英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記:「日産に求められるドライバーの若返り」

日本を拠点に活動するmotorsport.comグローバル版のニュース・エディター、ジェイミーがお届けするコラム。今回は日本の若手ドライバー育成を取り巻く現状について綴った。

#23 MOTUL AUTECH GT-R, #3 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R

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Masahide Kamio

 ご存知の通り、日本で開催予定だった国際的なモータースポーツイベントが、新型コロナの影響でほとんど中止となってしまいました。日本のみならず、世界中のファンにとっても大変残念なことです。ヨーロッパのレース関係者からも、日本に来るのが大好きだという話をよく聞きますし、それぞれの選手権にとっても日本は大きな市場だと思います。来年こそはこれらのイベントが開催され、多くの仲間が海外から来てくれることを強く願っています。

 日本のレースシーンにおけるコロナの影響はマイナス面ばかりではありません。外国人ドライバーが日本に来られなくなったことで、日本人若手ドライバーにスーパーGTやスーパーフォーミュラを走るチャンスが巡ってきました。それにより、世代交代も加速したと言えるでしょう。

 その代表的な例が阪口晴南です。彼はスーパーGT GT500クラスの強豪チームであるトムスに所属し、37号車KeePer TOM'S GR Supraを走らせ、その才能を見せつけています。本来であれば37号車は平川亮とサッシャ・フェネストラズのコンビになるはずでしたから、もしフェネストラズの入国が叶っていれば、阪口はGT300クラスで走ることになり、自分の存在をアピールするのに苦労したかもしれません。

 阪口の他にも、GT500とスーパーフォーミュラで活躍する宮田莉朋や大湯都史樹、GT300とスーパーフォーミュラ・ライツで活躍する佐藤蓮や平良響など、将来有望な若手は大勢います。しかし、あることに気付きました。上記のドライバー達は皆、トヨタもしくはホンダのドライバーです。FIA F4で戦うトップ選手を見ても、ほとんどがトヨタかホンダの支援を受けるドライバーばかりです。

 その一方で、日産は若手の人材が不足しています。これは、彼らが参戦しているスーパーGTの将来に影響を与える可能性があります。

 日産はこれまで、ニッサン・ドライバー・デベロップメント・プログラム(NDDP)を通じ、千代勝正や高星明誠、佐々木大樹といったドライバーを輩出し、彼らをGT500にステップアップさせてきました。現在もこのプログラムは水面下で運営されていますが、現時点では2018年の高星がGT500に昇格した最後のNDDP生となっています。

 今季から日産陣営に加わった松下信治は、GT500を戦う日産ドライバーの中では最年少の28歳ですが、28歳はホンダ陣営に入れば年長者の部類です。また松下以外の日産陣営に目を向けると、高星も今年1月に28歳となり、佐々木も10月に30歳を迎えます。そして千代はGT500デビューが比較的遅かったということもあり、今年で35歳になります。

 遅かれ早かれ、日産はドライバーラインアップの若返りを迫られるでしょう。日産勢の旗頭としてこれまで数々の実績を残してきた23号車MOTUL AUTECH GT-Rの松田次生とロニー・クインタレッリも、共に42歳です。

 NISMOの広報担当者によると、NDDPは現在、下位カテゴリーのドライバー支援から、GT300のカスタマーチームへのドライバー派遣に重点を移しているようです。とはいえ、現状GT300の若手ドライバーの中でGT500昇格の候補となっているのは、昨年GT300のチャンピオンに輝いた藤波清斗ひとりです。

 藤波は昨年末、毎年恒例である日産のテスト兼オーディションに松下、安田裕信、石川京侍と共に参加したようですが、結果的にGT500のシートを手にしたのは松下のみでした。藤波と共にテストに参加した石川も、松下同様ホンダ育成を経て日産陣営に加わったドライバーですが、これまでタイトル争いに絡むような活躍を見せられていません。

 このように若手が不足する日産は今後、他メーカーから実績のある人材を引き抜くか、外国人ドライバーを起用するしかありません。このやり方で今後1、2年は乗り切ることができるかもしれません。しかしアプローチを変えなければ、ホンダ陣営やトヨタ陣営に対してドライバーたちの力量という点で後れを取ってしまうのではないかと考えています。

 そういった点でも、日産はトヨタやホンダのように、優秀な若手ドライバーにF4などを戦う資金を提供する、といったアプローチを取る必要があります。そうすれば、日産は4、5年後に自社のマシンにフレッシュな人材を乗せることができるのです。こういった取り組みはGT500のドライバーを確保するだけでなく、優秀な人材をライバルに独占されないためにも重要です。

 そんな彼らが若返りのためにまずすべきことは、現在GT300やスーパーフォーミュラ・ライツで活躍する、メーカーの育成プログラムに所属していない有望若手ドライバーをGT300の日産陣営に迎え入れ、最終的にはクインタレッリや松田といったベテランドライバーの後釜として育成する、ということでしょう。

 日産陣営は星野一樹が今季限りでスーパーGTのドライバーを勇退します。これによりGT300の10号車GAINERのシートが空くことになりますが、日産はここに、将来GT500でスターになると目されるドライバーを起用するべきだと思います。

 日産がスーパーGTで今後もライバルメーカーに対抗し続けるためには、“若手ドライバー”を育成するということは決して軽視できないでしょう。

 最後に個人的なことですが、7月に受けたJLPT(日本語能力試験)の“N3”に合格したことを報告します。合格できたことは嬉しいですが、まだまだ勉強が必要なので、最高レベルの“N1”合格を目指し、次は“N2”に合格することを目指します。次の試験は12月にあるので、それまで勉強頑張ります!

 

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