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モータースポーツを支える企業 その2 タタコンサルタンシーサービシズ(TCS) 【第2回】

TCS、日本マーケットへ進出

東京・芝にある日本TCS本社ビル。ここで4000人の多国籍社員が働く

写真:: Tata Consultancy Services Japan Ltd.

 1986年に日本に進出したTCSは、2014年には三菱商事をパートナーに日本法人「日本タタコンサルタンシーサービシズ株式会社」(日本TCS)を設立、日本におけるビジネスを本格的に開始した。当初はインドと日本の商習慣の違いに戸惑いもしたが、短時間の内に日本におけるITビジネスを牽引する企業に成長した。

日本進出の要は三菱商事との協業

 タタ・グループの中核をなすタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)の事業は、2000年代に入って加速する。1996年に第2代CEO(最高経営責任者)に就任したスブラマニアン・ラマドライ(Subramaniam Ramadorai)によって組織改革、株式上場などの体制づくりに力が注がれ、目に見えて業績が向上した。彼がCEOを務めた13年間に年商は1億4000万ドルから60億ドルへと飛躍した。この業績向上の過程で年商10億ドルの大台を突破した2004年、TCSは世界のITサービス企業トップ10入りを果たしている。現在のTCSの年商は256億ドル(2022年3月期)にのぼる。年商10億ドルを記録した2004年、日本法人「タタコンサルタンシーサービシズ ジャパン株式会社」を設立している。

 実はTCSが日本でビジネスに着手したのは、日本法人が設立される20年近く前の1987年に遡る。TCSがグローバルビジネスを強化する過程で、大企業の多い日本が重要なマーケットになると気づいていたからだ。当時、日本の企業の多くはビジネスへのデジタル技術活用に関して世界から後れを取っていた。それは、日本の昔ながらの商慣習(ビジネスメソッド)がマシン(=機械、この場合デジタルと呼んでもいい)に頼るものではなく、人と人の間に形成される信頼関係という暗黙の要素によって機能していた側面もあったからだ。これは日本の誇る素晴らしいビジネス形態ではあったが、いかんせん効率が悪い。もちろん日本人は効率の悪さに気づいてはいたが、そこからいかに脱却するか、その術を知らなかった。加えて、社外のリソースやノウハウを活用することには考えがおよばなかった。それが日本企業がビジネスのスピードにおいて世界の大手企業の後塵を拝することになる要因のひとつにもなっていた。TCSはそこに顧客開拓の意義を見出だしたのだ。TCSが日本進出を果たし、日本企業が不得意としていたデジタル化を通じてのビジネスの成長を支援すれば、日本企業の競争力は世界の大手企業に互して成長するはずだ。そして、それはやがてTCSのビジネス拡大にも繋がる。

 しかし、TCSが日本で白紙からITサービスを提供するのはなかなか難儀なことと思われた。それは、先にも述べたように日本の商慣習が世界標準とかなり異なっていたからだ。そこで、TCSは日本で本格的にビジネスを展開するにおよび三菱商事をパートナーに選び、合弁事業として「日本タタコンサルタンシーサービシズ株式会社」(日本TCS)を設立した。2014年7月のことだ。実は、タタ・グループと三菱商事は多くの共通点を持った企業だった。両社はともに創業150年以上の歴史を誇り、年間売上高は1000億ドル以上、消費財から金融、自動車、航空・宇宙産業にいたるまで広範な事業展開を行い、世界中にネットワークを持つという共通点もあった。

顧客にべったりと寄り添わない

2015年、プネに開設したJDC(日本企業専用デリバリーセンター)。ここでも4000人の社員が日本特有の要望に応える

2015年、プネに開設したJDC(日本企業専用デリバリーセンター)。ここでも4000人の社員が日本特有の要望に応える

Photo by: Tata Consultancy Services Japan Ltd.

 TCSが日本市場に注目した理由は、前述の通り、日本の顧客ニーズ拡大の可能性があったからだが、力の注ぎ方は尋常ではなかった。というのも、TCSの売上高の8割以上は欧米市場であり、アジア、中国、あるいは南米、アフリカ等の新興市場にはビジネス拡大のチャンスが残されていたからだ。中でも世界有数の大企業が多く存在する日本での地固めは、グローバルビジネスを推進するTCSにとって無視できないマーケットだった。

 日本での本格的なビジネスは、TCSのグローバル市場に於ける顧客支援によって培った知見と日本市場に関する三菱商事の豊富な経験や知識に支えられて、足腰の強いハイブリッド企業である日本TCSを作りあげることによって展開された。その活動の中心はカスタマーやパートナーである日本企業の弱点を理解し、求められる最適なサービス、ソリューションを提供することにあった。その一歩として、2015年、TCSが本社を構えるインド・ムンバイから100kmほど南東の内陸にあるプネに日本企業専用デリバリーセンター(JDC=Japan-centric Delivery Center)を開設した。デリバリーセンターといっても何らかの製品を配送する物流拠点ではなく、日本企業に最適なサービスを提供するための開発拠点である。つまり、ビジネスソリューションのデリバリーだ。そのJDCには約4000人のエンジニアが勤務する。日本のビジネス全体を見ると、JDCの4000人に加え、日本TCSの4000人、総勢8000人体制で日本企業に向けたビジネスサポートを提供している。

 日本TCSがサポートする企業は数多いが、 日本企業の顧客には、日産自動車、東京電力フュエル&パワー、TOYO TIRES、花王といった上場企業が名を連ねる。もちろんそれぞれの企業からは求められることが異なる。日産自動車には車体開発やソフトウエア開発、エンジニア育成支援などを、東京電力にはAIによる火力発電所の運転(燃焼効率調整)最適化を、花王にはビジネスのグローバル化に伴い法規制や懸念取引先のチェックなどを手助けする。

 それでも、日本におけるビジネスをこの先さらに拡大するには解決しなければならない課題は多い。まず、言葉の壁がある。ITの世界では英語が共通言語。とはいえ、日本の顧客にネイティブのような英語を話せというわけではない。非ネイティブ間の共通言語として、意思疎通ができればビジネスはある程度展開できる。もちろん、言葉だけではない。JDCで日本企業を支援するエンジニアには、日本文化、商慣習などに対する理解も求められる。その中で日本企業の顧客が求めるスタイルを理解し、円滑なコミュニケーションが図れるようにする。しかし、顧客にべったりと寄り添うスタイルは取らない。それがTCSの方針だ。

 TCSがJDCを開設した理由のひとつに、日本の社会的課題でもあるIT人材不足が挙げられる。日本に比べインドのIT人材は圧倒的に豊富だ。企業がITエンジニアを採用する場合にも、日本では10〜20人単位でさえ非常に困難なところ、インドでは100人単位で採用できる。インドでは大学で理工学系を専攻する新卒社会人の人口が毎年150万人を下らない。これにはインドの高度な理数教育システムが影響している。インドは理系人材が非常に強い。加えて向上心、誰もが上位を目指そうとするエネルギーに溢れている。それがデジタル化の進む世界で、インドが世界屈指のIT立国として成功した原動力と言えるのではないだろうか。TCSはその力を日本でも発揮する。

スポーツを通して地域社会へ貢献

 ところで、TCSはITサービス一辺倒かと言えば、実はそうではない。この会社は、タタ・グループの創業者ジャムシェトジー・タタ(Jamsetji Tata)が提唱した「地域社会への貢献こそが、企業の存在目的そのもの」とする理念を大切にし、全世界で多様なCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的貢献)活動を展開している。こうした活動を可能にしているのは、本業のITサービスが順調な証拠だが、そこにはタタ・グループの創業者精神が受け継がれている。その活動を日本に絞って紹介すると、教育、健康、環境の3分野を軸に、様々なCSRのプロジェクトが展開されている。

 スポーツを通して健康という分野に大きな力を注ぐのもTCSの特徴だ。その代表格が世界の主要都市マラソンへのタイトルスポンサーシップで、ニューヨーク、アムステルダム、ムンバイ、ロンドン、ボストン、シカゴといった大会を支援する。これらのマラソンにはスポンサーとして協賛するだけではなく、公式アプリの開発や社員のチャリティ/ボランティア参加などを通して、イベントの活性化やスムーズな運営にも貢献している。実はTCSがマラソン大会への協賛を始めたのは、第3代CEOチャンドラセカランが自ら健康増進のために取り組み始めたジョギングがきっかけだったともいわれている。

ニューヨークシティマラソンのスタート風景。タイトルスポンサーだけでなく、公式レースアプリ開発などサポートは多岐に渡る

ニューヨークシティマラソンのスタート風景。タイトルスポンサーだけでなく、公式レースアプリ開発などサポートは多岐に渡る

Photo by: Tata Consultancy Services Japan Ltd.

 スポーツは、教育、健康、環境といった日本TCSが力を入れるCSR活動に深く関連している。特にこれからのグローバル社会を牽引する若者にとって、欠かせない要素だ。そして、スポーツは肉体だけの運動ではない点も理解しておかなければならない。例えば、TCSが支援するジャガーTCSレーシングが参加するフォーミュラEは、電気自動車(EV)によるレース。TCSはジャガーTCSレーシングと共に、市販EVの技術開発をリードするためのプラットフォーム構築を目指す。 TCSは日本のトップレースであるスーパーフォーミュラに参戦する中嶋レーシングを、タイトルスポンサー兼テクノロジーパートナーとして支援する。この取り組みは、レースを通した自動車技術への理解の深化とともに、モータースポーツ振興への寄与にも繋がっている。

フォーミュラEレースを戦うジャガーTCSレーシングのマシン

フォーミュラEレースを戦うジャガーTCSレーシングのマシン

Photo by: Simon Galloway / Motorsport Images

 サーキットで中嶋レーシングのピットクルーとともに協働するTCSのエンジニアらは、僅かコンマ数秒の差で勝敗が分かれるレースの世界の厳しさを噛みしめながらも、TCSが持つデジタル技術のノウハウがモータースポーツをさらなる高みへと引き上げる力になれると信じ、チーム一体となってシリーズを戦っている。

 次回は、中嶋レーシングの中嶋悟チーム総監督と日本TCSマーケティング&コミュニケーションズ統括副部長ダグラス・フット(Douglas Foote)の対談をお届けする。彼らの対談から、TCSのモータースポーツにおける役割が見えてくるはずだ。(続く)

 
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