F1マシンを彩った、過激なアイデア……後のトレンドになった”始祖的”デザインも
F1マシンには、ライバルに打ち勝つために、様々なアイデアが盛り込まれている。その中には、効果を発揮しなかったモノもある。しかしその後形を変え、今やトレンドになっているデザインも存在する。
写真:: LAT Images
70年以上に及ぶF1の歴史の中では、様々なアイデアが生み出されてきた。その中には、結果に繋がらなかったモノもあるが、アイデア自体は面白いモノもたくさんある。
本稿ではそのうちの5台をピックアップ。その独特のテクノロジーを紹介する。
■ロータス56B
F1マシンの動力源は、レシプロエンジンである。最近ではそれにハイブリッドシステムが追加され、モーターも動力源に追加された。さらに2022年からは、エタノール燃料を10%配合した、E10燃料を使わなければならないことになっている。
ただ、レシプロエンジン以外の動力源を搭載したマシンもある。それがロータス56Bである。
ロータス56は、インディカー用に開発されたマシン。そして通常のレシプロエンジンではなく、ガスタービンエンジンを搭載していた。このガスタービンエンジンは、元は航空機用のプラット&ホイットニー社製のPT6で、大きなパワーを発生させた。
そして1968年のインディ500に登場。3台が出走し、うち1台がポールポジションを獲得した。レースでも、ポールポジションからスタートしたジョー・レオナードがトップを走ったが、残りあとわずかというところでトラブルによりリタイア。残りの2台も完走することはできなかった。
このマシンは、ガスタービンエンジンを搭載していただけでなく、四輪駆動車でもあった。しかしインディカーの統括団体は、ガスタービンエンジン及び四輪駆動車の出走を事実上禁止にしてしまい、それ以降の活躍の機会は途絶えた。
しかし1971年、ロータスはF1にこの56を投入。F1用に改修され、56Bと名付けられたマシンは、3戦で走った。しかしエマーソン・フィッティパルディがドライブしたイタリアGPの8位が最高。それ以外はリタイアである。
ガスタービンエンジン車は革新的な車両だったが、その出力特性はF1のようなストップ&ゴーのレースには合わず、さらに大量の燃料を必要とするため、車両重量が重くなってしまったのも足枷となった。
■ライフL190
レシプロエンジンにも様々な例がある。気筒数は4〜16気筒までと様々であり、水平対抗やV型と、そのレイアウトも複数ある。そんな中でも異色を放つのが、1990年のライフL190に載せられたW12気筒エンジン”F35”であろう。
一般的なのは、ピストンが2列に並ぶ形式である。しかしながらこのW12エンジンは、4気筒×3列という、他に例を見ないレイアウトであった。
横幅は広くなってしまうものの、前後長はコンパクトにまとめられ、出力も十分と謳われていた。しかし実際にはマシンの戦闘力は低く、予備予選落ちの連続。ゲイリー・ブラバム、ブルーノ・ジャコメリをもってしても、予選に進むことすらできなかった。
そのためチームは、シーズン途中でW12気筒エンジンの使用を諦め、ジャッドV8に交換。しかし戦闘力向上にはつながらず、最終戦を待たずにF1撤退という結末になった。
■フェラーリF92A
ジェット戦闘機のようなノーズ、そしてサイドポンツーンのデザインにより、人気が高い1992年のフェラーリ”F92A”。しかし、本当に注目すべきはダブルフロアにある。
これはサイドポンツーン下のフロアを二重にし、サイドポンツーンとフロアの間に空気を流して、ディフューザー効果を高めようとしたのだ。そしてフロア下の気流をマシン後方に”引き抜く”作用を強め、強大なダウンフォースを発生させようとしたわけだ。
これは非常に大きな効果があったという。しかしその反面、空気抵抗は大きかったと言われている。またエンジンにも大きな問題があり、マシン本来の性能を発揮するのを阻害。さらにシーズン後半にはギヤボックスが横置きに変更されてしまったことで、ダブルディフューザーの性能が損なわれた。
エンジンが素晴らしいモノであり、開発も正しく進められていたならば、フェラーリF92Aは名車と呼ばれる1台になったかもしれない。
実際このダブルフロアで目指された効果は、今では欠かすことのできないモノだ。
最近のF1マシンは、サイドポンツーンの下部を絞り込み、マシン後方に向けて空気を綺麗に流そうとしている。これは、フェラーリF92Aと同じ考え方なのである。
■ルノーR31
2011年のF1にも、とんでもないアイデアが込められたマシンが登場した。それがルノーR31である。
前年まではイエローを基調としたカラーリングのマシンを走らせていたルノー。しかし2011年はグループ・ロータスがチームに参画したことで、マシンのカラーリングは1970〜80年代を彷彿させるブラック&ゴールドの塗り分けとなった。
ただ驚くべきはそのカラーリングではない。エキゾーストパイプのレイアウトが、他にはない独特のモノであった。
通常はマシンのリヤから、排気ガスを排出するのが常だ。しかしルノーR31のエキゾーストはサイドポンツーンの前、ディフレクターの付け根付近に設置されていた。
当時は排気ガスのエネルギーを、空力に活かそうという動きが加速していた頃。レッドブルはディフューザーの上に排気ガスを吹き出し、ダウンフォース増加に役立てようとしていた。それと同じように、ルノーも排気ガスを最大限に活用すべく、この独特のレイアウトを考えだしたのだ。
このサイドポンツーン前から吹き出した排気ガスは、サイドポンツーン下部の絞り込まれた部分を沿うように後方に向かって流れ、ディフューザーの上に向かう。これによって、フロアで発生するダウンフォース量を増やそうと考えたのだ。これは前述のフェラーリF92Aとも通ずるところがある。
また、フロントタイヤ後方で発生する乱気流をマシンの左右に飛ばす、アウトウォッシュの効果も期待されていたはずだ。
ただ実際には期待した通りのダウンフォースを生み出すことはできなかったと言われる。
本来ならば、ロバート・クビサとヴィタリー・ペトロフのコンビでシーズンに挑むはずだった。しかしクビサは、テストでR31を走らせた後に出場したラリーで事故を起こし、重症を負ってしまう。その結果、ニック・ハイドフェルドが代役を務めた。
開幕戦ではペトロフが表彰台、第2戦ではハイドフェルドが表彰台獲得と、幸先の良いスタートを切る。しかしその後はコンスタントに入賞を果たしたものの、表彰台には届かず、コンストラクターズランキング5位に終わる。
■ホンダRA107
2007年のホンダは、大いに苦戦した。入賞わずか3回。6ポイントしか獲得することができず、コンストラクターズランキングでも8位に終わった。
スポンサーロゴを一切廃し、マシン全面に地球をイメージした”アースカラー”は、発表会の時から注目を集めた。ただマシンの戦闘力は優れず、なかなかポイントを獲得できない日々が続いた。
そして第8戦フランスGP。当時のホンダ社長だった福井威夫もマニ・クールに訪れる中、ジェンソン・バトンが8位に入って1ポイントを獲得。ようやくシーズン初ポイントとなった。
ただこのマシンも、今のF1マシンの基礎になった1台とも言える。それは、サイドポンツーン上面の形状。
RA107のサイドポンツーンの上面は、後方に向かって落とし込むようなデザインになっている。これによりリヤウイングの下、そしてディフューザーの上に空気を導こうとしていたのだろう。ただ、そのサイドポンツーン上面と、そこを通るはずの気流が剥離してしまうという問題が頻発してしまったと言われており、その結果本来期待していたようなパフォーマンスを発揮することはできなかった。
しかしこのサイドポンツーンの形状は、その後トレンドに。形状こそ当時とは大きく異なるが、サイドポンツーンの後端は低く薄くなり、そこに気流を流し込むような形になっている。ハースが公開した2022年用マシンVF-22のレンダリング画像を見ても、そのトレンドは引き継がれている。
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