【2023年SF戦線異常アリ】絶対王者・野尻智紀に何が。担当エンジニアが語る深刻な不調「何をやってもダメ。勢力図がひっくり返るかも」
2023年のスーパーフォーミュラ合同テストでは昨年苦しんだチームが存在感を放っている中、選手権2連覇中の野尻智紀はトップタイムを記録しながらもかなり苦戦しているようだ。
写真:: Masahide Kamio
鈴鹿サーキットで2日間に渡って行なわれたスーパーフォーミュラ公式合同テストが終了。昨年苦戦したチームの躍進などいくつかのトピックもあったが、結果的に総合トップタイムをマークしたのは2021年、2022年のシリーズチャンピオンである野尻智紀(TEAM MUGEN)だった。
野尻は後の総合トップタイムである1分35秒955をマークした初日午後のセッションを終えた段階で、その仕上がりを「まだ50点くらい」と評価しており、新型車両『SF23』のオーバーステアな挙動に手を焼いていると明かしていた。
しかし、これまでどんな不調も高い修正力で跳ね返してきた野尻とTEAM MUGENだけあって、蓋を開けてみれば「やっぱり野尻」な展開になるのではないか……そう思わざるを得ない状況を、彼自身のここ数年の実績が作り出していた。「最近はもう、『また野尻か』と言われてもいいと思い始めました」と諦め気味に笑う野尻だが、実際その苦戦は深刻なレベルのようだ。
Photo by: Masahide Kamio
2日目午後のセッションで、珍しく逆バンクでコースオフして赤旗の原因を作った野尻。この時の状況について、彼を担当する一瀬俊浩エンジニアはこう説明する。
「僕たちはセットアップが決まっていない状況でした。ただタイヤのデグラデーションを見たいので、バランスが悪い中でもロングランに行ってもらったのですが、あと数周でピットに入れようという時にオーバーステアで滑ってしまい、立て直そうとした際にコントロールを失ってしまいました」
「その根底には、オーバーステアが治らなかったということがあります」
昨年は、修正舵がほとんどなくスムーズに走れるマシンを作り出していた野尻陣営。ただ先代の車両『SF19』時代と大きく違うのは、SF19がアンダーステア傾向なのに対してSF23がオーバーステア傾向ということ。「アンダーステアを消す」という作業はうまくいっていた彼らだが、「オーバーステアを消す」という作業に関しては解決策を見つけあぐねている。
Photo by: Masahide Kamio
「スプリングを変えたり、車高域を変えたり、ロール剛性を変えたりしたのですが、全部ダメでした。良いところが見つからなかったです」と語る一瀬エンジニアの表情はいつになく暗く、重苦しい。
ただそうなってくると、今回のテストを総合トップで終えたという事実の説明がつかない。苦戦しているといっても、やはり相対的にはトップクラスのパフォーマンスを出せているのではないか……そう感じてしまうが、一瀬エンジニアは野尻が夕暮れの初日午後に出したタイムが“たまたま”である理由について次のように解説した。
「そもそもオーバーステアのクルマって、コンディションが良くなるとタイムが出るようになるんです」
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「予選などで路面状況が良くなり、ミュー(摩擦係数)が上がった時は、フロントタイヤより幅広で接地面の多いリヤタイヤがよりその影響を受けるので、アンダーステア傾向になります」
「初日の最後はみんながニュータイヤを入れたので路面コンディションが一気に上がりました。それでオーバーステアの僕たちはリヤグリップが上がって(オーバーステア傾向が収まり)、走れる領域に入ったのでタイムが出たんです」
「ただ正直、レースウィークであのコンディションは絶対にあり得ません。あれより気温は上がるでしょうし、路面も悪いでしょうし。あのタイムが出たのはコンディションがたまたま僕らにとって良かっただけです」
このように野尻たちが苦戦する中、テストでは昨年苦戦したKCMGやROOKIE Racingが上位に顔を出している。こういった状況についても、一瀬エンジニアは彼なりの推理をしている。
「正直、昨年から序列がひっくり返ると思っています」とハッキリ述べた一瀬エンジニア。「僕個人の勝手な予想ですが……」と前置きした上で、次のように語った。
「SF19では、ほとんどのチームがアンダーステアで苦戦していたと思っています。そういうチームは(オーバーステア気味な)SF23のパッケージになってバランスが良くなったのかもしれません」
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「僕たちのように昨年ちょうど良かったチームはオーバーステア、昨年アンダーステアだったチームはちょうど良い……ということなんじゃないかと思います」
彼の分析通りになれば、2023年のスーパーフォーミュラは波乱含みのスタートを迎えることになるだろう。過去2年あまりにも力強い姿を見せてきただけに、今季野尻が苦戦する姿は想像が難しいところだが、“何か”が起こりそうな気配は既に漂ってきている。
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