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【コラム】F1が”走る実験室”でなくなってしまうかもしれない……V10エンジンに戻すって本気なのか? 

F1をV10エンジンに戻すという案についての会議が、F1バーレーンGPの金曜日に設定されているという。果たして、音とコスト削減のためだけに、V10エンジンに戻すことを選んでいいのか?

A Honda 3.5 V10 engine in a Tyrrell 020

A Honda 3.5 V10 engine in a Tyrrell 020

写真:: Ercole Colombo

 FIAは、F1のエンジンをV10に戻すことを検討しているらしい。初めは戯言だと思っていたがどうも本気のようで、中国GPの際にはシングルシーター・ディレクターのニコラス・トンバジスがメディアに対してそう語り、今週末のバーレーンGPでは各PUメーカーが招集された会議が開かれるという。

 自然吸気V10エンジンを投入したいという意向には、確かに頷けることもいくつかある。ひとつはコスト面だ。

 現行、そして2026年からのPUは、V6ターボエンジン+ハイブリッドシステムであり、開発コストは非常に高額だ。実際ルノーは、それを理由に開発を途中でストップさせ、アルピーヌは来季からメルセデス製PUを積むことになった。

 F1が未来永劫続いていくためには、高騰するコストを抑えなければいけないのは周知の事実。それが故に、近年では各F1チーム、各PUメーカーが使える年間予算の上限が定められている。ただそれでも、日本でF1がブームになった1990年代と比べると年間予算は桁がひとつ違うと言われており、さらにスリム化を目指したいというFIAの意向も理解できる。

Michael Schumacher, Ferrari F2004

Michael Schumacher, Ferrari F2004

写真: Steve Etherington / Motorsport Images

 そして音である。自然級気V12、V10、V8のエンジン音は確かに素晴らしい。それを再び聞きたいという気持ちは私にもある。

 2026年からは持続可能燃料が使われることになっていて、この持続可能燃料を使えば大気中の二酸化炭素は理論上は増えない。だからこそV10に戻してもいいじゃないか……FIAはそういう考え方なのだろう。確かにその論理は分かるし、F1を引退したセバスチャン・ベッテルはその持続可能燃料を使い、自身が所有する歴史的なF1マシンを走らせ、その素晴らしいサウンドを披露してくれている。

 とはいえ、これらの理由でハイブリッドを捨て、自然吸気V10エンジンに戻すのは、実に安易なことにも思える。

 歴史を紐解けば、確かにF1は”ドライバーズ選手権”である。設立当初はコンストラクターズタイトルは設定すらされておらず、技術開発競争はスポーツカーレースが担っていた。しかし今のF1は、自動車メーカーの威信をかけた、技術開発競争の場になっている。

 だからこそメルセデス、フェラーリ、ルノー、ホンダが参戦しており、2026年からはそこにアウディ、フォード、キャデラックが、それぞれ異なる形ではあるものの加わる。そんな中で”開発コストが高いから”、音が良くないからという理由でハイブリッドシステムを捨て、自然吸気V10エンジンに回帰してしまえば、それは最先端の技術開発競争ではなくなってしまう。

 そもそもハイブリッドシステムとは、捨ててしまっているエネルギーを集めて有効活用しようというシステムである。それにより、車両に搭載された燃料が持っているエネルギーをできるだけ無駄なく使おうとしているわけである。その結果、エネルギー効率は格段に上がった。市販車もハイブリッドが普及したことで燃費が良くなった。

 さて持続可能燃料が実用化されれば、燃費は考えなくていいのだろうか? 当然、そんなことはない。

ホンダが開発したeフューエル

ホンダが開発したeフューエル

写真: Honda

 まず持続可能燃料は、化石燃料を原料としない、夢のような燃料である。しかも、既存の自動車等にそのまま使えるため、将来的な可能性は大いにある。しかし現時点では実に高価で、ガソリンの数倍〜数十倍。ランニングコストのことを考えれば燃費が良ければそれに越したことはなく、ハイブリッドシステムのさらなる効率化は、大いに重要であろう。

 またその持続可能燃料も、無限にあるものではない。持続可能燃料を製造するにあたっては水素が必要となるが、その水素を作り出すためには水を電気分解しなければいけない。その電気は風力や水力、太陽光など、CO2を排出しない方法で作られた電力でなければ持続可能燃料とは認められないが、そんな形で発電できる量も当然のことながら限られている。

 そしてF1に参戦する自動車メーカーの多くは、2026年レギュレーションで使われる電動技術にも注目している。

 以前は地球上全ての自動車が近い将来EV(電気自動車)になるのではとも言われていたが、電気自動車の航続距離や充電用のインフラ設備などなどの問題から、普及の速度は鈍っていると言わざるを得ない。これも、FIAが自然吸気V10エンジンに回帰しようとする理由のひとつとされる。しかし電気自動車の技術開発は依然として自動車メーカーにとっては重要であり、電動比率が50%に引き上げられる2026年からのF1規則は、その点でまさにうってつけなのだ。

 EV技術ならフォーミュラEでやればいいではないかというご意見もあろうが、フォーミュラEではバッテリーの開発が許されておらず、バッテリー技術をモータースポーツで開発しようとするなら、F1以上の場所はないのである。

 そんな2026年からの新レギュレーションを早々に廃止し、V10エンジンにしようということになれば、現在参戦中のメーカーのうちいくつかは、確実にF1から撤退するだろう。しかも、そもそも2026年からのレギュレーションはなかったことにしようという案もあると聞くから驚きである。もしそんな案が通れば、これまで各メーカーが費やしてきた開発予算は、いったいどうするつもりなのか?

 前述の通りバーレーンGPの木曜日には、F1参戦中のメーカーが招集され、このV10エンジンに回帰する案について話し合いが行なわれるという。まだその案の詳細は明かされていないが、各メーカーがこれにどんな反応を示すのか、実に興味深い。

 確かにF1はエンターテインメントである。音やコスト削減も重要である。しかしそれを最優先してしまい、最先端技術開発の競争という側面が削がれてしまえば、その存在価値は薄れてしまうように思う。

 F1は「走る実験室」であると誰かが言った。そして2026年からのF1は、その「走る実験室」の究極の場になるはずだった。しかしV10エンジンになってしまえば、もはやF1は「走る実験室」ではなくなってしまうだろう。

 確かにV10エンジンの音は素晴らしい。私もそう思う。でもそれは、美しい過去の思い出でいいではないか。とにかく、まずはFIAが明かす案、そして会議がどんな形になるのか、その結果を待ちたい。

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