フェラーリの歴史的F1マシン:641はF1史上最も美しいクルマなのか!?
フェラーリ641は史上最も美しいマシンの1台と言っても過言ではない。その証拠に、1台がニューヨーク近代美術館に展示されている。
Ferrari 641
フェラーリ641は、最も美しいF1マシンのうちの1台として知られている。しかしそれだけではなく、アラン・プロストをワールドチャンピオン獲得に近づけたマシンでもあった。
1988〜1991年、マクラーレン・ホンダは圧倒的な強さを誇った。その間、フェラーリ641(641/2含む)ほど、マクラーレン・ホンダを苦しめたマシンはなかった。
ホンダと組む前の1980年代前半にもマクラーレンは猛威を振るい、1984〜1986年にかけてもドライバーズタイトルを3連覇していた。その時のマシンをデザインしたのはジョン・バーナードだった。
フェラーリの創設者であるエンツォ・フェラーリは当時、この状況を打開するためある理論的な結論に達した。バーナードをマクラーレンから引き抜くことにしたのだ。そして1986年の末、フェラーリはバーナード獲得に成功する。バーナードも、マクラーレンのトップであるロン・デニスとの関係が悪化していたため、移籍を熱望していたのだ。
自身の価値を認識していたバーナードは、巨額の契約金を手に入れ、さらに新しいデザインオフィスを、フェラーリの本拠地であるマラネロではなく、自身の故郷であるイングランドのシャルフォードに構えることを認めさせた。
バーナードと彼のチームは、ギルドフォード・テクニカル・オフィスと名付けられたこの新しい施設でマシンをデザイン。完成した図面はFAXでマラネロに送られた。そしてマラネロではこれを再構成し、カーボンファイバーを多用して実車に組み上げられることになった。
1988年の8月、エンツォ・フェラーリが死去すると、フェラーリには政治的な混乱が生じた。しかしその間、イギリスで作業をしていたバーナードは、美しいレーシングカーをデザインすることになる。
当時のフェラーリでは、新しい風洞実験設備が完成したこともあり、戦闘力が徐々に向上しつつあった。
フェラーリが1989年シーズンに登場させたのは、640と名付けられたバーナードのデザインによるニューマシンだった。このマシンには自然吸気V12のパワフルなエンジンを搭載。それ以上に特筆すべきなのは、ギヤをバドルシフトで操作するセミオートマチック・ギヤボックスを採用していたことにある。まさに革新的なマシンと言える存在であった。
セミオートマチック・ギヤボックスは、信頼性が乏しかったもののその効果は抜群であり、シーズン開幕戦のブラジルGPではナイジェル・マンセルが優勝。まさに美しく、速いマシンであった。
結局シーズンを通して信頼性の問題に悩まされたため、この年もMP4/5を走らせたマクラーレンにダブルタイトルを許す結果となってしまった。そしてエンツォ死去以降の混乱に疲れたバーナードは、この年限りでフェラーリを離れ、ベネトンに移籍することになる。
1990年用マシン641のデザイン作業は、エンリケ・スカラブローニとスティーブ・ニコルズによって引き継がれた。この時、ニコルズと共にマクラーレンから移籍してきたのが、アラン・プロストであった。
この641は、前年の640の正常進化版であるが、燃料タンクが大型化され、エンジンへのエアインテークも大型化されている。ただ、その美しさは保たれている。
スカラブローニとニコルズは、マシンの信頼性を向上させるために尽力。第3戦からはマイナーチェンジ版である641/2を登場させた。しかしながら完全に解決とはいかず、特にマンセルは全16戦中7回のリタイアを喫することとなった。
とはいえプロストはこのマシンをうまく操り、シーズン5勝を達成。終盤までマクラーレン・ホンダMP4/5Bを駆ったアイルトン・セナを苦しめた。しかし日本GPのスタート直後1コーナーでの、セナとプロストのあまりにも有名なクラッシュにより、セナのタイトル獲得が決定した。
翌年以降、フェラーリは不遇の時期を迎える。1991〜1993年の丸3年間、勝利に見放されることになるのだった。
タイトルを獲得できなかったにも関わらず、フェラーリ641は今でも最も美しいF1マシンの1台として数えられている。その証拠として、1台の641/2がミューヨーク近代美術館(MoMA)に常設展示されている。
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