開幕ダッシュを決めるのは誰だ! いよいよ始まる2024スーパーフォーミュラ、テスト好調は牧野任祐……第1戦も似た気候に?

3月10日に開幕戦が行なわれる2024年のスーパーフォーミュラ。2月の事前テストとは同じような気候になることが予想されているが、開幕ダッシュを決めるのは誰だ?

Tadasuke Makino, DOCOMO TEAM DANDELION RACING

 2024年のスーパーフォーミュラが、早くも開幕する。第1戦は3月10日、鈴鹿サーキットで2輪の全日本ロードレースと共に開催。全日本F2、全日本F3000時代からの往年のファンにとっては「3月の鈴鹿2&4」に懐かしさもあるかもしれないが、近年の国内トップフォーミュラとしては異例の早さでのシーズンスタートとなる。

 それに伴い、鈴鹿でのプレシーズンテストも開幕2週間前の2月下旬の実施となった。2日間のテストは悪天候でのスタートとなったが、2日目には雨が上がり、各チーム・ドライバーはドライ、ウエットの両コンディションでマシンの状態を確認することができた。

 テストでは各車の燃料搭載量やプログラムなども異なるため、そのタイム結果だけでは勢力図を推し量ることができない。ただテストを終えたドライバーたちのコメントからは、彼らの感じる手応えの一端が見え隠れする……開幕に向けて最も勢いのありそうなドライバーは誰なのか?

テストの“主役”は牧野

 まず、今回の鈴鹿テストを語る上で外せないのが、DOCOMO TEAM DANDELION RACINGの 牧野任祐だ。

 牧野は雨のセッション1(初日午前)とセッション2(初日午後)、ちょい濡れのダンプコンディションからドライに変わったセッション3(2日目午前)でトップタイムをマーク。2日目午後のセッション4でも4番手タイムをマークした。

「どうせなら全セッショントップで終わりたかったですよね。杉さん(杉崎公俊エンジニア)は(福住)仁嶺の時に3セッショントップがあったらしく、今回リーチだったのですが、惜しかったですね」と語る牧野。ただ事実上は、牧野が全セッションで“最速”だったと言って差し支えない。

 唯一の完全ドライセッションとなったセッション4でトップタイムを記録したのは山下健太(KONDO RACING)で、タイムは1分36秒327。2番手は福住仁嶺(Kids com Team KCMG)で1分36秒448、3番手は佐藤蓮(PONOS NAKAJIMA RACING)で1分36秒454だった。そして牧野が、上記3人に肉薄する1分36秒496というタイムを出して4番手だった。

 しかしトップ3人が記録したベストタイムは、オーバーテイクシステム(OTS)の使用が許可されていたセッション前半に記録されたもので、3人とも当該ラップはOTSを使っていたと認めている。山下や佐藤はOTS使用で0.4秒ほどのタイム向上が見込まれると考えており、終盤にOTSなしでトップと0.169秒差のタイムを出した牧野が速さで抜きん出ているのではないかと見立てている。

 セッション4ではショートランを繰り返し、安定して速いタイムを刻み続けていた牧野。本人も今回のテストが非常に内容の良いものになったと感じている様子で、ダンディライアン5号車のパッケージとして抱えていた問題点がかなり改善されたことがポジティブだったという。

Photo by: Masahide Kamio

 その“問題点”について、牧野は次のように語る。

「スーパーフォーミュラでは同じクルマを使っているとはいえ(車体ごとの)特性が違っていたりする中で、僕の車はオーバーステアがかなり強い傾向がありました」

「それが良い時もありますが、鈴鹿では良くない方向に振れることが多かったです。ただ今はそれが良い方向に行っていると思うので、開幕もこのままの勢いでいきたいです」

 2022年はランキング5位、2023年はランキング6位と名実共にスーパーフォーミュラのトップドライバーのひとりとなっている牧野だが、まだ優勝はない。昨年の第6戦富士ではリアム・ローソンに力負けして2位に終わり、悔しさを滲ませた。「チャンピオンももちろん考えていますが、まずは1勝を」と語る牧野。DOCOMO TEAM DANDELION RACINGはテスト総合7番手の太田格之進も含め順調な滑り出しを見せており、共通化されたダンパーにもうまく対応できている様子だが、特に牧野は要注目だ。

開幕戦は2月並の気候に。中団勢にもチャンス?

 それでは、牧野以外のテスト上位勢のコメントも振り返ってみる。

 まずはテスト総合トップの山下。ウエットのセッションでもまずまずのタイムを出し、ドライとなった最終セッションで好タイムを出した形だが、「今まで考えてきたことに取り組んで、今回のテストでは新たなものも見つかり、少しのステップは踏めていると思います」とのこと。しかしながら「それが暖かくなった時に作用するかは分かりません。冬のグリップしている時には効きましたけど……。SFは予想がつかないところがいっぱいあるので、常に不安です」とシーズンを通した一貫性という面では不安ものぞかせた。

 寒いコンディションでは、空気密度の関係でダウンフォースが出やすく、エアログリップが稼げるという側面がある。そのため暖かくなった春先や夏場に、抱える問題点が顕在化してくるというケースも少なくないのだ。

 ただ少なくとも、開幕戦は2月の鈴鹿テストと同じような気候であることが予想される。鈴鹿テストでは、ドライコンディションの2日目は気温、路面温度共に10℃前後であったが、開幕戦の週末は晴れ予想となっているものの気温は10℃を下回る予報だ。これは、気温が上がった際のパフォーマンスに不安を抱えていたチームにとっては追い風となるはずだ。

 そんな中で自信を感じさせるコメントを残したのが、テスト3番手の佐藤だ。佐藤は昨年、3月上旬のテストではチームメイトの山本尚貴と共に好タイムを記録したが、4月に開幕したシーズンでは優勝や表彰台争いに絡むことはできず。コンスタントに入賞してランキング10位となったが、中団グループから脱せなかった感は否めなかった。

Photo by: Masahide Kamio

 セッション4ではショートランとロングランを両方行ない、まずまずのタイムが出せたことで「すごく充実したテストだったと思います」と振り返った佐藤。その開催時期、そしてこれまでの“積み重ね”も相まって、開幕戦ではセットアップを大外しすることもないだろうと語る。

「昨年まではまだ手探りで、根拠と言うか、そういったものがなかったんですけど、今は積み重ねでしっかり手応えを持っています、開幕の時期も近いですし、大きな外れ方はしないといけないと思います」

「昨年はチームとしては中団上位という位置付けだったので、なんとか上位に食い込んでチャンピオン争いをしたいです。予選のポテンシャルはかなり良いところに持っていけていると思いますし、ロングランに関しては去年は(鈴鹿戦で)一度もレースを完走していないのですが、今日しっかりクルマの状況も見えているので、レースに向けての不安もなくなりました」

 また佐藤のチームメイトである山本は、事故により首に大怪我を負って手術をしてからは初めてのフォーミュラだったということもあり、フィジカル的には厳しい部分もあったというが、引き続き暖かくなってきた時にうまく走れるかが課題としつつも、テストの結果は「比較的良かった」と総括した。

Photo by: Masahide Kamio

 テスト2番手の福住は、今季から所属メーカーがホンダからトヨタになり、それに伴いチームもThreeBond RacingからKCMGに移籍となった。昨冬のKCMG“初乗り”から一貫して好タイムを連発している福住は、シリーズランキング2位となったダンディライアン時代の輝きが復活するかどうかが注目されるが、少なくとも予選一発のパフォーマンスについては方向性が見えてきているという。

 ただ、昨冬と同じ課題を抱えているとのことで、「このままならリヤタイヤがかなりキツくなるだろう」と語っている。ただ大幅な変更は必要ないと考えているようで、ステップバイステップで改善していきたい構えだ。

「前年王者」たちも黙っていない?

 もちろん、昨年の“チャンピオン”たちの動向も気になるところだ。今季は前年のドライバーズチャンピオンである宮田莉朋は不在となるが、その宮田の後任である坪井翔や、前年のチームチャンピオンであるTEAM MUGENの野尻智紀、岩佐歩夢は紛れもなくタイトル候補と言えるだろう。

 TEAM MUGENはウエットコンディションとなった初日に上位タイムを連発。ドライのセッション4では野尻が13番手、岩佐が18番手に終わったが、彼らは基本的にロングランに集中していた。ダンプコンディションのセッション3でも、岩佐がほとんど誰も走らないコンディションの中でも精力的に周回。そこで何をしていたかについてはコメントを控えており、実に不気味なところだ。

Photo by: Masahide Kamio

 テストを総括し「すごく良かったと思います。良いもの悪いものがはっきり見えたので、悪いものをどう改善していくか、どこまで改善できるかがキーポイントになると思います」と淡々と語った岩佐。目標であるF1に行くためには、同じくレッドブル育成のリアム・ローソンが昨年スーパーフォーミュラで残した結果を上回ることが重要になるだろう。そのため岩佐は「チャンピオン」だけを見据えてシーズンを戦うと繰り返し語っている。非常に高いハードルだが、テストでは確かな手応えを得られていそうだ。

 一方でデビューから5シーズン所属したCERUMO/INGINGを離れてTOM'Sに移籍した坪井は、ライバルからもかなり警戒されている。2度の王者である野尻をして「日本の中で一番パフォーマンスが高い。正直このままだと普通に(タイトルを)持っていかれるだろうと思っている」と言わしめるほどだ。

 ただ当の坪井は、テストを終えた段階では逆にTEAM MUGENとDOCOMO TEAM DANDELION RACINGが一歩抜け出しているだろうと考えている。「順調にきている部分もあれば、課題が残っている部分もたくさんあるので、期待されているほどのパフォーマンスがあるかと言われると、そこまではないんじゃないかと思っています」と控えめな坪井だが、そのコメントからは焦りや不安といったネガティブさは一切漂っていなかった。

 昨年のF2王者であるテオ・プルシェール(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)も6番手でテストを終えるなど順調ぶりを見せており、レースウィークでの走りに注目が集まる。群雄割拠の中でスタートダッシュを決め、選手権をリードするドライバーは誰なのか?

 

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