同じ“モータースポーツ”だけど……「この腕ひとつ」でトップを目指せるボートレースの世界。ドライバー、エンジニア、メカニックの1人3役
自動車レースとボートレースは、どちらもモーター(エンジン)のついた乗り物に乗って競うという点で共通点がある。しかしながら、競技の性質は共通点ばかりではない……BOAT RACE振興会に聞いた。
写真:BOAT RACE振興会、Masahide Kamio
モータースポーツはよく“チームスポーツ”であると評される。自動車という機械に乗り込んで行なう競技であるがゆえに、ドライバーというソフト面に限らず、ハード面……つまり車両の性能が競技結果に与える影響は大きい。その車両性能を司るエンジニアやピット作業を行なうメカニック、さらにはレース戦略を組み立てるストラテジストなど、多くの人たちの努力が結集することではじめて、レースに勝つことができるのだ。特にプロフェッショナルなカテゴリーになればなるほど、その傾向は強くなる。
しかし、同じく動力源のついた乗り物を使うプロ競技でありながら、「全てワンマンであることが魅力」だという競技がある。それがボートレースだ。
ボートレースは公営競技のひとつであるが、最近ではBOAT RACE振興会による様々なプロモーション戦略の下、イメージアップ・認知拡大を図っている。その一環として彼らが取り組んできたのが、ボートレースの“スポーツ”としての認知拡大だ。
これを実現させるべく、現在は様々なプロスポーツとコラボしており、日本最高峰のレースカテゴリーであるスーパーフォーミュラとも協業中。レースが開催されるサーキットでトークショーを行なったり、体験型アトラクションを設置したりと、積極的にPR活動を行なっている。
確かにボートレースは、舞台が水上という違いこそあるが、選手がモーター(エンジン)のついた乗り物に乗って競走し、順位を争うという点では、スーパーフォーミュラをはじめとする自動車レース競技と共通点がある。そのためか、最近ではレーシングカートの選手がボートレーサーに転身するケースも増えているのだという。
ただ競技の性質については、ボートレースと自動車レースで違いがあるように感じられる。というのも先ほど述べたように、ボートレースは分業制となっている自動車レースと違い、ボートの操縦からモーターの調整まで、全てボートレーサー個人で行なうのだ。
BOAT RACE振興会 広報部・経営戦略本部の小澤雅之ゼネラルマネージャーは、次のように語る。
「我々ボートレースの世界では、操縦からボートやモーター(の調整)まで、全て自分ひとりでやります。そこがこの世界の奥深さであり、アピールしたい点です」
「ボートレーサーは、ドライバーであるし、メカニックでもあるし、(エンジニアのように)データ分析をする人間でもあります。ボートレースの魅力は、全てワンマンであるということです」
自動車レースにおいて、選手の不振に対する責任の所在を明らかにするのは非常に難しい。F1のような開発競争のあるカテゴリーでは、そもそも各マシンの性能に差がある。その上で、エンジニアの考えるセットアップが合っていないのかもしれないし、うまく乗りこなせないドライバーのせいかもしれない。はたまたワンメイクカテゴリーであればメカニックの組み付け方ひとつで性能が変わってくるという話もある。競技の“顔”として表に立っているのはドライバーだが、舞台裏では様々な要素が絡み合っている。
写真: Masahide Kamio
しかし、ボートレースは全てが自分次第。言い訳の効かない環境なのだという。自動車レースで言えば、アマチュアの草レースやカートレースに近いものがあるかもしれない。
「ボートレースは全て自分でやりますから、悪かった点は自分でなんとかすることができます」と小澤ゼネラルマネージャー。
「例えば低速域から中速域(のパフォーマンス)が欲しいとなれば、その整備をするのは自分自身であって、それが当たったか当たらなかったかは自分の腕次第です。つまり言い訳が効かないわけなので、ボートレーサーのコメントを聞いていてもモヤモヤ感がありません」
調整力がものを言う
同じく広報部の角田寛和氏は、さらに詳細について説明してくれた。ボートレーサーたちが使用するモーターは前日検査の際に抽選によって決定するが、彼らはモーター本体やプロペラを、レース場の水質などに合わせて調整するのだという。
レース場ごとの環境は「全く別です」とキッパリ語る角田氏は、こう続ける。
「海水、(淡水と海水が混ざった)汽水、(淡水の)プールという違いがあったり、水質の硬さ、流速など……同じ水面でも全く違います。それによってペラ(プロペラ)を変えたり、モーターのセッティングを変えたりしています」
自動車レースで言えば、地面に唯一接地しているのがタイヤであり、そのタイヤのグリップをいかに最大限引き出すかがセッティングの肝になってくる。ボートレースでは、水面を捉えるプロペラがそれに当てはまると言える。プロペラも抽選によって供給されるというが、これをボートレーサーたちは木槌などで叩いて調整するのだという。
写真: BOAT RACE振興会
小澤ゼネラルマネージャーは言う。
「最終的にはプロペラとモーターがうまく合わせ込まれている必要があります。回転を上げるために、水の掴みをちょっと緩くしたり……そういったところを叩いて調整します」
「プロペラは水を掴んで逃す役割を持っていますが、(モーターと)うまくマッチすれば、力強さを出すことができますし、人より最高速を伸ばすことができます。これはプロペラ調整ひとつで変わってきます」
「また回転の上がりが悪いとなれば、(モーターの)ピストンリングを付け替えたりします。馴染んでいるものであればレスポンスが良くなったりしますし、その辺も整備力になってきます」
このように、経験値に裏付けされた整備力が非常に重要となってくるボートレースでは、高齢のレーサーも活躍しており選手寿命が長い。昨年のテレビCMでは俳優の笹野高史がボートレーサー役で起用されたが、まさに笹野氏と同世代の70代のレーサーが現役で活躍しているのだ。彼らが標榜している“誰もが躍動するスポーツ”というキャッチコピー通りだ。
そしてボートレースは、たとえ未経験者であっても、養成所で1年間訓練を積んで国家試験に合格することができれば、プロのボートレーサーになることができる。
自動車レースの場合、プロのレーシングドライバーになるまでには、カートや入門レースカテゴリーを戦うのに莫大な費用がかかり、カテゴリーを徐々に登っていく必要がある。1年でプロには到底なれない。しかしボートレーサー養成所での費用はなんと無償だという。競争倍率は20倍と厳しいが、晴れてプロになれば大金を手にするチャンスを得られる可能性がある……非常に夢のある話だ。
勝つためには一筋縄ではいかない、非常に奥の深い世界である点は、ボートレースと自動車レースも同じ。ただ、多くの人々にとってその腕ひとつで成功を収めるチャンスが開かれているという点は、ボートレースの確かな魅力だと言えるだろう。
記事をシェアもしくは保存
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。