英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記:松下とバゲットの“トレード移籍”はWin-Win?
日本を拠点に活動するmotorsport.comグローバル版のニュース・エディター、ジェイミーがお届けするコラム。今回のテーマは、スーパーGTで“トレード移籍”となった松下信治とベルトラン・バゲットについてだ。
#12 カルソニック IMPUL GT-R
Masahide Kamio
皆さんこんにちは! ジェイミーです。今年最初のコラムをお届けします。私は先日2年ぶりに母国イギリスへ帰国した後、日本へ戻ってきました。PCR検査や検疫、書類作成など色々大変でしたが、有意義な旅でした。
さて、本題です。2022年のスーパーGT開幕はもう少し先の話ですが、GT500はトヨタ、ホンダ、日産の3メーカー全ての体制発表が行なわれましたね。中でも開幕戦岡山で大きな話題となるのは、チームを入れ替わる形となった松下信治とベルトラン・バゲットがどのような走りを見せるか、という点でしょう。
まずは松下から。彼は、2014年に全日本F3でタイトルを獲得したREAL RACINGに“復帰”した形となります。松下は昨年、日産陣営のTEAM IMPULのドライバーとしてGT500を戦っていて、スーパーフォーミュラの序盤戦ではホンダ陣営からの参戦が許可されないという時期もありました。しかし状況はわずか1年で一変することとなりました。
仮に、松下がホンダの2020年国内カテゴリー参戦オファーを断ったことに対するしこりのようなものがあったとしても、昨年松下がスーパーGT、スーパーフォーミュラの両カテゴリーで見せた素晴らしいパフォーマンスの前では、そんなものは消し飛んでしまったのかもしれません。
スーパーGTでは第5戦もてぎで優勝、第7戦もてぎでも優勝争いの立役者となり、昨年の日産勢で最も印象的な活躍をしたドライバーになりました。ホンダとは長い付き合いがありますし、ホンダが松下を再び呼び戻し、ライバルの重要な戦略を奪いたいと思うのは当然のことと言えます。
そして松下は昨年のスーパーフォーミュラで、田坂泰啓エンジニアとのコンビでポールポジションを獲得するなど、素晴らしい活躍を見せました。田坂エンジニアは何を隠そう、REAL RACINGのエンジニア。そういった繋がりを考えても、ホンダが数あるチームの中でREAL RACINGに松下を招いたのも頷けます。
昨年REAL RACINGでスーパーGTを戦ったのは、塚越広大とベルトラン・バゲット。塚越はホンダの生え抜きドライバーであり、REAL RACINGとも非常に長い付き合いがあります。そんな背景もあってか、バゲットがホンダ陣営を離れ、そこに松下が入ることとなったのです。バゲットにとっては不本意だったかもしれませんが、単純にホンダにとっては松下の方が魅力的だった……それに尽きると思います。
しかし、バゲットにとって朗報だったのは、松下が去ったTEAM IMPULのシートに収まることができたということです。過去2シーズン、REAL RACINGで3勝を挙げて2年連続でタイトル争いに絡んだバゲットにとって、TEAM IMPULへの移籍はステップアップとは言いがたいかもしれません。しかしポジティブな点がいくつかあります。
まず、TEAM IMPULはREAL RACINGと比べ、外国人ドライバーの起用に慣れているということです。REAL RACINGにとって、バゲットはスーパーGTで初の外国人ドライバーであり、彼はまさに“Bドライバー”といった立ち位置でした。しかしTEAM IMPULでは、英語が堪能な平峰一貴がパートナーに。しかもバゲットの方がGT500の“先輩”なので、より対等な立場になるのではないでしょうか。
そしてもうひとつ、日産が今季から新型Zを投入するということも大きいでしょう。新型Zは、特定のサーキットでは速く、特定のサーキットでは苦戦していた先代のGT-Rから一歩前進できることが期待されています。また、REAL RACINGは3台あるホンダ・ブリヂストン勢の1台でしたが、TEAM IMPULは日産勢で唯一のブリヂストンユーザー。そういった理由から、バゲットはこれまで以上に開発に携わることができるでしょう。
3つ目は、将来的にNISMOのワークスチームの一員になるチャンスがあるという点です。ロニー・クインタレッリも松田次生も共に40代で、キャリアの終盤に差し掛かっています。特にクインタレッリがチームを離れた後も、NISMOが国際的な存在感を放ちたいという考えがあれば、バゲットこそその後任にふさわしいでしょう。かつて日本で活躍したブノワ・トレルイエも、TEAM IMPULでの実績を買われてNISMOに移籍したということがあります。
バゲットは塚越とドライビングスタイルやセットアップの好みが似ており、ふたりの相性は良かったようです。しかし、彼のREAL RACINGでの日々は決して順風満帆ではなかったようで、昨年はチームの戦略決定に不満を感じることもあったようです。そういった意味でも、彼にとっては心機一転、肩の荷を下ろして新たなスタートを切ることができると言えるでしょう。
松下にとっても、タイトルが狙えるREAL RACINGへの移籍はもちろんプラスと言えますが、それだけでありません。再び“ホンダドライバー”となったことで、彼が最も重きを置いているスーパーフォーミュラの参戦においても、資金的な問題などに悩まされることもなくなるはずです。
また、松下が再び海外の舞台に挑戦できる可能性も高まったと言えます。日産が欧米の主要モータースポーツで唯一参戦しているフォーミュラEに関しても、松下はそのドライバー候補となっていませんでしたから。
以上のことから、この“トレード移籍”は両方のドライバーとそのファンにとってWin-Winであると言えるのではないでしょうか?
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