フォーミュラE

ブリヂストンにとってフォーミュラEタイヤの開発は新しい基軸……。一点のパフォーマンスに特化してもダメ! 求められる”全方位”の性能

昨年限りでマクラーレンを離れ、今年3月からブリヂストンに復職した今井弘氏に、同社が2026年から挑むフォーミュラEのタイヤ開発について話を訊いた。

田中 健一 戎井健一郎

編集: 2025/05/07 10:33

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Taylor Barnard, NEOM McLaren Formula E Team leads

Taylor Barnard, NEOM McLaren Formula E Team leads

写真:: Andreas Beil

 今年からGEN3 Evoと呼ばれるニューマシンを使っているフォーミュラE。同シリーズは2014年に創設されたが、その当時から比べると、マシンのパフォーマンスは飛躍的に向上。加速もトップスピードも、格段に速くなった。そして2026年の末に開幕する第13シーズンからは、新しいGEN4と呼ばれるマシンが登場。最大出力は、現在の350kWから600kWに引き上げられる予定で、まさにモンスターと呼ぶに相応しい車両となる。

 このGEN4投入と同時にタイヤサプライヤーを務めることになっているのが、ブリヂストンである。ブリヂストンがFIAの世界選手権レースに挑むのは、2010年限りでF1から撤退して以来ということになろう。

 そんなブリヂストンのフォーミュラEタイヤ開発を率いることになるのが、同社モータースポーツ管掌に就任した今井弘氏である。今井氏はかつてブリヂストンでタイヤ開発を担っていたが、その後マクラーレンF1チームに在籍。しかし昨年限りでマクラーレンを離れ、今年の3月からブリヂストンに戻り、モータースポーツタイヤの開発全体を指揮する立場に就いた。

 そんな今井氏は、次なる挑戦となるフォーミュラE用タイヤの開発をどう見ているのか? フォーミュラEはF1やスーパーGTなどとは違い、ドライでもウエットでも1スペックのタイヤで走れねばならない。これまでとは異なる挑戦と言える。

1種類のタイヤでドライコンディションもウエットコンディションもこなさなければならないフォーミュラE。ブリヂストンにとっては、新たな挑戦となる。

1種類のタイヤでドライコンディションもウエットコンディションもこなさなければならないフォーミュラE。ブリヂストンにとっては、新たな挑戦となる。

写真: Andreas Beil

「フォーミュラEは、最初のシーズン(2014-2015シーズン)のロンドンでの最終戦を見せていただいたことがあります。いろんな技術的な制約がある中で、レースとしてしっかりと成立させているのは、すごいなと思います」

 今井氏はそう語る。

「その後はマシンがどんどん進化し、今ではめちゃくちゃ速くなりましたよね? 今のGEN3 Evoは実際に現場では見てはいないのですが、テレビで観る限りではめちゃくちゃ速いです。しかも年々人気が高まっていると聞いています」

 今井氏が昨年まで在籍していたマクラーレンは、F1だけでなくフォーミュラEにも参戦していた。そのフォーミュラEチームとの交流もあったのだという。

「私はレースエンジニアリング・ダイレクターという立場でしたので、エンジニアリングのオペレーションをどうするかということを、FEチームのチーフエンジニアとやりとりをしたりしました。現場に行ったこともありましたが、どんどん進化しているのを実感しました」

 当時とは立場が変わり、そのフォーミュラEタイヤを開発することになった今井氏。すでに開発は着々と進んでいると明かした。

「GEN4は、今とは全く別のクルマになります。どんどん速くなる……というレベルじゃない。すっごく速いクルマになる予定です。今まさしくそのタイヤの開発をしています」

「開発は佳境で、非常に面白いんです。これまでとは全然違うモノになるんじゃないかと思って、とてもワクワクしています」

フォーミュラEサプライヤーに決まったことを発表するブリヂストン 石橋秀一Global CEOと草野亜希夫 常務役員/製品開発管掌(2023年)

フォーミュラEサプライヤーに決まったことを発表するブリヂストン 石橋秀一Global CEOと草野亜希夫 常務役員/製品開発管掌(2023年)

写真: Motorsport.com Japan

 ブリヂストンのモータースポーツ用タイヤにはこれまで、ポテンザなどハイパフォーマンスタイヤの名称が使われるのが一般的であった。しかしフォーミュラEのタイヤには、「ENLITEN」(エンライトン)とプリントされることになっている。このエンライトンとは、商品ブランドの名称ではなく、ブリヂストンの商品設計基盤技術。一つの性能だけではなく、タイヤ性能全体を向上させた上で、特に強化したい性能にエッジを効かせるというコンセプトで、全天候タイヤとなるフォーミュラEにはうってつけだ。

 今井氏はこのエンライトンについて、次のように説明する。

「今ブリヂストンでは、エンライトンという商品設計基盤技術を活用してタイヤの開発を行なっています。これには接地を極める、ゴムを極める、ものづくりを極める、サステナビリティを極めるという4つの柱があります。その中で接地やゴムというのは、我々がレースで培ってきた部分です。そこにサステナビリティという、我々にとっては新しいお題をいただいてすごくワクワクしているんですよ」

「再生可能な材料を使うとか、材料を再生するとか……色々なやり方があるんです。こんなことやっていいんですか? そういう感じなんですよね。楽しくてしょうがないです」

「私が16年前にタイヤ開発をやっていた時には、全く存在していなかったような技術もたくさんあります。表現が適切かどうかわかりませんが、『IPS細胞って何?』と最初に思った時と同じような世界観です。そんなことまでやるんですか……というのがいっぱいあります」

 それがまさにフォーミュラEのタイヤ開発に繋がると、今井氏は言う。

「フォーミュラEのタイヤに求められている性能も、エンライトンと同じく全方位に大きく対応しましょうということです。全ての天候に対応できなきゃいけませんし、基本的に1スペックでシーズンを戦い切らなきゃいけません。使われる場所もサーキットであったり市街地であったり、路面もバラバラ……その全てに対応できなきゃいけないので、ひとつの部分を特化させるだけではダメなんです。ですので、今までとはちょっと違う見方もしなければいけないと思っています」

「GEN4になると、パワートレインの出力にしても空力にしても、かなりレベルが上がります。そういうマシンにエンライトンの技術で応用する、良い場をもらえたと思います。今その作業をしていますが、課題がいっぱいあって、めちゃくちゃ面白いです」

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