ライバルとの差を痛感……ホンダ・プレリュードGTの開幕戦を振り返る。課題はレースペースの安定性「まだまだ“頂上”は遠い」とHRC
スーパーGT開幕戦で上位進出を果たせなかったホンダのHRCプレリュードGT。その課題について、HRCの開発陣が語った。
#8 ARTA MUGEN HRC PRELUDE-GT
写真:: Masahide Kamio
2026年のスーパーGT開幕戦は、大方の予想通り36号車au TOM’S GR Supraが勝利。上位にスープラ勢が多く並んだこともまた予想通りであったが、今季から新GT500車両のHRCプレリュードGTで臨むホンダは、そこに一矢報いることができなかった。
最高位となったのは、16号車ARTA MUGEN HRC PRELUDE-GTの6位。以下100号車STANLEYが7位、17号車Astemoが10位、8号車ARTA MUGENが11位、64号車Moduloが13位という結果だった。パッケージとして熟成されているスープラに対抗することは簡単ではないと目されていたが、それでも2年前のシビック・タイプR-GTのデビュー時には岡山で表彰台に食い込んでいるだけに、今回の結果は「初戦だから仕方がない」という言葉だけで片付けられるものではないだろう。定例の囲み取材でいつも懇切丁寧に話をしてくれるHRC(ホンダ・レーシング)の開発陣からも、落胆の色が浮かんでいるように見受けられた。
課題は明確に
「今回はプレリュードのデビューレースということで、ライバルのマシンと共に予選・決勝を戦うという最初の機会でした。昨日までの展開から、レースでも苦しい展開になることは想定していましたが、ライバル各社との差を改めて示されてしまう結果となりました」
レースをこのように総括したのは、今年からスーパーGTのプロジェクト全体を統括する徃西友宏LPL。彼はさらにこう続ける。
「我々も改善すべき課題が多いことが明らかになりましたが、開発の成果がすぐに結果として確認できることはレースにおける車両開発の良いところでもありますので、ラウンド2までの期間にやれることをしっかり考えて、課題を少しでも改善できればと思います」
「今回のラウンド1で『ここが負けている』という場所が明らかにはなっていますので、改善を続けていきます」
このように、課題は明確であったと話す徃西LPL。その課題とは——。
「レースペースに関して、トップを走れるようなペースが、我々5台の中で1台もなかったというところです」
最上位は16号車の6位
写真: Masahide Kamio
「特定の時間帯ではトップの車両と同じようなペースで走れるところも確かにあったのですが、スタートからゴールまで(安定したペースで走る)……という点では、そこまでの力がまだなかったと思います」
ホンダ陣営は今季ベース車両がシビックからプレリュードに変わった中で、3月末の仕様凍結までの間に空力開発を進め、並行してプレリュードに適したセットアップも模索してきたが、現状では最適化ができているわけではない。ARTA 16号車の小池智彦エンジニア曰く「5台それぞれに強みがある」状態とのことだ。2020年以来ベース車両を変更しておらず、今季に向けた空力開発でもミラーのステー以外は変更しなかったというトヨタ陣営とは、熟成度合いに大きな差があるのは確かだろう。
トラフィック下でも安定するau TOM’S
中でも絶対王者au TOM’Sは、今回の開幕戦でも2位以下に約20秒の差をつけて完勝した。これにはドライバーの力量も含め様々な要因があるだろうが、彼らはトラフィック下でも安定したペースで走れているという声もある。
1周が短い岡山国際サーキットでは、GT300車両のトラフィックに遭遇することも必然的に多くなる。GT500のドライバーはこれらのマシンをかき分けながら、タイムロスを最小限に抑えなければならないが、理想のレコードラインから外れたところを走行する必要がある上に、前車の乱流を受けてダウンフォースにも影響が出るはずで、それは容易ではない。
#100 STANLEY HRC PRELUDE-GT
写真: Masahide Kamio
土曜フリー走行のロングランや決勝レースのラップタイム推移を見ても、プレリュード勢にトラフィックの影響と思われるラップタイムの乱高下が見られた一方、au TOM'Sはその振れ幅が小さかった印象。これも、プレリュードがレースペースに苦しんだ要因のひとつなのだろうか。実際、ホンダ陣営からは前のマシンに追従した際やレコードラインを外した際のパフォーマンスに関してはあまりポジティブな声が聞かれていない様子だ。
今季からHRCのテクニカルディレクター(TD)としてホンダ陣営のチーム・ドライバーと連携をとっている長谷川彰大氏も、「プレリュードはシビックの時に比べて(追従走行時に)ダウンフォースが抜けやすいんじゃないかという声も確かに出ています」と補足。加えて徃西LPLも「コーナー区間については予選アタックではそこまで負けていない印象ですが、レース中にGT300を抜きながらのコーナリングでプレリュードが秀でていたという評価はあまりなかった」としている。
そしてau TOM'Sのロングランが安定している理由について徃西LPLは、「混み合った中でもタイムの波が少ないのは、ライン取りの自由度が高いのではないでしょうか」と推察する。
「一般的に、ベストなラインでアプローチしている時は速いけど、ラインを外しながら抜いていく時に、レースで速いクルマに対して離されてしまうという話は以前から色んなドライバーさんから聞きます。36号車(au TOM'S)もタイムロスはしていると思いますが、我々のクルマ、36号車以外のクルマはよりロスしてしまっているのかもしれません」
非常に安定したレースペースを見せたau TOM'S
写真: Masahide Kamio
「これはあくまで予想ですが、単独で走る時のライン取りに特化したセットアップではなく、そこにピークを持ってこない観点でセットアップをして、地力を上げていることも考えられます」
次戦の舞台は富士。レースに向けてはストレートスピードが課題という声も挙がっており、ARTAの小池エンジニアも「予選でなるべく前にいかないと厳しいかなと思います」と見立てている。ただプレリュード勢は事前のテストでまずまずの好タイムをマークしており、その「予選で前にいく」ということに関しては、岡山以上に狙っていけるかもしれない。
“跳ね”はプレリュード固有の問題ではない?
もうひとつ、開幕戦でのホンダ陣営での大きなトピックのひとつとなったのが、予選でのARTA MUGEN 8号車のクラッシュ。大津弘樹が高速右コーナーのマイクナイトに進入する際に外側のダートへと飛び出し、そのまま止まりきれずにバリアに激突してしまった。この時、8号車の車体が激しく跳ねていたことが話題となった。
ドライバーの大津も「結果としては自分のミス」だとしながらも、「めちゃくちゃ攻めたわけではないし、縁石も乗っていない。跳ねた時の挙動が大きく、跳ねてからは全くコントロールできなかった」と説明している。そのため、これはプレリュードGT特有の症状ではないかと推測する向きもあった。
長谷川TD曰く、この時の大津のマイクナイトへの進入スピードは、他と比べて「ちょっと速い」領域にあったとのこと。徃西LPLは、車両の跳ねがプレリュード固有の問題かは断言できないとしつつ、ドライバーのプッシュを受け止めきれないのは熟成不足も関係しているはずだと述べた。
「ホンダ勢の中でセットアップやコーナーの攻め方に差があるので、プレリュード固有の問題かと言われるとハッキリと申し上げるのが難しいです。ただ岡山のあの区間は元々そういう(路面のギャップにより車両が跳ねる)特徴があるので、我々のクルマが仕上げの途上にあるところが、ドライバーさんがギリギリを攻めるとそうなる……という部分に影響してしまっているのかもしれません」
「今日の8号車のセットアップ含めたパッケージだと、あそこのギャップを起点とした跳ねが収束しないまま、グリップも回復せずに何もできなかったのだと思います。ドライバーさんの気持ちとして、もうひと頑張りいきたいところで、それをクルマの方がまだ受け止められていないというのは、我々のクルマの仕上げ状態含めてちょっと足りなかったなと重く受け止めています」
8号車はスペアのカウルで決勝レースに
写真: Masahide Kamio
またARTA MUGENの小池エンジニアにもこの件の見解を問うと、車両が跳ねやすい傾向はプレリュード特有というよりも、ホンダ陣営としての以前からの特徴ではないかと述べた。
「跳ねに関しては正直、NSX-GTの時からホンダが持っているものなのかなと。ピークのパフォーマンスが出せる分、そういうところもあるのだと思います」
ただその一方で、クラッシュがあった8号車の僚機16号車を担当する小池エンジニアは、マイクナイトでは無理をしないようにしていると話す。
「マイクナイトに関してはメーカーの考え方、エンジニアの考え方にもよると思いますが、全車跳ねるところではあります」
「また、このサーキットでマイクナイトのような(高速)コーナーは1箇所しかありません。そこが多少遅くなっても大きくタイムを失わないと思うので、16号車としては(セットアップの面でも)そこは捨てて、ドライバーにもあまり無理をしないよう伝えています」
頂上は高い
開幕戦は、トップ5にすら入れないという結果に終わったホンダ陣営。今季残る6レースでポテンシャルを解放し、ライバルに一泡吹かせたいところだ。
4連覇を目指すスープラ勢に対抗できるか
写真: Masahide Kamio
今回のレースは、プレリュードにとってどんな船出になったかと尋ねられた徃西LPLは、登山になぞらえてこう表現した。
「『これからこんな山を登るのか』というものが目の前にあり、そこをどのくらい登れたのか確認するために今日来たのですが、まだまだ頂上は遠いなと思いました」
「ただ、自分たちで高い目標値を設定するよりも、(ライバルに対して)明らかに差を示されたところに向かっていく方が逆にやりがいがあるのかなと思います。『最初こんなに差があったところから始まったのにね』という話ができるようにしたいです」
「楽しみに来ていただいたお客さんをがっかりさせてしまったのは申し訳ないですが、ここから挽回していきたいです」
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