テストで見えた勢力図“大シャッフル”の予感。新車両『SF23』は特性が一変……波乱を生む要因となるか?|2023スーパーフォーミュラ:シーズンプレビュー
いよいよ開幕する2023年のスーパーフォーミュラ。今季からは新車両の『SF23』が導入されることになるが、既にシリーズの勢力図が大きく変わりそうな予感を漂わせている。
2023年シーズンのスーパーフォーミュラが、4月8日にいよいよ富士スピードウェイで開幕を迎える。日本にトップフォーミュラの選手権が発足して50周年となるこの節目の年に、スーパーフォーミュラはまさに“新時代”に突入する。
新シーズンのスーパーフォーミュラは、トピックが尽きない。コロナ禍による諸制限が緩和されたことで、レッドブル育成ドライバーで昨年FIA F2ランキング3位のリアム・ローソンをはじめ、ジェム・ブリュックバシェ、ラウル・ハイマンなど注目の外国人ドライバーが来日し、グリッドもより国際色豊かに。さらに今季からは、各車の車載映像や各種データ、無線交信が楽しめるアプリ『SFgo』が正式ローンチされ、ABEMAでの決勝無料配信もスタートするなど、レースを楽しむ側の観戦・視聴環境にも大きな変化があった。
既にF1ドライブの経験もあるローソン
Photo by: Masahide Kamio
そんな中で本稿でピックアップするのは、新型車両『SF23』の導入がもたらすであろう変化について。各チーム・ドライバーは3月の鈴鹿合同テストでSF23を初めて本格的に走らせたが、既にシーズンの波乱を予感させるような予兆がいくつかある。
■新車両『SF23』の導入で何が変わる?
スーパーフォーミュラは昨年まで、2019年から導入された車両『SF19』を4シーズンに渡って使用していた。しかしシリーズを主催する日本レースプロモーションは、よりエキサイティングかつ環境に配慮したレースを実現すべく、2022年シーズンを通して様々な開発テストを実施した。そこで得た知見を活かし、SF19のパッケージをアップグレードする形で導入されるのがSF23だ。
福住仁嶺(ThreeBond Racing)
Photo by: Masahide Kamio
環境面では、ボディの一部に麻由来の天然素材等が使用される。『Bcomp社』のバイオコンポジット素材は、原材料ならびに製造過程でのCO2排出量を約75%抑制するという。そしてタイヤに関しても、横浜ゴムが再生可能原料比率33%のカーボンニュートラル対応レーシングタイヤを供給する。
そして競技面で言えば、フロントウイングやリヤウイングといった空力パーツがアップデートされており、前を走るマシンに追従しやすいマシンとなることが目指されている。先行車からの乱れた気流……いわゆる“乱流”が多いと、後ろを走るマシンは挙動が安定せず近付けない。この乱流による影響を出来るだけ減らそうというのがSF23のコンセプトであり、これにより多くのバトル、接近戦が期待されている。
テストを終えたドライバーからのフィードバックによると、SF23の空力パッケージはドラッグ(空気抵抗)が大きいため、ストレートで前車の後ろについた時のスリップストリームの効果が大きいという。これは富士スピードウェイなどストレートの長いコースでは追い抜き増加に繋がりそうだが、その一方でコーナーでの追従性には懐疑的な声も出ており、この辺りは実際にレースが始まってみないと分からない部分もあるだろう。
またタイヤに関しても、車体とのマッチングの影響か、はたまた新しいモノに変わった影響か、デグラデーション(性能劣化)が大きいと指摘する声もある。これもレース展開に影響を与えることになりそうだ。
■オーバーステア傾向のSF23が波乱を生む?
そして何より波乱を生みそうなのが、SF23はSF19と比べてその車両特性が大きく変わっており、ドライバーやチームはこれまでとはかなり違った感覚を覚えているケースが多いという点だ。
SF23は、SF19よりも“オーバーステア”な傾向にあると言われる。簡単に言えば、オーバーステアは、後輪のグリップが前輪と比べて低く、コーナーを曲がる際にリヤが横滑りしやすい状況を指す……つまり「スピンしやすい」特性だ。その反対が“アンダーステア”で、後輪よりも前輪のグリップが低いことにより、コーナーを曲がる際にフロントが入っていかない、つまり「曲がりにくい」特性だ。ドライバーごとの特性の好みはあれど、基本的にはどちらかの傾向が強く出てしまうと、速くは走れない。
そういった車両特性の変化が、勢力図を一変させるかもしれない……鈴鹿テストを終えて、そんな予感が漂っている。というのも、昨年まで強さを発揮していたドライバーが苦戦気味な一方、昨年まで苦しんでいたドライバーが好調な走りを見せているという傾向があるのだ。しかも、それは決して偶然ではなさそうなのだ。
スーパーフォーミュラと言えば、2021年と2022年はTEAM MUGENの野尻智紀が圧倒的な強さを見せてシリーズタイトルを連覇した。野尻はこの2年、6位より下の順位でゴールしたことがなく(無論リタイアもゼロ)、17戦中優勝5回、2位3回、3位4回(表彰台獲得率71%)、予選ポールポジション8回という圧巻のリザルトを残している。しかしそんな野尻も、3月のテストでは珍しくコースアウトを喫するなど、SF23に手を焼いている。
リヤを滑らせる野尻。オーバーステアのマシンに手を焼いている様子
Photo by: Masahide Kamio
そして2020年からの3シーズンでランキング2位、4位、3位を記録し、トップドライバーのひとりとして君臨している平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)も、テストで適切なマシンバランスを確保するのに苦慮しており、開幕を前に「ナーバス」だとコメントしている。昨年ランキング4位と躍進した若手のホープ宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)も、テスト初日を終えて「(マシンバランスに)悩んでいることもあって、(SF23に)良い印象はない。難しい」と浮かない顔でインタビューに答えていた。
一方で昨年チームランキング10位に沈んだKCMGは、小林可夢偉と国本雄資が共に好タイムをマーク。昨年入賞ゼロに終わった大嶋和也(docomo business ROOKIE)も同様だった。そして昨季は特に前半戦で苦しんだTCS NAKAJIMA RACING(2022年チームランキング5位)に関しては、ほとんどのテストセッションで山本尚貴と佐藤蓮が揃ってトップ5に顔を出すなど、際立った好調ぶりだった。
こういった傾向について、野尻と共にシリーズ2連覇を成し遂げたTEAM MUGENの一瀬俊浩エンジニアはこう分析している。
テストで好調だったKids com Team KCMG
Photo by: Masahide Kamio
「僕個人の勝手な予想ではありますが、SF19ではほとんどのチームがアンダーステアで苦戦していたと思っています。そういうチームは(オーバーステア気味な)SF23のパッケージになってバランスが良くなったのかもしれません」
「僕たちのように昨年(マシンバランスが)ちょうど良かったチームはオーバーステアになり、昨年アンダーステアだったチームはちょうど良い……ということなんじゃないかと思います」
基本的に全車がイコールなパッケージを使うスーパーフォーミュラにおいては、ドライバーが担当エンジニアと共にいかにマシンセッティングを熟成させるかが非常に重要な要素となっている。これまでセットアップでアンダーステアを解消できずにいた者は、車両自体がオーバーステア傾向なことで“ちょうどいい”フィーリング(俗にニュートラルステアなどとも言われる)を手にし、逆にこれまでアンダーステアを出さないセットアップを掴めていたチームは、車両特性がオーバーステアになったことでその影響をもろに受けてしまっているのでは……そう一瀬エンジニアは見ているということだろう。
実際、この見解はこれまでのドライバーのコメントとも合致している部分が多々ある。
平川亮, ITOCHU ENEX TEAM IMPUL
Photo by: Masahide Kamio
野尻同様にオーバーステアに苦慮している平川は、「去年はずっとリヤ(のグリップ)が足りていなくて、アンダーステアは出ていませんでした」と語っているし、NAKAJIMA RACINGに関しては昨年、大湯都史樹(現TGM Grand Prix)が酷いアンダーステアに悩まされていると春先に話していたが、今季のテストでは大湯の後釜である佐藤が「エアロの美味しいところが見えてきて、順調に進んでいる」とコメントしている。これらを総合すると、今季は勢力図がひっくり返る……とまではいかなくとも、これまで以上に予測のつかない展開になるかもしれない。
■やはりTEAM MUGENは侮れない。しかし下克上目指すチームも“本気”
もちろん、過去2シーズンを圧倒してきたTEAM MUGENの野尻&一瀬コンビの修正力は侮れない。彼らは走行初日にどんなに苦戦していようとも、その高い分析力で課題を解決し、速さを見せてきた。レースウィーク序盤の野尻のネガティブな発言は、メルセデスF1のルイス・ハミルトンを彷彿とさせるほど、もはや良い意味で信用できなくなっている。
ただ前述の下克上を目指すチームも、車両特性が偶然マッチしただけ……と断じるべきではない。KCMGは松田次生監督と田中哲也レースマネージャーの実質的な監督2人体制を敷き、メンテナンス体制も強化。ROOKIE Racingも開発ドライバーとしてSF23をテストしてきた石浦宏明を監督に据え、データエンジニアも増員している。そしてNAKAJIMA RACINGも伊沢拓也が監督に就任し、中嶋悟総監督の下でドライバーとエンジニアのサポートを行なっている。彼らも“本気”なのだ。
チームを見守る伊沢監督
Photo by: Masahide Kamio
今季のスーパーフォーミュラは富士ラウンドを皮切りに、7大会9レースが開催される。野尻が3連覇で歴史に名を刻むのか、彼のライバルたちがリベンジを果たすのか、それともダークホースが現れるのか……。まさに“予測不可能”なシーズンが幕を開ける。
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