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コラム

“女子レーサー”というジャンルは、モータースポーツの新たな人気コンテンツとなり得るのか? 成功収めたボートレースに聞く

モータースポーツ界ではここ最近、女性限定カテゴリーが登場するなど、“女子レーサー”の活躍が目立ちはじめている。このジャンルはさらに発展していく余地があるのか? 既に女性ボートレーサーの人気が高いボートレースの関係者に聞いた。

Rio Shimono, Dr.Dry with ITOCHUENEX WECARS TEAM IMPUL, Aimi Saito, BigBoss W TEAM TOM’S, Riona Tomishita, TEAM OPTIMUS CERUMO・INGING

写真:: KYOJO CUP

 モータースポーツにおいて、女性がドライバーとして活躍するケースはこれまで非常に少なかったと言える。基本的には“男社会”と言われてきたのが自動車レースの世界だ。しかし最近では、女性にも活躍の機会を与えようとする動きが国内外で広がっている。

 例えば世界のフォーミュラカーレースに目を向けると、女性が最後にF1にエントリーしてから30年以上が経っている(1992年のジョバンナ・アマティ)。しかし、次なる女性F1ドライバーを生み出そうという動きがここ10年で活発化。Wシリーズ(2019〜2022年)、F1アカデミー(2023年〜)といった女性限定のシングルシーターカテゴリーが発足した他、各F1チームのドライバー育成プログラムにも、女性が入ることが当たり前となってきている。

 そんな動きを世界でもいち早く取り入れていたのが、元レーシングドライバー関谷正徳氏が立ち上げた女性カテゴリー『KYOJO CUP』だった。同カテゴリーは2017年に発足し、長らくVITAと呼ばれるレーシングカーで競われていたが、昨年からフォーミュラカーによるカテゴリーに変貌し、トヨタら自動車メーカーが関与を強めたことでぐっと注目度を高めた。

 ただ、KYOJOが目指すものはF1アカデミーとは異なる。関谷氏が掲げている目標は、そこからF1ドライバーを輩出することではなく、女子プロゴルフのように女性だけで争われる自動車レースをひとつのジャンルとして確立させることなのだ。そうすることで、女子選手が少女たちの憧れの対象となり、ひいては業界全体の活性化につながるという考え方だ。

 そんなKYOJO CUPも既に熱心なファンを一定数獲得しているが、モータースポーツ界における一大ジャンルを目指す上では、まだ道半ばといったところだろう。では、ここから大きく人気・知名度を伸ばしていけるポテンシャルはあるのだろうか? その問いについて考える上でのひとつのモデルケースとなるのが、ボートレースかもしれない。

“女子ボートレース”人気の理由

 というのもボートレースは、基本的には男女が共に同じ土俵で戦うという点でモータースポーツと共通しており、その中で女性のみのレースが存在する点も同じだ。ボートレースのイメージアップ・認知拡大に取り組むBOAT RACE振興会によると、“女子レース”の人気はかなり高まっているのだという。広報部・経営戦略本部の小澤雅之ゼネラルマネージャーは、「女子のレースが売り上げを牽引してきたのは間違いない」とまで言う。

 人気を支えているのは、意外と構造的な要因だったりするようだ。まず、女性ボートレーサーは基本的に男性陣の中に混じってレースをしているが、割合が少ないこともあって名前を覚えられやすい。さらに女性レーサーは特に実力差がハッキリしているため、舟券を比較的予想しやすいという側面もある。

「男子の場合は数が多いので、前に投票した選手が見当たらなかったりしますが、女子は印象に残って覚えてもらいやすかったりしますね。ちょうどいい数だと思います。そういった要素もファンを獲得しているひとつの要素じゃないかと言われています」と小澤ゼネラルマネージャーは言う。

「男性は1600人もいるのでわかりづらい部分もあるのですが、女子は実力差が大きく、A級(勝率の高い階級)のレーサーを中心に選定しやすいですから」

「ボートレースの売り上げも毎年成長してきたのですが、女子のレースが売り上げを牽引してきたというのは間違いないですね」

ボートレースには男女で規定差あり

写真: BOAT RACE振興会

 当然ながら予想して舟券を買って的中を目指すという要素はモータースポーツには存在しないため、買いやすさ云々といった話を参考にするのは難しいかもしれない。ただ、マイノリティであることから名前を覚えられやすいという側面はモータースポーツも共通していると言える。

 とはいえ、モータースポーツは活躍している女性選手の数がボートレースと比べて圧倒的に少なく感じる。その分覚えられやすいと言われればそれはそうなのだが、一定の母数がないことには発展もできないだろう。

 ちなみに、ボートレースは約1600名の選手の内、約270人ほどが女性選手。割合にして15%前後が女性なのだ。一方日本のモータースポーツ界に目を向けると、昨年国内最高峰カテゴリーのスーパーフォーミュラとスーパーGTにエントリーした女性ドライバーはJujuと小山美姫のふたりだけで、割合にすると2%弱。スーパー耐久まで含めると幾分かパーセンテージが増えるが、それでも数%というのが関の山だ。当然そこにKYOJOの女性ドライバーまで全てごちゃ混ぜにして考えると、ボートレースの男女比にもう少し近付くかもしれないが……やはりまだまだ少ない。

 言い換えるとこの男女比の差は、「男性と女性が混じった環境下において、モータースポーツはまだまだ女性が十分に活躍できていないことの証」と捉えることもできる。ボートレースでは、最高峰レースである“SG”で2022年に女性初の優勝者が誕生しているが、このことも女子レーサー人気を後押しすることになったのだという。

 この快挙を例えるならば、スーパーフォーミュラで女性が勝ったようなものか。実際にはスーパーフォーミュラでは女性の優勝どころか入賞もない。

 これはボートレースにおいて女性と男性の規定に差があることも無関係ではないだろう。ボートレースには、過度な減量による健康被害を防止するため、最低体重が規定されているのだが、男子は52kg、女子は47kgとなっている。

「旋回力は筋力や体のバランスがものを言うので男子が抜群なのですが、やはり最高速は軽い方が出ますからね」と小澤ゼネラルマネージャー。

 モータースポーツにおいては男女によって規定に差がないのが基本だが、男女の性差を考慮して規定を分けるということが、男性選手の中で女性を光らせることにつながるかもしれない。ただ2年前にTGM Grand Prixの池田和広代表がmotorsport.comの取材に語ったように、女性ドライバーの母数が少ない現状では、どういった規定が妥当なのか判断できないという指摘もある。

 そういう意味では、男女混合競技における“真の公平”とは何かを突き詰めていくよりも前に、それ以外の面で女性の参入障壁となっている部分を取り払い、女性ドライバーの“サンプル”を多く抽出していく……モータースポーツ界は現状そういったフェーズにあるのかもしれない。

KYOJOは「男子のフォーミュラよりも人気が高まる可能性がある」

 女性ドライバーの活躍機会を増やし、その活躍にスポットライトを当てるという点で大きな役割を果たすであろう存在が、前述のKYOJO CUPだ。

 “フォーミュラ元年”となった2025年のKYOJO CUPには、毎戦20人のドライバーがエントリー。開幕戦はインタープロト、そして富士スピードウェイの地方戦との併催という形ながら、2日間で8,100人もの来場者を記録するなど、注目度の高さをうかがわせた。また7月の第2戦と10月の第4戦はスーパーフォーミュラ富士大会と併催されたため、多くの観衆がその戦いを見届け、女性ドライバーの名前を覚えたことだろう。

写真: KYOJO CUP

 肝心のレースの見応えという点に関しても、概ね好評という印象。VITAからフォーミュラカーになったことでスリップストリームが効きにくくなり、追い抜きが難しくなったという声もあったが、実際のレースではクリーンながらも白熱した接近戦が各所で繰り広げられた。

 ここからさらに人気を高めていくには、PR面も重要になるだろう。ボートレースでは女子レーサーのみを取り上げた専門サイトがあり、レース情報から選手名鑑、そして彼女らの素顔が見られる動画コンテンツまで盛りだくさんとなっているが、実はKYOJO CUPもwebサイトの作りはかなり凝っている。トップページには私服のKYOJOレーサーたちのビジュアルが躍り、ドライバーそれぞれのバックグラウンドを紹介するインタビューも掲載。女性らしい美しさ、かわいらしさもフィーチャーしつつ、しっかり人となりを知ってファンになってもらえるような構造になっている。

 アスリートのいわゆる“アイドル売り”は賛否が分かれるものであり、レースの現場でも様々な意見を耳にする。極端なアイドル路線に走ると一過性のものになる可能性もあるし、「レースを愛し、レーシングアスリートとして彼女らをリスペクトして応援してくれるファン」がつきにくくなってしまうかもしれない。そこは長期的な人気拡大において懸念される点であり、ある程度慎重になる必要はあるだろう。

 一方で、女性ならではの武器を活かさない手はない。2024年のKYOJOチャンピオンである斎藤愛未も、女性がレーシングドライバーを職業にできる環境を作っていきたいと語っており、その上で「女性ならではの華やかさなど、良い部分もたくさんあります。男性のレースとはまた違った新しいレースの形として、モータースポーツを盛り上げていきたい」と話していた。

 ボートレースも、前述のような「予想のしやすさ」など様々な人気の要因があるにせよ、女子レーサーのビジュアルに惹かれたファンからの“推し活”的な需要も増えているという。

 BOAT RACE振興会 広報部の角田寛和氏は、初の女子戦が1954年(昭和29年)に開催されたボートレースも、女性レーサーの人気が高まるまでに時間がかかったとして、「KYOJOもここから10年経ったら、男子のフォーミュラよりも人気が高くなる可能性が絶対あります」と語る。

 モータースポーツにおいて女性のみのカテゴリーができたことは、間違いなく画期的な出来事であった。ただそれも、長い自動車レースの歴史からすればごく最近の出来事に過ぎない。5年10年先の景色は分からない。ただ、“女子レーサー”という新たなジャンルが、業界をさらに明るくする……そんな未来であってほしい。

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