぴったりと合うように、それぞれが銃口で制動中のマシンをなぞるように構える。ガンナーの中には、レーザーでナットをピンポイントで狙う人もいる。彼らはマシンが停止すると、瞬時にホイールを緩める作業を開始する。
  3. リヤジャッキマン(1名)がリヤジャッキでマシン後部を持ち上げる。
  4. スタビライザー・クルー(2名)がマシン左右からエアボックスの周りを持ち、ジャッキアップされたマシンがふらつかないように支える。彼らはフロントウイングにダメージがあり、フロントジャッキでマシンが持ち上げられない時には、前方に出てマシンを持ち上げることもある。
  5. 左右に控えるウイング調整クルー(2名)は、必要に応じてトルクアジャスターを用いてフロントウイングのフラップの角度を変更し、フロント周りのダウンフォース量を調整する。
  6. グローブをはめたホイール・オフ・クルー(4名)が、超高温のタイヤをスライドさせて外し、使用済みのタイヤを退ける。
  7. ホイール・オン・クルー(4名)は、それまでのタイヤが外されると瞬時に車軸へマシン停止前から持って控えていた新しいタイヤを装着する。ナットとホイールは一体化されているため、紛失するリスクは少なくなっている。
  8. 4人のガンナーが再びナットを締め付ける。全ての作業が終わったことを確認したら、ホイールガンの確認ボタンを押す。
  9. 前後のジャッキマンがジャッキをリリースすると、マシンがドスンと落とされ、4本のタイヤが接地する。これがジャッキオフ完了の合図となる。
  10. 以前はロリポップマンと呼ばれていたピットストップ・コントローラー(1名)が、全ての確認シグナルを受け取り、ピットのファストレーンにマシンが出るスペースがあることを確認した上で、マシンをリリースする。かつてはロリポップ(ペロペロキャンディ)の所以である棒の先に「ストップ/ゴー」と書かれたボードがついたモノを使用していたが、現在は、ピットに備え付けられた信号機を赤から青に変えることでマシンをリリースしている。

ピットストップでは他にどのようなことが起きる?

 ピットストップはタイヤ交換だけでは済まないこともある。捨てバイザーや市街地コースではビニール袋など、ゴミがサイドポンツーンに溜まった場合は取り除き、その後方にある冷却用ラジエーターに十分に空気が流れるようにする。

 比較的よく発生する作業としては、フロントウイングの交換がある。決勝レースのスタートには順位を上げるチャンスもある一方、接触してフロントウイングを破損する可能性も大きい。ピットに戻ったドライバーは、フロントウイングの交換だけで約10〜15秒を失うことになる。

 珍しい事例ではあるが、電気系統のトラブルによりステアリングホイールの交換を行なうこともある。ステアリングにはクイックリリース機構が備わっており、ドライバーから使用していたステアリングを受け取るクルーと新しいモノを手渡すクルーの2名がピットでマシンを待ち構える。

 アクシデント後のサスペンションチェックなど長時間を要する作業は、時間が経つにつれて苦痛に変わってくるものだ。修復が必要だと判断された場合には、クルーはマシンをジャッキアップさせ、台車に載せてガレージへ戻す。早期に修復を完了することができれば、再びレースに戻ることができるが、既に周回遅れになっているケースがほとんどであり、完走とその後のレースに向けたテストを実施することもある。

Lewis Hamilton, Mercedes W12, makes a pitstop

Lewis Hamilton, Mercedes W12, makes a pitstop

Photo by: Jerry Andre / Motorsport Images

どのようにピットストップを練習するのか?

 スイングに磨きをかけるゴルファーと同じように、ピットストップも常に正しく作業するには、繰り返しの練習が欠かせない。

 各チームはファクトリーにピット作業用の練習設備を設けており、電動のダミーマシンを使用しピットクルーは練習を重ねている。ピットストップだけでなく、メカニカルトラブルやフロントノーズの交換など起こりうるシナリオも想定した反復練習を行なっている。

 だだ、ピットレーンに傾斜がついていたり、余計なマーキングや排水溝が視界に入ったり、ガントリーとの距離が近かったり、逆に遠かったりとサーキットによってそれぞれピットの状況は違ってくる。些細な違いかもしれないが、決勝レース中の緊迫した状況下では大きな影響を与えうるのだ。

 サーキット独特の違いに慣れるべく、ピットクルーは決勝レース当日の朝も含めレース週末では毎日練習時間を確保している。ピットボックス手前の位置からマシンを手押しで停止位置まで進め、ピットクルーは決勝レース中のピットストップと同じ作業を行なう。練習プログラムはチームごとに異なるものの、1セッション当たり30分が通常だ。

 公式のフリー走行では、周回後のピットインの際に合わせて実践練習を行なう。決勝レース同様に、車速が乗ったマシンがピットボックスにやってくるため、ピットクルーはより現実的なテストを行なうことができ、ドライバーとしても正確な停止位置を見つけることができる。

ピットクルーに必要な身体能力とは?

 ピットクルーは正確なピット作業をこなすべく、多くの体力トレーニングを行なっている。強力なトルクで高速回転するホイールガンに耐えうる腕や肩の筋力、10kg以上のタイヤを軽々と持ち上げ移動する体力と俊敏さが必要となされる。

 ほとんどのチームでは、ジムでのトレーニングをベースにした体幹の持久力とパワーを向上させるフィットネスプログラムを提供している。ピット作業でのパフォーマンスを最大限に発揮するとともに、怪我のリスク軽減にも寄与している。

 具体的なピット作業はビデオ分析によってフォームが最適化される。また、タイヤ交換を担当するクルーはパワーを必要とされるため、上半身のトレーニングを増やしバルクアップを行なうこともある。

ピットストップでドライバーは何をする必要があるのか?

 ドライバーはピットウォール横のサインから自分のピットを見つけるだけでなく、正確にピットボックスへマシンを止める必要がある。

 マシンを止める位置は事前に決められており、少しでも前後左右にずれると、ピット作業を行なうためにクルーが位置を調整する手間が発生してしまい、0.6秒から1秒程度のタイムロスが生まれてしまう。最悪の場合、ルイス・ハミルトン(メルセデス/2021年ロシアGP)や小林可夢偉(当時ザウバー/2012年イギリスGP)のように、ピットクルーを跳ね飛ばしてしまうこともある。

 ドライバーはマシンをピットボックスに止めると、ギヤをニュートラルに入れてブレーキをかけておく。タイヤ交換中に前輪が動かないよう、ハンドルにはしっかりと手をかけておかなければならない。

 発進シークエンスを起動し、ピットシグナルに全神経を集中させる。発進に最適な回転数まで上げ、シグナルが赤から青に変わるとギヤを入れて、スロットルを踏み込みピットを出る。ただし、ピットレーン出口の白線を超えるまで、ピットレーンリミッターを解除してはいけない。

ガレージ位置やピットボックスのレイアウトによって、ピット作業時間に違いは生まれるか?

 各タイヤのホイールガンは、チームのガレージ前に設置されるピットボックスの脇にあるガントリーからブームを伝い、エアーホースでつながっている。ガントリーから伸びるブームにはピットシグナルの他、高解像度のスーパースローモーションカメラが設置されている。

 ピットボックスでは、それぞれのピットクルーが正確なポジションにつくべくマーキングが行なわれている。またピットストップからの蹴り出しを良くするべく埃を払い、フリー走行中にバーンアウトをしてグリップを高めている。

 ガレージの位置は、ピット入口から前年度のコンストラクターズランキング順に割り当てられている。前年にタイトルを獲得したチームはピット入口から一番近くのガレージを手にするため、ピットインを容易に行なうことができる一方、ファストレーンを通る他車とのタイミングを測る必要がある。ランキング10位のチームに割り当てられるピット出口付近のガレージはタイトである一方、ピットクルーは準備のために時間を割くことができる上、ピットアウトも容易に行なうことができる。

Lewis Hamilton, Mercedes W12, exits the pit lane

Lewis Hamilton, Mercedes W12, exits the pit lane

Photo by: Steve Etherington / Motorsport Images

なぜドライバーはピットイン/ピットアウトの際に速度を落とすのか?

 ピットレーンの速度制限は1993年のフリー走行から初導入され、翌1994年のサンマリノGP以降全セッションに適用された。サーキットによって差異はあるものの、決勝レース中はピットレーン入口から出口までは80km/hに制限されている。

 マシンのステアリングにはピットレーンリミッターのボタンがついているものの、ドライバーが手動で起動・解除を行なう必要がある。ピットレーンでの速度制限を超えた場合、1km/hごとに100ユーロ(約1万3000円)、最大で1000ユーロ(13万円)の罰金が科されることになる。罰金に加えて、グリッド降格や決勝レース中のタイムペナルティに発展する可能性もある。

 ピットレーンはふたつのエリアに分けられる。横幅3.5m以内と定められている外側のレーンがファストレーンと呼ばれるモノ。リミッターがかかっているとはいえ、最高80km/hでマシンが走行するファストレーンにチームスタッフが出て作業を行なうことは許可されておらず、彼らは内側のインナーレーン内でのみマシンに対して作業を行なうことができる。

F1における“安全なリリース”の定義とは?

 ピットアウトさせたマシンがファストレーンを走る他車の進行を妨害したり、タイヤ交換を適切に終えていない状態でピットアウトさせてしまったりすると、「アンセーフリリース」としてチームには罰金やペナルティが科されることになる。

 ピットアウトのタイミングはコントローラーに委ねられており、早くドライバーを送り出そうとするあまりに判断ミスを犯すこともある。

 コントローラーがマシンをピットアウトさせても良いタイミングを判断しやすいように、チームはピットレーンにガイダンスマーカーを設置している。マーカーはピットボックスから一定の距離を置いたところにあるため、他車とのマージンを視覚的に判断できるようになっているのだ。

David Coulthard, McLaren MP4-19B Mercedes, at pit entry with a punctured tyre

David Coulthard, McLaren MP4-19B Mercedes, at pit entry with a punctured tyre

Photo by: Motorsport Images

昨シーズン、F1のピットストップルールはどのように、そしてなぜ変更されたのか?

 2019年シーズン終了時点で、F1のピットストップは記録的なスピードに達していた。最初にも述べた通り、レッドブルはブラジルGPで1.82秒という史上最速のピットストップタイムを記録した。

 レッドブルを始めウイリアムズなどのピットクルーは2秒を切るタイムを記録し続けていたことから、FIA側はピットストップタイムが人間の反応速度を超えたのではないかと懸念。その結果、2021年シーズンのベルギーGPから新しい技術指令(TD)が導入されることになった。

 そのTDには、タイヤ交換完了からジャッキマンにマシンを下ろすシグナルが表示されるまで0.15秒、ジャッキオフからピットシグナルが赤から青に変わるまでは0.2秒という許容値が明記されている。このTDでは加えて、『いかなるセンサーシステムも、受動的にのみ作動することができる』とする技術規則第12.8.4条を遵守させるべく、ピット設備やクルーの行動を自動化してはならないとする旨が記載されている。

 これにより、導入後のピットストップタイムは3秒前後になった。FIAは、各チームのガントリー上にハイスピードカメラを設置し、このTDを守るように監視を行なっている。

 なお、2022年シーズンからは18インチホイールへの変更に伴い、ホイール自体の重量も増加。ホイール・オン・クルーには、素早いピット作業を完了するべくこれまで以上の筋力が必要とされる。また、テクニカルレギュレーションの変更により、マシンにはフロントタイヤ上部には覆いかぶさるように伸びる”オーバーホイールウイングレット”が装着されるため、タイヤ交換の際に引っ掛けることがないように丁寧な作業が求められるだろう。

 
 
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