【インタビュー】サッシャ・フェネストラズ:第1回「プロになる夢が叶った」
2020年は日本の2大トップカテゴリーであるスーパーGTのGT500クラス、そしてスーパーフォーミュラに参戦するサッシャ・フェネストラズ。そんな彼にインタビューを行ない、その率直な心境を訊いた。
今シーズン、KONDO RACINGからスーパーフォーミュラに、トムスからスーパーGTのGT500クラスに挑戦が決まったサッシャ・フェネストラズ。フランス人の両親を持ちアルゼンチンに暮らす彼は、弱冠20歳にして日本のレースのふたつの頂点に上り詰めた。本来ならすでに両シリーズの開幕戦を戦っているはずのフェネストラズ。ところが新型コロナウイルス禍が広がったためにレースは延期、東京のアパートで開幕の日を待っている。
motorsport.comでは、この期待の新人の日常に密着した。20歳の若者は日本のトップカテゴリー参戦を前に何を思い、何をしているのか? まずはインタビュー第1回目。
ーースーパーフォーミュラとスーパーGT、ふたつのトップカテゴリー初挑戦の年がとんでもない厄災に見舞われました。開幕の目処がたたない状況はルーキーにとって厳しいですね。
「簡単じゃない。なるべく家から出ないようにして、トレーニングしている。家にいてもフィジカル、メンタル両方のトレーニングができるのはいいけど、クルマを運転するのとは違うので……。でも、しばらくは待たないといけないだろう。モチベーションを保つのも難しい。すぐにレースができると思うから興奮するのだけど、中止や延期が相次ぐとアドレナリンが下がってしまう。今は耐えることが大切だけど」
ーーテストまで行なわれてからの延期発表ですからね。
「テストが行なわれると例年通りシーズンが開幕すると考えるだろう。それが突然2ヵ月、3ヵ月のブランクになるのだから、なんだかもうシーズンが終了したみたいだ。フラストレーションが溜まる。でも、重要なのは毎日休まずトレーニングに励むことだと思っている。クルマには乗れないけどね」
ーースーパーフォーミュラのテストは経験できたわけですが、クルマの感触はどうでしたか?
「ダウンフォース、パワー、ブレーキング……どれも凄く強烈だった。F1に非常に近いと感じた。鈴鹿でのF1のレースタイムとスーパーフォーミュラの予選タイムは2〜3秒しか違わないと思う。とんでもない速さだ。運転は難しいところもあるけど、全体的にはとても好感触を得た。テストは富士スピードウェイで1回行なわれただけなので、他のチームやライバルとの比較は時期尚早だ。誰もプッシュしていないし、タイヤに関しても突き詰めていない。テストではソフトコンパウンドを使ったけど、誰が新品を使ったのかもわからない。テストではトップ5に入ったけど、そのタイムは参考にならない。いつになるかわからないけど、開幕戦の予選を走るまで見当がつかない」
■来日1年目からF3とGT300で大活躍
サッシャ・フェネストラズ(B-Max Racing with motopark)
Photo by: Masahide Kamio
ーーところで、何がきっかけで日本でレースをすることになったのですか?
「2年前のマカオGPで僕のチームに日本人の片山(義章)選手がいた。岡山国際サーキットのオーナーの息子で、彼が誘ってくれて岡山国際サーキットでテストをした。そこで日本が気に入って、B-Max Racing with motoparkで全日本F3を戦うことになったんだ。すると、去年の1月になってKONDO RACINGからスーパーGT(GT300クラス)に出ないかという誘いの電話があった。僕はスーパーGTに強い興味を持っていたので、ふたつ返事で誘いを受けた。シーズンが開幕して好調なレースが続き、確か7月くらいに、トヨタと日産から今年以降のことに関して話があった」
ーーフォーミュラとGT、ルーキードライバーにとってタフなシーズンの始まりですね。
「どちらのレースも大切だったけど、僕の中ではやはり優先されるのはF3だった。KONDO RACINGで走ったGT300は初めてだし、あんな重いクルマに乗ったことはなかった。開幕前にもほとんど練習できなかったから、F3とGT300を乗り換えるのが結構大変だった。シミュレーターでF3とGTと交互に走らせて、嫌になるほど練習もした。それが随分練習になったし、勉強にもなった」
ーーF3では初年度にしてチャンピオンを獲得出来ました。
「簡単じゃなかった。僕もモトパークも日本のサーキットは知らないし、ヨコハマタイヤは初めてだ。とにかく覚えることが多かった。でも、僕もチームもドンドンいろんなことを覚えていって、レースの度に内容が良くなっていったと思う。タイトルを獲れたのは素直に嬉しかった」
ーースーパーフォーミュラのテストではチームメイトの山下健太を凌ぐタイムを出しました。
「ああ、でも今の段階で比較するのはあまり意味がない。彼は僕のチームメイトだから彼がタイヤをどう使っているかわかったし、勉強になった。スーパーフォーミュラでは山下、スーパーGTでは関口(雄飛)とチームメイトで、ふたりのトップドライバーから可能な限りのことを吸収しようと思っている。早く彼らを凌ぎたい。スーパーフォーミュラではふたりがお互いに成長できる環境だと思っている。KONDO RACINGは昨年は厳しいシーズンだったようで、今年は僕たちが力を合わせてチームを盛り上げていきたい」
ーーKONDO RACINGでは昨年スーパーGTを走っている。気心の知れたチームといえるか?
「同じチームだけど、スタッフは違う。KONDO RACINGは先ほども言ったように、去年は困難なシーズンだった。そこで、少しでもチームのためになるようにと、テストではヨーロッパのやり方を試してみた。日本のテストもヨーロッパのそれとそれほど違うとは思わないが、走り込むことだけを重要視するような気がしていた。ヨーロッパではとにかく数周走ってはあれをやり、また数周走ってはこれをやるという風に、本当にクルマの細かい点を調整していく。KONDO RACINGはそのやり方を取り入れてから、テストが重要な意味を持ち始めた。もちろんまだまだやらなきゃいけないことは多いけど、方向性が見えてきた」
■「プロのドライバーになるという夢を叶えてくれたトヨタに感謝」
#36 au TOM'S GR Supra
Photo by: Masahide Kamio
ーースーパーGTはトムスから、それもGT500への挑戦です。
「トムスは2年前に僕をF3で走らせたいと言ってくれた。でも、去年話が進んだ時にはトムスは2人のドライバーと契約しており、僕の入り込む余地はなかった。そこで僕はモトパークでF3を走ったのだけど、トムスは1年間ずっと僕のことを見てくれていたようだ。それで今年の話になった時、トムスも僕をスーパーフォーミュラに乗せたかったようだけど、僕は去年KONDO RACINGからスーパーGTを走っており、その関係から彼らのチームでスーパーフォーミュラに出ることにした。結果的にトムスでスーパーGTを走る事になったけど、僕にとれば素晴らしい環境を手に入れられたと思っている」
ーースーパーGTでドライブするのはGRスープラですね。
「楽しみだ。僕は今年が実質的なプロとしての初めてのシーズンだと考えている。その最初の年にトヨタの新車スープラで戦えることに興奮している。今クルマはTRDと一緒に開発していて、テストを走っただけだけど、高いパフォーマンスを経験した。開幕までにはまだまだ速くなると思う。2年前にDTMのクルマをテストしたことがあるけど、感覚は似ていると思う。去年一度だけテストをさせて貰ったレクサス(LC500)は運転がとても難しかったけど、スープラはとても運転しやすく感じた」
ーー開幕が待ち遠しいですね。
「今シーズンのスーパーGTはどこのチームも新しいクルマだ。もちろん(37号車 KeePer TOM'Sの)平川(亮)君などは去年1年間スープラの開発をしていたので、僕と較べてクルマのことはよく分かっているだろうし、それが彼らのアドバンテージになると思う。ただ僕に取ればスーパーGTのGT500クラスはまったく新しいカテゴリーのレースで、新しい世界へ足を踏み入れるという意味で大きな期待を抱いている。僕の夢は、最終的にはみんなと同じようにF1に乗ることだけど、もうひとつはプロのレーシングドライバーになり、プロとして生きていくことだった。そのプロになるという夢は今年叶えられたんだ。それもここ日本で、素晴らしい環境で。20歳の若造にそのチャンスをくれたトヨタには感謝しかない」(第1回終わり。次回に続く)
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