波乱のGT第2戦富士、短縮終了でなければどんな展開になっていた?:英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記
日本を拠点に活動するmotorsport.comグローバル版のニュース・エディター、ジェイミーがお届けするコラム。今回のテーマは、初の450kmレースとして開催されたスーパーGT第2戦富士について。
スーパーGT、スーパーフォーミュラといった国内レースカテゴリーは4月に開幕すると毎週のようにレースが行なわれ、慌ただしい幕開けとなりました。連戦に次ぐ連戦が少し落ち着いてきた今、ゴールデンウィークに行なわれたスーパーGT第2戦富士450kmレースを振り返ってみます。
今回のレースは、高星明誠の大クラッシュを抜きにして語ることはできません。彼が無傷で済んだことは、近年の高い安全性を証明するものだと思います。高星は先日発表された第3戦鈴鹿のエントリーリストにも、いつも通り3号車CRAFTSPORTS MOTUL Zのドライバーとして名を連ねています。富士での雪辱を果たすべく、モチベーションに満ちているに違いありません。
高星が無事だったことは何よりなのですが、レース中に2度の赤旗中断があったことにより、スーパーGT初となる450kmレースが短縮終了となってしまったことは残念でした。各車が450km(100周)を走り切っていたらどのようなレースになっていたのか気になるところです。
シーズン開幕前は、ゴールデンウィークの富士戦が500kmレースから450kmレースになったことについては懐疑的な声もありました。レースは長い方が良い。これまでのフォーマットで問題なかったのであればなぜ短くするのか?……そんな声が聞かれました。
しかし、今回のレースは以前にも増して戦略の幅が広がりました。ピットストップに関しては、給油を含む2回のストップが義務付けられていましたが、毎回ドライバー交代をする必要はなかったため、ドライバー交代なし&タイヤ無交換の“ダブルスティント作戦”を始め、様々な選択肢がありました。
GT500クラスのピットストップ1回目の周回数を整理すると、一番乗りは16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTで23周目。ただこれはタイヤトラブルによるイレギュラーなピットインであり、ルーティンストップで一番早かったのは100号車STANLEY NSX-GTと12号車カルソニック IMPUL Zの26周目でした。
そして最後にピットインしたのは39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraで43周目。これはGT300クラスの車両のクラッシュでフルコースイエロー(FCY)が出されたことを受け、ピットレーンクローズとなる直前に滑り込んだ形でした。
これらを総合すると、GT500クラス各チームのルーティンストップのタイミングには17周の開きがありました。通常の300kmレースでは各車のピットインのタイミングが似通っていますが、今回はかなり戦略が分かれたことになります。
#17 Astemo NSX-GT
Photo by: Masahide Kamio
また、興味深いのは各チームのピットでの作業時間です。ピットでの静止時間を見てみると、速いチームで40秒を切っていましたが、中には50秒を超えていたチームもありました。いずれも大きな作業ミスは見受けられなかったことから、給油時間にもかなりバラつきがあったことが見てとれます。
前述の通り、今回はレース中に2回のピットストップが義務付けられていましたが、レースが短縮された影響でその義務はなくなり、最終的にGT500は全車1回のみのピットストップ(ペナルティストップは除く)となりました。そのため、1回目は早めに入って短い給油で済ませ、2回目で長めの給油時間をとろうと考えていたチームは、結果的に得をする形となりました。
逆に、1回目のピットタイミングを遅らせた8号車ARTA NSX-GTや37号車KeePer TOM'S GR Supraは、レースが最後まで行なわれていれば恩恵を受けた可能性があります。2回目のピットストップをレース終盤まで引っ張ることができたため、39号車SARDのようにFCYが出たタイミングでピットに滑り込むチャンスがライバルよりもあったと言えます。
もうひとつ気になるのは、レースが通常通り行なわれた場合にドライバー交代なし&タイヤ無交換のダブルスティントを仕掛けるチームがいたのかという点です。1回目のピットストップでその作戦を実行したチームはいませんでしたが、GT500の15チーム中10チームが2度目のピットでドライバー交代をしなくても良い状況にあり、ダブルスティントを実行できる権利を有していたのです。
39号車SARDは、第1スティントで当初のレース距離の約半分を走り切ることができていたため、中山雄一からバトンタッチを受けた関口雄飛は、タイヤマネジメントをしながら第2スティント、第3スティントと同じタイヤで走ってチェッカーを受けた可能性は十分にあったと思います。他にも、ピット作業の時間を短縮するため、あるいはアウトラップを冷えたタイヤで走ることによるロスタイムをなくすためにダブルスティントを計画・検討していたチームがあったはずです。
各チームでピットタイミングや給油時間が異なり、あるチームはアウトラップのタイヤのウォームアップに手こずり、あるチームはボロボロになったタイヤで最終ラップを迎える……このように様々な要素が絡み合う中で、誰が450kmレースをトップで終えたのかは分かりませんが、非常に興味深い結果となったに違いないでしょう。
#52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT
Photo by: Masahide Kamio
GT300クラスはGT500クラスよりも燃費が良いこともあり、さらに作戦の幅を広くすることができました。例えば52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GTを筆頭に、レース開始からわずか数周で“スプラッシュ&ゴー”のピットストップを実施して給油義務1回目を早々に消化し、レース中盤に2回の給油を行なって最後まで走り切る作戦をとったチームがいくつかありました。
しかし、彼らは結果的に不利益を被ることになりました。レースが短縮終了となった上に、レース中の給油義務が撤廃されることになったため、上位は軒並み2度目のピットストップを終えていないチームが独占する形となったのです。そういう意味でも、レースが通常通り行なわれていた場合、どうなっていたのかは気になります。
とはいえ、第4戦富士、第5戦鈴鹿も同じく450kmレースとなるので、新フォーマットのレース展開がどうなるのか確認するチャンスはまだあります。毎年同じレースフォーマットに固執するのではなく、新しいフォーマットに挑戦する決断をしたスーパーGTは、その手腕をもっと評価されてしかるべきです。
スーパーGTのプロモーター、GTアソシエイション(GTA)の坂東正明代表は、エンジンメーカーやタイヤメーカーには、出力やグリップ力ではなく、燃費や耐久性を優先してほしいとの考えを示しています。それが実現されれば、今後ダブルスティントが一般的になるシナリオは想像に難くありません。
この450kmのフォーマットが成功することで、GTAがレースの価値、魅力向上のためにさらなる実験、検証にトライすることを期待します。
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