美しきF1マシン:「片山右京がデビュー。色も形も”戦い”も、記憶に残る1台」ヴェンチュリLC92
1992年にF1デビューを果たした片山右京。前年全日本F3000でチャンピオンを獲得した彼のF1最初の相棒となったのがヴェンチュリLC92。カラフルなそのマシンは、日本のF1ファンにとっても印象的な1台だったのではないだろうか。
2016年11月、鈴鹿サーキットで行なわれたSUZUKA Sound of ENGINE 2016のグリッドで、ひときわ注目を集めるマシンがあった。黄色・緑・赤・黒……様々な色で塗り分けられたF1マシン、ヴェンチュリLC92である。
「こんなに美しいマシンだったのか」
この日、当時のレーシングスーツに袖を通し、傍らでこのマシンを見つめた片山右京はそう語った。このマシンは片山右京が1992年にF1デビューを飾った際の相棒だったのである。
1987年にF1デビューしたラルースは、ローラ製のマシンを駆り、1990年の日本GPでは鈴木亜久里の手により3位表彰台を獲得するなど、まずまずの活躍を見せていた。しかし1991年限りで倒産。これをフランスの自動車メーカーであるヴェンチュリが支援する形で存続し、ヴェンチュリ・ラルースとして1992年シーズンを戦うことになった。
前年はローラ製マシンにフォードエンジンを搭載したマシンLC91を走らせたが、この年からはランボルギーニV12エンジンを自社製シャシーに搭載。そうして誕生したのがヴェンチュリLC92である。
シーズン序盤は予備予選(当時は16チーム最大32台がエントリーしていたため、予選に出走する30台を絞り込むため、うち6台に予備予選からの走行が定められ、上位4台のみが予選に駒を進めることができた)への出走を強いられたヴェンチュリ。第6戦モナコで片山右京がこの予備予選で脱落してしまったものの、チームメイトのベルトラン・ガショーが決勝で6位入賞。貴重な1ポイントを手にし、シーズン後半は予備予選出走を免除されることになった。
ただこのLC92は、出走機会29回中、19回でリタイアと、信頼性の面では苦しんだ。特にガショーはリタイア11回を記録している。片山曰くマシンの剛性は低く「バラバラになるかもしれない」と感じたこともあったという。その上、ランボルギーニV12エンジンは重かった。
とはいえモノコック自体の剛性レベルは当時最高クラス。片山も、パフォーマンスの面では光るものもあったと言う。
「実はハード面は良いモノが揃っていた。エンジンもパワーがあったし、シャシーも翌年の初めに乗ることになるティレル020よりも全然良かった」
ティレル020は1991年にデビューしたマシンで、片山がティレルに加入した1993年の前半まで使われ続けた。しかも片山は、中嶋悟が1991年に乗ったのとまったく同じモノコックに乗ったという話もある。
話をLC92に戻そう。
LC92は入賞1回ながら、低く細いノーズ、細く絞り込まれたノーズ、独創的なカラフルなカラーリング……そういう意味では美しいマシンだと言えるだろう。だからこそ、片山の冒頭の”美しい”という発言になったのだろう。
F1での片山といえば、1994年の活躍が取り上げられるし、自身もそう語っている。しかし2016年にLC92と1992年以来の再会を果たした時、片山はこうも語った。
「実はあんまり思い入れはないと思っていた。色は派手だし、レーシングスーツも格好良く見えないし……むしろ滑稽だと思っていた。でも今見たらそれも斬新だし、F1のデビューイヤーだから、特別な思い入れがあったみたい」
片山のこの年の最高位は、ブラジルGPとイタリアGPの9位。今ならば入賞2回という形になるが、当時の入賞は6位まで……片山のデビューイヤーは無得点に終わった。しかし、入賞のチャンスがまったくなかったわけではない。カナダGPではレース終盤、5番手を走り初入賞が迫っていた。
しかしマシンのリヤからは無情にも白煙が上がりリタイア。レース後、片山が合掌するようにしてチームに謝るシーンを、覚えている方もいるだろう。片山は当時のことを、次のように語っている。
「あの時は、シフトがまだHパターンなんで、片手ハンドルで片手シフトだった。それは慣れてるはずなんだけど、手がしびれてきていて、それで5速に入れるべき時に3速に入れてしまった」
そう片山は語る。
「その後異音がして、3〜4周もすると、ピストンがバルブに当たるのがわかるようになってきた。だから、リタイアした後に片手で謝ろうとしたんだけど、手が上がらなくて、片手で支えて謝ったため、合掌のようになってしまった」
その後初凱旋となった日本GPでは、フェラーリF92ATを駆るニコラ・ラリーニをオーバーテイクするなど、印象的なシーンも数々見せた。
記録には”入賞1回”としか残っていないかもしれない。しかしこのLC92は、特に我々日本のF1ファン・関係者には強烈なインパクトを残した1台だったと言えるのではなかろうか。
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