F1メカ解説|2022年F1新レギュレーション……標準化進む”新世代F1”は、オーバーテイクが増えるのか? 逆の側面も……
標準化が進む新世代のF1。オーバーテイクや接近戦の増加が見込まれているが、逆の側面が存在する可能性もある?
これまで散々報じられてきたように、2022年からF1には新しいテクニカルレギュレーションが導入され、マシンの姿形が一変することになる。なお、当初は2021年に導入されるはずだったが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、1年延期。2022年にようやく日の目を見ることになった。
この新レギュレーションが導入されるのは、コース上での接近戦、そしてオーバーテイクがより多く見られるようにすることを目指したからだ。
F1では、長年にわたってオーバーテイクが難しいと言われ続けてきた。2009年にもこの状況を打破するために、リヤウイングの幅が狭められ、フロントウイングも広くなった。マシンの各所に取り付けられていた空力付加物も、ほとんどが排除され、シンプルな形状になった。
ただ2017年には、マシンのコーナリングスピードを引き上げるために、空力の制限が緩和されることとなった。これについて当時ウイリアムズの技術面を率いていたパディ・ロウは、正しくない方向性だと語っていたものだ。
接近戦、そしてオーバーテイクを増やすため、F1は「乱れた空気」の影響を受けにくいマシンにすることを目指してきた。今回はよりマシンに関する規制を強化し、標準化されたパーツを多数使うことで、乱流に対する影響をコントロールしようとしているのだ。
All-new regulations for 2022 will bring a new look to the cars
Photo by: Matt Fiveash
■コンセプトが変わるF1
これまでのF1マシンは、車体の”上面”で多くのダウンフォースを発生してきた。フロントウイングやリヤウイングがその典型例であり、そこに向かう気流をコントロールするために、マシンの各所に細かい整流装置が取り付けられていた。これによって、マシンの後方には乱れた空気が発生してしまっていたわけだ。
しかし2022年用マシンは、空力パーツのほとんどを削ぎ落とし、マシンの”上面”で発生するダウンフォースの割合を減らし、マシンの床下で多くのダウンフォースを稼ぐという考え方に移行。これによってマシン後方に生じる乱流を減らして、接近戦が生まれやすい状況を作り出したやろうというわけだ。
2019年用マシンと2022年用マシンのコンセプトモデルのCFD(計算流体力学)シミュレーションによれば、前を行くマシンに接近した際、2019年用マシンはダウンフォースを45%失うが、2022年コンセプトマシンは14%減で済むという。7”車身”後方を走った時でも、2019年マシンは21%もダウンフォースを失うのに対し、2022年用マシンは2%減に留まる。
この数値は驚くべきモノであるが、実際にその数値通りになるのかどうかは、シーズンが始まってみなければ分からない。ただこれがある程度正しければ、より接近したバトルが繰り広げられることになろう。
F1 hopes new cars will enable cars to follow more closely without losing downforce
Photo by: Charles Coates / Motorsport Images
■新たな技術開発へ……
さて、2022年のF1マシンがどうなるのかを、もう少し詳しく見ていこう。
前述の通りダウンフォースをマシン”上面”で生み出すのではなく、マシンの”床(フロア)下”で発生させるということになるわけだが、これはグラウンドエフェクトカーの復活を意味する、
昨年までのF1マシンは、マシンのフロア下は平らになっていて、後端にはディフューザーと呼ばれる跳ね上げられたパーツが取り付けられていた。このディフューザーの内部の圧力が下がることを利用して、フロア下の空気を”引き抜き”、マシンのフロアと路面の間の圧力を下げることで、ダウンフォースを生んでいた。
しかし2022年シーズンからはこのディフューザーが廃止され、フロア下にはベンチュリトンネルが設けられる。このベンチュリトンネルにより、フロア下の気流はさらに加速。圧力が下がって大きなダウンフォースを生むはずだ。
このようにベンチュリトンネルを使ってダウンフォースを生むようになることで、マシンの上面に付けられていた空力パーツを大幅に削減……乱流の発生源を潰すことに成功した。またフロントウイングとリヤウイングは存在するが、翼端板とメインプレーンおよびフラップを一体化することでも、乱流を減らすことを目指している。
さらに18インチホイール化されるタイヤにはホイールカバーが取り付けられ、その上方にはディフレクターを用いて乱流を制御する。
これに伴い、F1には標準化の流れも押し寄せてきている。
Wheel rim covers return as rear wings become a one-piece design that reduce turbulence
Photo by: Matt Fiveash
■”標準化”が進むF1
F1マシンは、基本的には各チームが独自にそれぞれのパーツを製作する。今回の新レギュレーションでも、リスト化されたパーツ(LTC)は、チームが自ら設計し、全ての知的財産権を所有しなければならない。ただF1が乱流の発生を抑えるために標準化したパーツの数を増やすため、”リスト化された”パーツは少なくなってきている。
FIAにとって選ばれたサプライヤーが全チームに供給する、”標準供給コンポーネント(SSC)”も存在する。これには、ホイール本体、ホイールカバー、マシンの性能に影響を及ぼさない燃料ポンプなどが含まれる。このうちホイールは、BBSが独占供給することになった。
また譲渡可能なコンポーネント(TRC)に選定されたパーツもある。これにはパワートレインやサスペンション、ギヤボックスなどが含まれ、あるチームが別のチームに供給することが許される。これにより、例えばアルファタウリは、引き続き”親チーム”であるレッブルのサスペンションやギヤボックスを使うことができるわけだ。
さらにオープンソースコンポーネント(OSC)となるパーツも存在する。これは各チームが独自に開発するものの、その知的財産権は他チームも使えるように公開されなければいけない。つまりこのOSCに選ばれているパーツは、その設計や仕様についてFIAが用意したサーバーにアップロードしなければならず、ライバルチームもその情報にアクセスできるというモノである。ブレーキのアッセンブリーやDRSのアクチュエーター、そしてステアリングホイールなどがこれに該当する。
またテクニカルレギュレーションは、その文言も見直された。これまでレギュレーションで規定されている寸法に関しては、平面、基準点などによって規定されていた。しかし今では、CADの計算式上で定義されている。これはFIAの車検システムが改定された一環であり、グランプリの前にマシンに違法な部分がないかどうか、CADデータを使って精査できるのだ。
パワーユニットの面では、2022年からE10燃料、つまりエタノールを10%含んだガソリンが使われることになる。これによってシーズン開幕当初は、昨年に比べてパワーダウンする可能性があるが、すぐにその遅れを取り戻してくるだろう。
F1 moves to new E10 fuels for 2022
Photo by: Motorsport Images
■乱流が減ると、オーバーテイクが難しくなる側面も?
さて新しいレギュレーションは、どのように機能するのだろうか? マクラーレンのドライバーであるランド・ノリスは、面白いことを言っている。彼曰く、空力の仕様が変わることによってオーバーテイクのしやすさは向上するだろうが、逆に失うモノもあるというのだ。
「新シーズンに向けて行なわれていることは全て、レースを面白くするためのモノだ」
「しかしマシン後方の乱れた空気が少なくなるということは、スリップストリームの影響も少なくなるということを意味する。ある部分で何かを手にしたとしても、別の部分で失ってしまうようなモノだね。乱流とスリップストリームは、関連性の非常に高いモノ同士だ。でも、良くなることを願っているよ」
このノリスの評価は的確だと言えよう。2022年も引き続きDRSは使える予定だが、これがなければオーバーテイクはやはり難しいのか、それともDRSを廃止しても、十分に激しいレースが展開されることになるのだろうか?
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