野球のように、統計学がレースの“常識”を覆す日も近い……スーパーフォーミュラが目指すデータ活用の形「ドライバーやチームの特徴を出したい」

スーパーフォーミュラは、車両から取得できるデータを活用して『データサイエンティスト育成研修』を実施している。今後はデータを活用する方法を様々模索していくことで、最終的にはドライバーやチームの個性を可視化することを目指しているという。

Ren Sato, PONOS NAKAJIMA RACING

 昨今、様々な分野において行なわれている“データ分析”。物事の全体像を把握し、正確な評価や予測を行なうためなどに活用されており、例えば先日行なわれた東京都知事選でも、“ビッグデータ”を使った情勢の分析がLINEヤフー社によって公開された。様々なデータが溢れているのはスポーツ業界にも言えることである。モータースポーツもその例に漏れず、主にマシンセットアップの面でデータ分析が用いられている。

 しかしながら、データが持つポテンシャルは無限大……活用次第では、より楽しいモータースポーツ観戦に繋げられるのではないだろうか? また他分野とのシナジーも起こせるのではないだろうか? そんな命題と向き合っているのが、スーパーフォーミュラのプロモーターである日本レースプロモーション(JRP)だ。

 今、スーパーフォーミュラは『データサイエンティスト育成研修』なるものを実施している。これはスーパーフォーミュラの車両データを使って行なわれる研修で、初回はパートナー企業の若手社員を対象にして3月に実施。第2回は参加者を広く一般から募り、7月22日(月)に富士スピードウェイで行なう。講師は東京大学大学院助教で株式会社データビークル顧問の⻄内啓氏で、ROOKIE Racingの東條力エンジニアがゲストとして登場する。

 JRPはこういった活動を通して、モータースポーツ業界に限らず「国内におけるデータサイエンティストの育成と活躍に貢献」することを目指すとしているが、モータースポーツのデータ分析がなぜ他の分野でも活きるのだろうか? 

 これについて説明してくれたのが、現在富士通からJRPに出向している美納颯太氏。彼は富士通で一般車のコネクテッド(通信)領域のシステム開発に携わっていたが、顧客のデータを社内研修などで使うことはできないため、案件を受注した時に初めて触れるようなデータも少なくなかったという。そのため、生きたデータに触れる機会というのは、システムエンジニアにとって非常に価値があるのだという。

 生のデータではいわゆる“外れ値”も多くあり、それらを的確に排除しながら分析していく必要がある。第1回の研修にゲストとして参加したTEAM MUGENの小池智彦エンジニアも「実はセンサーデータが正しくないケースに気づかずに分析してしまうことは新米エンジニアにありがちなミスであり、数字ばかり見るのは本当に危険で、限られた時間を無駄にしてしまいます。実データを用いることはこうした感性も養うことができると思います」とコメントしている。

 研修でのお題となるのは、データを使ったラップタイムの予測。受講者は与えられたデータの中からラップタイムに影響するであろうデータを見つけ、解析を進めていくことになる。タイムを予測する上で特に分かりやすいデータとしては車速が挙げられるが、目指したいのは「みんながあまり意識していないけどラップタイムに関係するデータ」だという。例えば無線のボタンやドリンクのボタンを押す回数が多いと、タイムは上がるのか下がるのか? そしてその仮説は偶然の範疇ではなく、意味のあるものなのか? そういったことを統計学的に考えていくのだ。

 データ解析をするエンジニアたちは、モータースポーツに関する業界知識に長けている者ばかりではない。だからこそ、データから客観的に見て取れる傾向を様々ピックアップすることができる。一方でそれを本職のレースエンジニアが見た場合、「それは車両セッティングによって変わるものだから……」「それはタイヤの性能劣化も絡んでくるから……」といった形で、意味を持たない可能性が高いデータを指摘することができる。このように、専門知識を持たない人間が先入観なしで立てた仮説を、専門知識を持つ人間が精査するといった二人三脚での解析は、まさに「データサイエンスの現場でやるべきだと言われていること」(美納氏)だという。

統計学では「常識が覆る瞬間がある」

写真: Masahide Kamio

 上記の研修を通して、データさえあれば専門知識を持たずとも仮説が立てられる人材、言い換えると「分野を問わずどこでも活躍できるデータサイエンティスト」を育てることに貢献しようとしているJRP。前述の美納氏に統計学の魅力を尋ねると、次のように答えた。

「思いもよらないものが見つかる瞬間ですかね。データで見たときに『こうなっちゃうんだ』と、常識が覆る瞬間が起こるのが統計学ですから」

 まさにデータ分析によって「常識が覆った」一例として挙げられるのが野球界だ。

 野球界、特にアメリカのMLBでは、“セイバーメトリクス”と呼ばれる統計学を活用した選手の評価手法が今や盛んとなっている。かつてはチームで最も優秀な打者が4番に座るというのが打順のセオリーであったが、初回に先制点を取ることの重要性などが統計学的に示されて以降、チームで最強のスラッガーが1度でも多く、そして初回から確実にバッターボックスに立てるよう、彼らを1番ないし2番で起用する流れが生まれた。MLBナショナルリーグのホームラン・キング争いを独走する大谷翔平がドジャースで主に1番打者として起用されているのには、そういった背景がある。

 また野球には打率、防御率といった様々な成績指数が太古の昔から存在するが、そういった選手の評価方法も現代では洗練されつつある。打者に関して言えば、得点への貢献度がより顕著に表れる出塁率や長打率が重宝されるようになり、投手に関しても、運や守備の要素に左右されにくい奪三振や四死球、被本塁打などを中心に評価するような流れができている。

「モータースポーツでも同じことが起こり得ると思っています」と美納氏は言う。

「今まではこれが有利と言われていたけど、実際は違うんじゃないか……そういうものをデータで見つけたい。その一歩となる研修だと思っています」

「これはまさにJRPとして取り組みたいところです。我々はドライバーやチームの特徴を出していきたいと思っています。例えば後半に強いとか、雨に強いとか……。今は我々としてもSFgoのデータが溜まってきた段階ですので、今後は解析を進めていくことで、そういったものをスタッツ(統計)として出していきたいです」

 モータースポーツは車体、タイヤ、セッティング、そしてドライバーと、様々な要素が絡む。そのため、レース結果ひとつを取っても、ドライバーの頑張りが大きかったのか、クルマが仕上がり過ぎていたのか、そういった点は実に見にくい。

 しかし、幸いなことにデータの数というのは他のスポーツに引けを取らないほど膨大にある。これらのデータを解析していくことで、ドライバーやチームのパフォーマンスを定量的に評価することができるようになれば、彼らの“個性”が際立ち、特定のドライバー・チームを「応援したくなる」環境が生まれるのではないだろうか。そしてそれがひいては、モータースポーツのさらなる人気向上に繋がる可能性も、大いにあると言える。

 なお、7月22日のデータサイエンティスト育成研修は応募締切が間近。7月10日(水)23時59分までとなっている。詳細はスーパーフォーミュラ公式サイトをチェックしていただきたい。

 

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