ドライバーとマシンの“感情”はシンクロすることも、分かれることもある。『Pepper』生みの親の東大准教授が研究成果を熱弁。今後は“推し車両”との対話も可能?
スーパーフォーミュラ鈴鹿テストの期間中に行なわれた記者会見では、現在進行中で取り組まれているマシンの”感情生成”などに関する研究の進捗が報告された。
2月21日に始まったスーパーフォーミュラ公式合同テストの初日、シリーズを主催する日本レースプロモーション(JRP)の記者会見が行なわれた。その中では、JRPが『SF NEXT 50』プロジェクトで進めている「マシンの”感情生成”と音声によるドライバーの感情分析、人工自我研究を通した、エンターテインメントの可能性を探るプロジェクト」の進捗が報告された。
東京大学の道徳感情数理工学講座と共同で、人工自我の研究を行なっていくと発表されてから2年。スキンヘッドで冬にもかかわらずタンクトップという季節を感じさせない出立ちの男性が再びJRPの会見に登場した。何を隠そう、彼こそが東大で上記の研究を進める光吉俊二特任准教授。光吉准教授は、ソフトバンクのロボット『Pepper』に感情を吹き込んだ男としても有名だ。
光吉准教授が取り組んできたのが、レーシングカーに感情を吹き込み、自我を持たせるというもの。彼がイメージしているのは、アメリカのドラマ『ナイトライダー』に登場する、自我を持って言葉を話すクルマ『ナイト2000』だといい、彼独自のアルゴリズムを駆使することで、マシンから吸い上げたデータを“感情”として表現するのだという。
「レーシングカーに感情を持たせると、別次元の楽しみができ、新しいファンを生むことができるだろう、ということです」と光吉准教授は言う。
「車載情報が、クルマの生体信号として出ます。これに私のアルゴリズムを通すと、ホルモンが出てきます。このホルモンが変化すると、感情が生まれるというメカニズムを作りました」
映像を使って説明する、東京大学 道徳感情数理工学講座 共同研究員 朝長康介博士
Photo by: Motorsport.com / Japan
速度域やタイヤの温度、内圧、そして燃料搭載量といった車体のデータを、ドーパミンやセロトニンといったホルモンに置き換え。そのホルモンの分泌に応じて、今マシンの感情が「楽しい」のか「きつい」のか「苛立たしい」のかなどがデータとしてあらわれる、というのだ。2年前の会見でも既にそのフォーマットが公開されていたが、今回はスーパーフォーミュラの実際のレースで確認された“感情”の事例が報告された。
特に「ドライバーのマシンの感情が分かれた興味深いケース」として紹介されたのが、昨年の第4戦オートポリスでの大湯都史樹と阪口晴南の接触だ。
同レースの終盤、ポジションを争っていた大湯と阪口はジェットコースターストレートのストレートエンドで接触。大湯はグラベルでストップし、無線で悔しさを爆発させた。
一方で、車両の“感情”は異なっていた。接触した直後は「きつい」「つらい」といった感情が出ていたものの、車両としての激しい運動がストップした“安堵”からか、大湯は激昂する傍らで「楽」「安心」といった感情に。しかしその後は、「速く走りたい」というレーシングカー特有の欲求を満たせなくなったからか、一気に「つらい」「悔しい」「苛立たしい」といった感情が噴き出してきた。これは「狙ったわけではなく、走行データから出てきたもの。これを楽しんでほしい」という。
また、ドライバーの無線の声から感情を読み取ることで、マシンとドライバーの感情の“シンクロ率”を表示するという研究も進んでいる。今後は、「マシンとレーサーのシンクロ率がスピードや順位にどれだけ影響するのか、そこにも踏み込んでいきたい」とのことだ。
光吉准教授はこう熱弁した。
「レースではマシンもドライバーもメカニックも命懸けなので、純粋なデータが出る。だからとてもドラマティックなシンクロが出るんです」
これらの研究に関してJRPは「この研究をエンターテインメントに昇華するために、ファンにどう見せるか、などを検討しています」と補足。感情が吹き込まれたマシンに問いかけて対話をさせるような仕組みを展開できるかどうかを含めて模索していくという。
巷では『ChatGPT』のようなAI(人工知能)が普及し、社会に根付きつつある。スーパーフォーミュラでは機械に存在しない感情を表現することで、これまでにはなかったレースの楽しみ方を創造し、全く新しいファン層を取り込もうという構えだ。
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