F1メカ解説|2022年、成長率トップはアストンマーチン。シーズン中に1.3秒以上速くなった……そのアップデートを振り返る
2022年、最も印象的なアップデートを施したと言っても過言ではないアストンマーチンAMR22。計算すると、そのパフォーマンス向上度合いは、ラップタイム1.3秒以上に及びそうだ。
写真:: Giorgio Piola
2022年のF1で最も大きくパフォーマンスを向上させたのは、間違いなくアストンマーチンだった。
アストンマーチンは新レギュレーションが導入された2022年に、前後に長いサイドポンツーンを備えたニューマシン『AMR22』を投入した。
サイドポンツーンが長いことで、その下部は鋭く抉られ、フロアに沿うような形で気流をマシン後方に導き、さらにサイドポンツーンの上面も気流が後方に抜けるような、そんな形状のマシンだった。
しかしいざ走行を開始すると、思うようなパフォーマンスを発揮することができず、開幕戦バーレーンGPでは、予選ではセバスチャン・ベッテルの代役としてマシンに搭乗したニコ・ヒュルケンベルグの17番手が精一杯。決勝でもランス・ストロールが12位まで追い上げるのが限界だった。データ上では、この時点で最も遅いマシンだった。
そんなAMR22は、スペインGPで大変革と遂げた。サイドポンツーンの形状が一変したのだ。
このスペインGPで投入されたアップデート版のAMR22は、サイドポンツーンの上面がマシンの後方に行くにつれてフロアまで落ち込み、ディフューザー上に気流を導くような形状となった。ある意味、コンセプトから一新された形となった。
このアップデートを投入した後はしばらく苦戦する状況が続いたが、夏休みを挟んでパフォーマンスが急上昇。オーストリアGPからオランダGPまでの間(下のグラフ赤丸の部分)、予選パフォーマンスが急上昇していっている。そして最終戦アブダビGPでは、中団グループのトップを争うアルピーヌやマクラーレンと遜色ないパフォーマンスを披露した。
計算上では、ラップタイムが1分30秒のサーキットで、約1.3秒速くなったという計算である。
アストンマーチンAMR22の2022年パフォーマンス推移
Photo by: Motorsport.com / Japan
そのアストンマーチンは、サイドポンツーン以外にもシーズン中に様々なアップデートを投入。それぞれがパフォーマンス向上に好影響を及ぼした。
最も印象的だったのは、ハンガリーGPで投入したリヤウイング翼端板だろう。
今シーズンのレギュレーションでは、マシンの後方に発生する乱気流を削減するため、リヤウイングのフラップと翼端板が、一体化するような形にすることが目指されていた。しかしアストンマーチンはレギュレーションの抜け穴を掻い潜り、あたかも昨年までの見慣れた形の、翼端板とフラップが直角に繋がれるようなデザインのリヤウイングを登場させた。これによって、リヤウイングの効果を高めることを狙ったわけだ。
実際、このウイングは限られたグランプリでしか使われなかったが、レギュレーションを読み込み、その中から最善の解決策を導き出す頭脳がチームに備わっている証左のひとつと言えるだろう。
なおこのウイングは2022年については合法と判断され、使うことができたものの、2023年にはレギュレーションの微調整が行なわれ、使用が禁止されることになった。
リヤビューミラーのステーにも変更が加えられた。当初はコクピット横からサイドポンツーンの上を横断するように伸びるモノと、ミラー本体の真下に置かれたモノの2本のステーが設けられていたが、これがミラーの内側一点で支える形に変更され、空力効果の向上が目指された。また、ミラーの後方にはフィンが設けられ、サイドポンツーン上の気流を制御した。
Aston Martin AMR22 wing mirrors detail
Photo by: Aston Martin
さらにサイドポンツーンの大アップデート前のエミリア・ロマーニャGPでは、フロアを支えるステーの位置と太さが変更された。ここから想像するに、当初はフロア下で大きなダウンフォースを生み出すのに伴い、フロア自体が大きくたわんでいた問題が、エミリア・ロマーニャGPの時点で大きく解消されていたことを示しているものと思われる。
実際、シーズン序盤のフロアステーは、リヤタイヤの直前で繋がれていた……つまりこのあたりで大きなたわみが生じていたのだろう。しかしフロアが強化されたからなのか、エミリア・ロマーニャGPのステーは、かなり前方に移っている。
Aston Martin AMR22 floor comparison
Photo by: Motorsport Images
ヘイローの付け根の部分にも、様々なバージョンのフィンが、色々な箇所に取り付けられ、そして排除されていった。これも、サイドポンツーンの上部の気流を制御するためのものだろう。
Aston Martin AMR22 Halo winglets
Photo by: Uncredited
シーズン終盤のシンガポールGPでは、フロアを大きくアップデート、フィンのような形状が各所に追加され、リヤタイヤの少し前には切り欠きも設けられた。そしてその切り欠きの中には、小さなウイングが追加された。これは、レッドブル『RB18』のデザインによく似たデザインだと言えるだろう。
Aston Martin AMR22 floor comparison
Photo by: Giorgio Piola
これらのアップデートにより、今季のアストンマーチンは大きくパフォーマンスを引き上げた。そして、新レギュレーション2年目となる来季、どんな活躍を見せることになるのか……注目が集まる。そしてベッテルは今季限りで引退したものの、その後任としてチームに加入するのがフェルナンド・アロンソ……その能力は、誰もが認めるところである。どんな化学変化が起きるのか楽しみだ。
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