F1・ザ・ルーツ(番外編):これまで蜜月関係を築いたメーカー多数、そして次はアウディと……しぶとい、しぶといザウバーの処世術

2026年からアウディのワークスチームになることが決まっているザウバー。現在はアルファロメオとして参戦しているが、これまで数多くの自動車メーカーのワークスチームを務めてきた、F1界で最も優れた処世術を持っているチームと言える。

JJ Lehto, Sauber C12

 現在アルファロメオとして参戦しているザウバーは、1993年のF1デビュー以来、ずっとその母体が変わっていないチームだ。このように母体が変わっていない現役チームは、フェラーリやマクラーレン、ウイリアムズ、そしてまだ参戦歴の浅いハースにこのザウバーを足した5チームと半数である。

 そんな中でもこのザウバーは、特異な経歴であると言えよう。

 ザウバーがF1に打って出たのは、前述の通り1993年。メルセデスのワークス参戦の先鋒として、”コンセプト・バイ・メルセデス”のロゴを纏ってのF1挑戦だった。

J.J. Lehto, Sauber C12 Ilmor

J.J. Lehto, Sauber C12 Ilmor

Photo by: Motorsport Images

 ペーター・ザウバーが1970年に立ち上げたコンストラクター”ザウバー”は1980年代、メルセデスのワークスチームとしてグループCカーを走らせ、世界スポーツプロトタイプカー選手権でタイトルを獲得したり、ル・マン24時間レースを制するなどしていた。そしてメルセデスがF1参戦を目指すための先鋒として、1993年のグランプリに登場したのだ。

 このザウバーの最初のF1マシンC12は、漆黒と白のカラーリングであり、独特の存在感を放っていた。搭載されていたのは、前年までティレルなどが使っていたイルモアV10。しかし戦闘力は高く、カール・ヴェンドリンガーとJ.J.レートのコンビが6回の入賞を果たし、コンストラクターズランキング7位となった。

 1994年からはメルセデスが本格的にF1参入。イルモアの株式を取得したことで、エンジンの名称にも晴れて”メルセデス”の名が付けられることになった。

 ただそのメルセデスは、同年限りでザウバーとの関係を解消。翌年からマクラーレンをパートナーに選ぶことになった。

Karl Wendlinger, Sauber C14 Ford

Karl Wendlinger, Sauber C14 Ford

Photo by: Motorsport Images

 メルセデスに去られてしまったザウバーは、ベネトンと袂を別ったフォードと提携。1994年のチャンピオンエンジンであるZETEC-Rのワークス供給を受けることになった。ただそのフォードとの提携も2年で終了。フォードは1997年から、新規参戦することになったスチュワートに独占供給することとなり、ザウバーはまたしてもパートナーを失うことになった。

Felipe Massa, Sauber Petronas C24 attempts to overtake David Coulthard, Red Bull Racing Cosworth RB1

Felipe Massa, Sauber Petronas C24 attempts to overtake David Coulthard, Red Bull Racing Cosworth RB1

Photo by: Charles Coates / Motorsport Images

 1997年からはフェラーリのカスタマーエンジンを使用。かつてホンダやフェラーリでエンジン開発を担当した後藤治もチームに加入し、スポンサーである”ペトロナス”のバッジをつけた。その後はフェラーリとの関係を徐々に強化していき、2004年にはフェラーリと瓜二つのマシンを走らせたり、ギヤボックスの供給を受けたり、フェラーリ育成のフェリペ・マッサを起用するなど、実質的なフェラーリのジュニアチームとして機能した。

 2005年、ザウバーはBMWに買収されたことが発表された。そして2006年からはBMWザウバーとして参戦することになった。

Robert Kubica, BMW Sauber F1.08 celebrates his maiden victory

Robert Kubica, BMW Sauber F1.08 celebrates his maiden victory

Photo by: Motorsport Images

 チームはBMWの所有となったが、ファクトリーは引き続きスイスのヒンウィルにあるザウバーのモノが使われた。

 このBMWザウバーは、2007年にコンストラクターズランキング2位、2008年には同3位に入るなど、トップチームの仲間入りを果たした。2008年のカナダGPでは、ロバート・クビサによりチームとしての初優勝も記録している。

 しかしチームの運命は2009年に一変する。7月にBMWが同年限りでF1を撤退することを発表。最終的にチームは、ペーター・ザウバーが買い戻す形となった。

Kamui Kobayashi, Sauber C31, leads Fernando Alonso, Ferrari F2012

Kamui Kobayashi, Sauber C31, leads Fernando Alonso, Ferrari F2012

Photo by: Andrew Hone / Motorsport Images

 2010年は小林可夢偉がチームに加入。前年に続きBMWザウバーとしてのエントリーとなったが、フェラーリのエンジンを手に入れることになった。2011年からはエントリー名もザウバーに戻り、2012年には小林とセルジオ・ペレスのコンビで好成績を収め、表彰台4回を獲得。コンストラクターズランキング6位となった。

 その後はフェラーリのエンジンを使うカスタマー契約時代が続いたが、2017年には翌年からホンダのカスタマーパワーユニットを使うことが発表された。ただ当時代表を努めていたモニシャ・カルテンボーンが辞任し、フレデリック・バスールが代表に就任すると、ホンダとの契約を即座に破棄。引き続きフェラーリのパワーユニットを使うことになった。

Valtteri Bottas, Alfa Romeo C42

Valtteri Bottas, Alfa Romeo C42

Photo by: Alfa Romeo

 2018年には、フェラーリの育成ドライバーであるシャルル・ルクレールをデビューさせるなど、フェラーリとの関係が強まった。そしてメインスポンサーにアルファロメオが就任。翌年2019年からはネーミングライツの契約を結んだことで、チームの名称がアルファロメオとなり、ザウバーの名前が外れた。

 ただこのアルファロメオとの関係も、2023年で終了することがアナウンスされた。そして2年間ザウバーとして参戦した後、パワーユニットのレギュレーションが大きく変更される2026年から、アウディのワークスチームを務めることになる。アウディはこれが初のF1挑戦ということになる。

The new Audi Sport F1 concept car

The new Audi Sport F1 concept car

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 つまり整理すると、ザウバーはF1でのキャリアでメルセデス→フォード→フェラーリ→BMW→フェラーリ→(ホンダ)→フェラーリ→アルファロメオ→アウディと、数多くのメーカーの間を渡り歩いてきたことになる。しかもメルセデス、フォード、BMW、アウディは、ワークス体制での参戦。まさに優れた処世術と言えよう。

 逆にザウバーはそれだけ、メーカーから見ても堅実にレースを戦う、魅力的な存在に映るのだろう。

■メルセデス:1993年〜1994年
主なドライバー:カール・ヴェンドリンガー、J.J.レート、ハインツ-ハラルト・フレンツェン、アンドレア・デ・チェザリス
最高位:4位

■フォード:1995年〜1996年
主なドライバー:カール・ヴェンドリンガー、ハインツ-ハラルド・フレンツェン、ジョニー・ハーバート、ジャン-クリストフ・ブイヨン
最高位:3位

■フェラーリ(ペトロナス):1997年〜2005年
主なドライバー:ジョニー・ハーバート、ジャン・アレジ、ペドロ・ディニス、ニック・ハイドフェルド、キミ・ライコネン、フェリペ・マッサ、ジャンカルロ・フィジケラ、ハインツ-ハラルド・フレンツェン、ジャック・ビルヌーブ
最高位:3位

■BMW:2006年〜2009年
主なドライバー:ロバート・クビサ、ニック・ハイドフェルド、ジャック・ビルヌーブ、セバスチャン・ベッテル
最高位:優勝

■フェラーリ:2010年〜2019年
主なドライバー:セルジオ・ペレス、小林可夢偉、シャルル・ルクレール、ニコ・ヒュルケンベルグ、ペドロ・デ・ラ・ロサ、マーカス・エリクソン、エステバン・グティエレス、バルテリ・ボッタス、周冠宇
最高位:2位

■アルファロメオ:2020年〜2023年
主なドライバー:キミ・ライコネン、アントニオ・ジョビナッツィ、バルテリ・ボッタス、周冠宇
最高位:4位

■フェラーリ:2024〜2025年
主なドライバー:?
最高位:?

■アウディ:2026年〜
主なドライバー:?
最高位:?

 
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