「自分、天才じゃないので」——努力の人、坪井翔が“気にしい”メンタル乗り越えレースで成功した理由|特別インタビューその2
トップアスリートであれば、皆が強靭なメンタルを持っていて当たり前……というわけではない。国内トップドライバーにのし上がった坪井翔は自身のメンタルが強くないと自称するが、着実な努力を積み重ねることで自信やモチベーションを保ってきたのだという。
写真:: Masahide Kamio
「本当、メンタルは超しょぼいです」
飄々とした顔つきに、安定感のあるドライビング。メディアに対するストレートな物言い——。そんな姿が印象的な坪井翔からこのような言葉が出たのは、少々意外でもあった。これは彼がスーパーフォーミュラ初タイトルを勝ち取った2024年最終戦の記者会見での発言だ。
側からは完璧超人に見えるトップアスリートでも、各々が悩みや弱点、コンプレックスを抱えながら、日々戦っているということなのだろう。坪井は前述の会見で、スーパーフォーミュラでのタイトル獲得が現実味を帯びてくる中で大きなプレッシャーを感じており、それを表に出さないようにしてきたと明かした。
しかし、“弱い”と自称するメンタルのせいでプレッシャーで押しつぶされてしまっていたら、国内最高峰のレースカテゴリーでチャンピオンに輝くことなどできなかったはず。坪井が自身の性格・気質とどう向き合っているのか? オフシーズンに実施したロングインタビューの中で詳しく聞いた。
実は“気にしい”の坪井
「自分は“気にしい”で、ひとつひとつのことを全部真に受けてしまいます」
「もっと適当な性格なら、例えば『今日は調子悪いけど、そういう日もある。遅くても仕方ない』と割り切れたらいいのですが、自分の場合は遅かった時に『なんで遅かったんだろう……』と間に受けてネガティブな方向にいってしまい、パフォーマンスを出しきれなかったりということがあったと思います」
「良くも悪くも、コンマ1秒でも負けていると“ズーン”という(気持ちが落ち込む)感じになってしまいます。そういった全部を気にしてしまうところが弱さに繋がってしまっているというか……ひとつの失敗を大きく引きずってしまうところが大きいですね」
自らの性格について、坪井はそう説明した。繊細な感覚を持つ“気にしい”のメンタリティは、完璧主義で向上心が高いという点では確かにプラスに作用するが、気持ちが沈んでしまっていては出せるパフォーマンスも出し切れないだろう。
写真: Masahide Kamio
些細な失敗でもそれを過度に気にして引きずってしまうという気質は非常にシンパシーを感じるところだが、坪井はそういった自らのウィークポイントを努力で埋め合わせられているところに“強さ”がある。ハードワークの結果生まれる自信やモチベーションが、精神状態の下落分を相殺していくのだ。
「自分は天才じゃないので、時間がかかるタイプです。それを受け入れて、とにかく他人よりも速くなるための準備をすることで『これだけ私生活で頑張ってきたんだから負けるはずない』という気持ちを持てるようにしました」
坪井はそう語る。
「それが結果に繋がればモチベーションになりますし、『ああいう風にすれば勝てるんだ』という流れをルーティン化したり、形付けることができます」
「僕たちは土日はたくさん(レーシングマシンに)乗っていますが、月曜から金曜もレースに多くの時間をかけられているドライバーってそれほど多くないんじゃないかと思っています。毎日(サーキットで)練習できるわけではない中で、どう時間を使うかという点で自信を持てるような生活スタイルにすると、メンタルを維持することができると気付きました」
確かにレーシングドライバーは他のスポーツ選手とは違い、毎日のように実践的な練習ができるわけではない。そもそもサーキットで走行するという行為自体がお金も時間もかかるという大前提もあるが、特に現代の国内トップカテゴリーではテスト走行の機会が厳しく制限されている。その中で坪井が平日に特に力を入れて取り組んでいる努力とは何なのか?
「みんなやっていることだとは思いますが、車載(映像)を見ている時間はかなり長いと思います」
写真: Masahide Kamio
「今はSFgo(※スーパーフォーミュラのデジタルプラットフォームで、全セッションの全車のオンボード映像が見られる)もあるので、色々な人のオンボードを見ています。スーパーGTも、YouTubeにアップされますからね」
「基本的には自分の走りを何回も見ます。その日見たオンボードと翌日見るオンボードでは、同じ動画なのに意外と見え方が違ったりするんですよ。なぜそうなるのかまでは分かりませんが、昨日見えた景色が見えなくなった、昨日とは違う景色が見えるようになった、といったことがあります」
「そういった気付きをベースに、その原因がドライビング起因なのかクルマの問題なのかなどを考えつつ、クルマ側で何をした時に良かったのかなどのデータも振り返って整理しておくと、次のテストやレースに向けてアイデアが浮かんできます。1回見れば思い付くとは限りませんし、何度もダラダラ見ているだけでも意外と気付きがあったりします。とにかく自分の成長を止めないことは大事だと思っています」
そのフィードバック能力はどこで養われた?
このように、1分1秒でも長く車載映像と向き合うことで、マシンやドライビングの改善に役立てようとしている坪井。とはいえ、ただオンボードを眺めていれば誰でも速くなれるわけではない。マシンの動きを観察し、何が起きているのかを把握するための深い次元の知識や感覚が養われていないといけない。
坪井は確実なフィードバック能力にも定評があるが、彼がそういった素養を身につけるきっかけとなったのはF4時代。後にスーパーフォーミュラのセルモ・インギングでコンビを組むことになる菅沼芳成エンジニアに鍛えられたという。
「FCJ(フォーミュラ・チャレンジ・ジャパン)時代は(セットアップ禁止で)クルマを触れなかったのですが、F4に参戦していた2014年、2015年はセットアップをいじることで自分のクルマの好みだったりを知ることができました」
「2015年は菅沼さんと一緒にやって、結構試されることがありました。セッティングを変更して乗るのですが、何を変えたのか教えてくれないんです。先入観を持たないためですね。その状態で感じ取ったことをコメントするというやり取りは勉強になりましたね」
「その後でどこを変えたのかの答え合わせをして、『お前の言うことは理論的に合っているけど……』とか、『ここ、感じ取れてないんじゃない?』といった擦り合わせをすることで、ある程度の地盤ができました」
「細かいところはF3時代にも突き詰めていって、スーパーフォーミュラに上がってからまた幅が広がって……時間はかかったのですが、そういった少しずつの積み重ねで、どういうクルマが好みで、どういうセットアップにしたらどういう動きになるかなどを考えられるようになりました」
先日のスーパーフォーミュラ開幕ラウンドでも、第1戦4位、第2戦2位としぶとく上位に食い込み、今季もタイトル候補のひとりとなっている坪井。そういった安定感は、日々の努力の積み重ねの上で成り立っているのだ。
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