2014年の悪夢……レギュレーションにより、F1マシンが歴史上最も醜かったシーズン。ノーズの先端に棒が!|F1メカ解説
あと1ヵ月もすれば、2024年用のF1ニューマシンが続々と発表されることになる。多くの人が、発表会の日を待ち望んでいるはずだ。しかし2014年、誤解を恐れずに言えば、歴史上最も醜いF1マシンが登場することになった。
2024年用F1マシンの発表に向けたカウントダウンが、着々と進んでいる。多くのチームは、マシンの最終仕上げを行なっているところであるはずだ。過去を振り返ると、様々なサプライズが起きたことがあり、人によってその最大のサプライズは違うはずだ。
しかし10年前の発表会シーズンを覚えている方も多いのではないだろうか。同年は、現行のパワーユニット・レギュレーションが導入された1年目。市販ハイブリッド車にも使われている”運動エネルギー回生”だけでなく、革新的・近未来的とも言える”熱エネルギー回生”をも実現する新たなパワーユニットに、大きな注目が集まるはずだった。
だがいざマシンが発表されると、悪夢のような日々が待っていた。
発表された多くのマシンのノーズ先端からは、なぜか棒が前方に向けて突き出していた。史上最も醜いマシンという声も少なくない。
Photo by: Patrik Lundin / Motorsport Images
Marcus Ericsson, Caterham F1
レギュレーションが生み出した悪夢
このノーズ先端の”棒”は、FIAが行なったレギュレーション変更に伴うモノだった。
各チームのデザイナーは、ダウンフォースを稼ぐために、マシンの下面に多くの気流を送るべく、ノーズの先端をできるだけ持ち上げようとした。1990年のティレル019がその先駆けとも言えるマシンで、次第に程度の差はあれ、ほぼ全車がハイノーズとなった。
ただノーズの先端が高いと、たとえばTボーンクラッシュなどが起きてしまった場合などに、ドライバーにノーズの先端が直撃してしまう可能性があり、ひとつ間違えば重大な結果に繋がってしまう……そんな懸念が高まりつつあった。
FIAはこれを避けるべく、レギュレーションを度々変更した。2012年にはノーズの先端を低くすることを目指したが、各チームはノーズに段差をつけることで対処。当時はこのデザインも、醜いと揶揄された。
FIAはこの過ちを繰り返さないようにするため、ノーズ先端をさらに低い位置に導くべく、レギュレーションを改定した……その結果誕生してしまったのが、2014年の実に醜いマシンたちだ。
マクラーレン、フォースインディア、ザウバー、トロロッソ、ウイリアムズ、ケータハムは、長細い棒をノーズの先端に取り付け、レギュレーションを満たしたのだ。これには、パフォーマンス上のメリットがあったのだから仕方ない。F1チームの仕事は、格好いいマシンを作るのではなく、速いマシンを作ることなのだから。
Photo by: Giorgio Piola
Ferrari F14 T front view comparison with F138
2013年と2014年のフェラーリF1マシンを比較すると、その差がよくわかる。右側の2014年マシンは、ノーズの先端が前年マシンに比べて著しく下がり、コクピット下に気流が流れにくくなっているのが容易に想像できるだろう。
レギュレーションでは、ノーズ先端の下面の位置が、基準面から185mm以下になければならないと規定された。またその一方で、先端は基準面から250mm以上高い位置に存在してはならないとされた。さらに先端から50mm後方の位置は、体積に関する制約もあった。
本来ならば、ノーズの先端全体を下げることを目指したレギュレーションだった。しかし7チームは、ノーズの先端に棒を取り付けることでレギュレーションを満たし、フロア下に取り込む気流への影響を軽減できることに気付いたのだった。
ただひとつ問題だったのは、先端に棒が取り付けられたノーズで、クラッシュテストに合格できるかどうかということだ。
レギュレーションを満たすための苦肉の策
Photo by: Giorgio Piola
McLaren MP4-29 new nose (upper of the two)
マクラーレンのノーズのデザインは、全体が高く持ち上げられ、気流をフロア下に導く一方、レギュレーションを満たすために先端に棒が飛び出す形だった。ただシーズンが進むにつれて変更が加えられ、ノーズ本体の先端(棒の部分ではない)が直線的になり、より多くの気流を取り込めるようになった。
Photo by: Giorgio Piola
Force India VJM07 nose detail (specification up until this GP)
フォースインディアVJM07のデザインは、ノーズ先端にただ棒が突き出す形ではなく、ノーズ下の気流への影響を極力減らすために、後方に行くに連れて棒が上下および左右に小型化されていた。
Photo by: Giorgio Piola
Force India VJM07 new nose (shorter and reshaped wing pillars)
VJM07のノーズも、シーズン中に変更された。ノーズ本体の先端が後方に移され、フロントウイングステーの形状が変更。より前方に向け、弧を描くような格好となった。
Photo by: Giorgio Piola
Toro Rosso STR9 new nose with revised upper surface and pylons (old design inset)
トロロッソSTR9のノーズも、特異なモノだった。ノーズ先端から棒が突き出す形状だったが、ノーズ本体の先端形状が上方にアーチ型に持ち上げられるようにシーズン中に変更された。
Photo by: Giorgio Piola
Toro Rosso STR9 new nose detail with taller wing pillars and Red Bull style cooling inlet at tip ('S' duct inlet highlighted in yellow)
STR9のノーズのデザインはさらに変更。先端は下方に膨らみが持たされ、前端には開口部が設けられた。これは姉妹チームであるレッドブルが採用したソリューションに近いモノだった。
Photo by: Giorgio Piola
Williams FW36 front wing and nose
ウイリアムズも先端こそ前方に伸ばしたが、ノーズ本体への接続が斜めになり、より自然な形状になった。他のチームとは異なり、ノーズ先端に棒が突き出すような格好には見えない。
Photo by: Giorgio Piola
Sauber C33 front wing and nose
ザウバーのノーズも、ウイリアムズに似た形状だった。しかし先端のレギュレーションを満たすためのセクションは、ノーズ下まで膨らみを持たされたまま伸びていた。
Photo by: Alastair Staley / Motorsport Images
Robin Frijns, Caterham CT05
ケータハムは、ノーズ先端にまさに棒が取り付けられただけのような、独特の形状だった。ある意味、最も醜いクルマだとも言われた。
Photo by: Steven Tee / Motorsport Images
Andre Lotterer, Caterham CT05
シーズンが進むと、気流を改善するため、バニティパネルを使ってノーズの形状を修正。同時に、見た目もかなり良くなった。
レギュレーションの意図に最も近い? そしてさらに過激なデザインも!
その他のチームは、レギュレーションは満たしつつも、前述の7チームとは異なる解決策を採ってきた。メルセデスとフェラーリが登場させたノーズは、レギュレーションが本来意図していたモノに最も近かったようだ。
一方でロータスは、ライバルに差をつけるため、前述の7チーム以上にワイルドなソリューションを準備してきた。
Photo by: Giorgio Piola
Mercedes W05 new nose with taller front wing pillars (old configuration inset)
メルセデスが採用したノーズデザインは、レギュレーションが意図していたモノにもっとも近いように見える。しかし、フロントウイングステーの取り付け位置を工夫するなどして、できるだけ多くの気流をノーズ下に送り込もうとしていた。レギュレーションに規定された通りのモノを登場させ、手をこまねいていたわけではない。
メルセデスは開幕直後から成功。そのためチームはシーズン中にデザインを若干修正し、ノーズ先端の高さを少し高めた。
またオンボードカメラのケースを利用して、空力デバイスのように活用した。
Photo by: Giorgio Piola
Ferrari F14 T new front wing
フェラーリのデザインはメルセデスのモノに似ていたが、先端の位置がはるかに低い位置にあった。その結果、ノーズはかなり幅広いモノになった。こちらもオンボードカメラのステーを、空力デバイスのように活用した。
Photo by: Giorgio Piola
Lotus E22 nose and front wing top view
ロータスE22は、独特のアプローチを採用した。ライバルチームのようにノーズの先端に1本の棒を突き出すように取り付けたわけではなく、左右1本ずつ、合計2本の棒をノーズ先端に備えてきたのだ。しかも1本がもう1本よりも長く設定されており、その長い方でレギュレーションを満たすような格好になっていた。
まるでクワガタ虫だ。
Photo by: Giorgio Piola
Lotus E22 rear end detail (depicts asymmetric exhaust layout, arrows show larger cooling aperture on left side of the car)
なおこのロータスE22は、マシン後部の冷却用開口部の左右の形状が異なっており、これも注目を集めた。
Photo by: Giorgio Piola
Red Bull RB10 front wing and nose detail (arrows show airflow through nose tip - cooling and 'S' duct)
レッドブルは、ノーズの下に安定して気流を通すことを目指していたため、レギュレーション変更に対して、非常に興味深いアプローチを採用した。しかしライバルのように先端に棒状のデバイスを取り付けるわけではなく、レギュレーションによって規定された寸法の基準を満たすために中空のボックスセクションを選択した。
このボックスセクションの先端にはU字型の吸気口があり、気流を捕まえやすくなっている。ボックスセクションの後方にも開口部があり、気流はここから出て、ノーズの下に向かっていく。
Photo by: Giorgio Piola
Red Bull RB10 nose camera housings, placed on stalks rather than inside the nose panel
レッドブルはまた、オンボードカメラをノーズ上面に配置し、レンズを覗かせるための開口部がノーズ上に開けられた。しかしこれは後に、メルセデスやフェラーリのようにノーズの両脇に移動され、空力デバイスとして使うことを選択した。
記事をシェアもしくは保存
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。