モータースポーツを支える企業:タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)【第1回】

モータースポーツ界に革新の風を

Toshiki Oyu, TCS NAKAJIMA RACING

 我が国のトップカテゴリー・レース、スーパーフォーミュラ。そのレースに参戦する中嶋レーシングが走らせるマシン、ダラーラSF19のボディサイドには「TCS」の文字(ロゴ)が鮮やかに描かれている。TCSはインドのコングロマリット(巨大複合企業体)タタ・グループの中核企業タタコンサルタンシーサービシズの略称だ。TCSは2017年から中嶋レーシングのスーパーフォーミュラ活動をサポートし、今年で6年目を迎える。本稿では、中嶋レーシングを支えるTCSに焦点を当て、巨大IT企業のモータースポーツとの関わりを見ていく。

 インドを代表するコングロマリットであるタタ・グループ。1868年に29歳のJ.N.タタによって創業され、右肩上がりの成長を続けてきた。現在、10業種、上場企業29社で構成され、100を超える国でビジネスを展開する。総従業員数は80万人を超える。

 業種はおよそ考えられるものほとんどをカバーする。貿易、発電、製鉄、化学、機械、消費財、IT、通信、金融、旅行……等など。よく知られたところでは、ジャガー・ランドローバーといった自動車メーカーも傘下に収める。そのタタ・グループ、総収入は1,030億ドル、上場29社の時価総額は3,140億ドルに達する(2021年12月31日現在) 。

 ところで、この収益の70%は、グループ傘下のIT(Information Technology=情報技術)サービス企業のTCSが稼ぎ出す。では、TCSとはいったいいかなる企業か? いかなるビジネスを展開しているのか? その実態を見ていく前に、まずTCSの50年を牽引してきた4人のリーダーの横顔を紹介する。

4人の精鋭リーダー

 TCSがタタ・サンズ(タタ・グループの持ち株会社)の一事業部門として設立されたのは1968年。初代CEOはTCS設立時にゼネラルマネージャーを務めていF.C.コーリ(Faqir Chand Kohli、1924〜2020)。彼はたぐいまれな先見性と実行力で国内外にビジネスを広げていき、TCSをインド随一のITサービス企業に仕立て上げた。在任28年の間にITとデジタル技術を駆使してビジネス、エンジニアリングなどの分野でサービスとソリューションを提供してきた。ITを国家の主要産業にまで発展させたコーリは「インドのソフトウエア産業の父 」と呼ばれ、その功績は今もなおインド国民の尊敬を集めている。コーリがCEOを務めていた1987年、TCSは日本に進出している。

 コーリの後を継いで2代目CEOに就任したのはスブラマニアン・ラマドライ(Suburamaniam Ramadorai、1945〜)。世界的なインターネット普及などを背景に増え続けるITサービスのニーズを捉え、グローバルビジネスを拡大、株式上場も果たした。その結果、彼がCEOを務めた13年の間にTCSの年商は1.4億ドルから60億ドルへと急成長、世界のITサービス企業トップ10にランクインした。

ナタラジャン・チャンドラセカラン元CEO

ナタラジャン・チャンドラセカラン元CEO

Photo by: Tata Consultancy Services Japan

 3代目のCEOは2009年に就任したナタラジャン・チャンドラセカラン(Natarajan Chandrasekaran、1963〜)。彼の業績はM&Aやパートナーシップの強化によるビジネスの拡大と同時に、社会貢献活動の積極的な展開だった。この活動はタタ・グループの創業者精神に則ったもの。年商も63億ドルから160億ドルに伸ばし、2017年には非パールシー(非ゾロアスター教徒)として初のタタ・グループ会長に就任した。彼のCEO時代の2012年、日本では、三菱商事との合弁で日本TCSソリューションセンターを設立、2014年にはアイ・ティ・フロンティア(三菱商事グループのITサービス企業)、タタコンサルタンシーサービスジャパン、日本TCSソリューションセンターの3社が統合し、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社(日本TCS)が発足した。

日本TCS発足の際に行われた鏡割り

日本TCS発足の際に行われた鏡割り

Photo by: Tata Consultancy Services Japan

 2017年、チャンドラセカランがタタ・グループ(タタ・サンズ)会長に就任すると、その後継としてラジェシュ・ゴピナタン(Rajesh Gopinathan、1971〜)がTCS CEOに弱冠46歳で就任した。この年、TCSは全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦する中嶋レーシングに、タイトルスポンサー兼テクノロジーパートナーとして名乗りを上げている。この決定にはチャンドラセカランのサポートもあった。翌2018年4月、TCSはインド企業としては2番目となる時価総額1,000億ドルを超える会社に成長した。

 創業から50年あまり、この4人のCEOに牽引されて高成長を続けてきたTCSは、2022年3月期、257億ドルの売上を記録している。従業員数は全世界で約60万人、タタ・グループ全体の70%を占める。事業を展開する国は46ヶ国。世界にはTCSの他にも、コンピュータハードウエアメーカーとして創業したIBM、会計コンサルティングファームとして創業したアクセンチュアといった巨大ITサービス企業が存在するが、TCSがこれらの2社と異なるのは、出発点がITによるエンジニアリング、システム開発というデジタル技術を駆使したコンサルティングを行ってきたという点だ。現在は、IBM、アクセンチュアもTCSと同様にITあるいはデジタルを取り入れてコンサルティングサービスを提供する方向に舵を切っているが、出発点がデジタル技術を使ったITという点がTCSの特長といってよかろう。

顧客に開く無限の門戸

 では、TCSの具体的な事業とは? それはITテクノロジーをビジネスの中でどのように活用するか、というコンサルティングサービスだ。消費者のニーズが「モノ」から「コト」にシフトする現代、その「コト」を持続可能な商品として提供する企業のビジネスを手助けする。この形のない「コト」を商品として扱うのはなかなか難しい。そのため、企業はデータ取得やデータの高度な分析を必要とする。しかし、それらをビジネスに繋げるには、自社内のリソースだけで実現するのはこれまた非常に難しい。そこで、TCSが力を発揮する。

 実は、先にも触れたようにTCSはハードウエアを製造していない。PCや携帯電話など形あるものを商品として用意していない。それでコンサルティングができるのかと言われれば、それだからこそ顧客の求めるサポートを提供できるのである。

 まず、ハードウエアに蹂躙されることがない。これは、顧客やパートナーに対して門戸を広く開いていることを意味する。そしてサービスとして提供するソフトウエアに関しても、TCSが独自に開発したものもあれば、他社の既存のソフトウエアを採用することもある。つまり、顧客のニーズにあったソフトウエアであれば、それがどこの製品であれ機動的に対応する。そのために、市場にどのようなサービスやソリューションがあるのか常に目を光らせている。顧客にとって有益な価値を提供できるコンサルティングとはどのようなものか、TCSは常に考えているのだ。TCSではその手法をベンダーニュートラル(Vendor-neutral)、テクノロジーニュートラル(Technology-neutral)と呼ぶ。特定の製品や技術に依存しない“中立性”を意味する。

 では、TCSのコンサルティングの特徴とは何か? それは、個別の領域において専門的なビジネスを構築するという手法だ。手を入れるべきは基幹システムなのか、あるいはアプリケーションなのかを理解した上で、顧客の課題を捉えてコンサルティングを提供する。それには携わる業界の課題を捉えて解決策を提供する必要がある。例えば、TCSが長くコンサルティングに携わる金融業界。金融はグローバルな意味では非常に大きなマーケットのビジネスだ。しかし、国によって法規制が異なったり、ビジネス形態が違ったりして一筋縄ではいかない。そこで、まずそれぞれの国や地域の金融システムを理解した上でシステムを構築し、顧客に対して最善の方法で課題解決を行う。この臨機応変な姿勢こそ、TCSの強みということができる。

 次回第2回では、タタ・グループが取り組む社会貢献活動やスポーツイベントへの貢献、またTCSの日本での活動に焦点を当てる。具体的には、TCSは中嶋レーシングとの協働で何を提供し、そこから何を得ているのか見ていきたい。(続く)

 
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