ジュリアーノ・アレジ、苦悩の欧州時代乗り越え日本で手にした本当の喜び「もっと早くここに来るべきだった」

スーパーフォーミュラで初優勝を挙げたジュリアーノ・アレジは、これまではF1を目指すという思想にとらわれすぎていたとして、現在では「もっと早く日本に来るべきだった」と考えている。

Giuliano Alesi, Kuo VANTELIN TEAM TOM’S

Giuliano Alesi, Kuo VANTELIN TEAM TOM’S

Masahide Kamio

 今季から活動の拠点を日本に移したジュリアーノ・アレジ。今季はTOM'Sからスーパーフォーミュラ・ライツ(SFライツ)にフル参戦する傍ら、同チームからスーパーフォーミュラにも代役参戦しているが、彼はここまで充実したシーズンを過ごしている。

 WEC(世界耐久選手権)のプログラムを優先する中嶋一貴に代わってアレジが初めてスーパーフォーミュラのレースに参戦したのは、第2戦鈴鹿。開幕前テストに参加してここ鈴鹿でSF19をドライブした経験があったとはいえ、アレジはいきなりQ3進出を果たして決勝でもチームにポイントを持ち帰り、大きなインパクトを残した。

 そして何と言っても、アレジが輝きを放ったのが第3戦のオートポリスだ。第2戦に続いてスーパーフォーミュラとSFライツのダブルエントリーとなったが、SFライツでの“予習”も功を奏してか、初体験のオートポリス、しかもウエットコンディションでスーパーフォーミュラ初ポールポジションを獲得すると、決勝でもそのまま逃げ切り(荒天による途中終了ではあったが)初優勝を挙げたのだ。レース後には舘信秀監督も「申し訳ないけど(結果を出すのは)まだまだ先のことになると思っていたが、本当に(次のレースが)楽しみになってきた」と舌を巻き、冗談混じりではあるが「一貴には申し訳ないけど、もういいかな(苦笑)」とさえ言わしめた。

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 そんなアレジは昨年までF1直下のカテゴリーを戦っており、GP3(現FIA F3)、FIA F2とステップアップを果たしていた。そんなアレジが日本でSFライツを軸に参戦することを“ステップダウン”と見る向きもあるが、アレジ本人はこのオファーをポジティブに捉え、受け入れた。それがSF参戦2戦目での優勝に繋がる要因のひとつになったとも言えるだろう。

「正直、スーパーフォーミュラ・ライツに参戦していなかったら今の自分はなかったと思う」

 アレジはmotorsport.comの独占インタビューに対してそう語った。

ジュリアーノ・アレジ Giuliano Alesi(TOM'S)

ジュリアーノ・アレジ Giuliano Alesi(TOM'S)

Photo by: TOM'S

「F2から来たのだから、パワーの面でそれと同等のカテゴリーに留まろうとするのは当然だ。でもいきなりスーパーフォーミュラから始めることは勧められなかった。(日本のサーキットでの)経験値がないので、学習という意味でもこれが最善の選択だったんだ。トムスからスーパーフォーミュラ・ライツに出られることになった僕は、今年を学習の年に位置付けることに決めた」

「そのことが僕のドライバーとしての成長に大きな影響を与えたと思う。F1にいる若手ドライバーやF2のトップドライバーのほとんどが、少なくとも1年間にふたつのチャンピオンシップを経験したことがある。僕は日本でそのチャンスを得た訳だけど、やらないよりはマシだと思ってすぐにその話に飛びついた」

「今は過去の良い経験も悪い経験も活かして、日本で成長することに集中している。自分自身のことに集中し、チームと協力して既にその成果が出ている。本当に嬉しい」

 アレジが言うように、ヨーロッパを拠点とする有力ドライバーの多くが、ジュニアカテゴリー時代に1年で複数の選手権に参戦して経験を積むという手法を取り入れている。現在F1で活躍しているジョージ・ラッセル、ランド・ノリス、シャルル・ルクレールなどは、F3相当のカテゴリーにステップアップする前にフォーミュラ・ルノーや各国のF4選手権を掛け持ちしていた。アレジはヨーロッパ時代に、出来る限りマイレージを稼ぐことの大切さを肌で感じていたようだ。

「彼ら(ラッセルら)はF2に来た時ルーキーと言われていたけど、実際はその時点でルイス・ハミルトン並みのマイレージを稼いでいた。僕はそれまでフランスF4で年間7ラウンド、GP3で年間8ラウンド……というのを続けていたけど、これでは良いチームに行くという点では厳しい。みんな状況を知らずに判断したがるけどね」

Race winner George Russell, ART Grand Prix

Race winner George Russell, ART Grand Prix

Photo by: FIA Formula 2

「ヨーロッパの優れたチームは、無尽蔵の資金があるとか、F1のチーム監督がマネジメントしている、とかではない限り、経験がないドライバーをリスクを背負ってまで起用しようとしない。日本に行くというのは僕にとってベストな選択だったと思う。後になって言うのは簡単だけど、正直もっと早く来るべきだった。F2に参戦するべきではなかった」

 もっと早く日本に来れば良かった……そう語ったアレジだが、逆にこれまで来日と言う選択肢が浮上しなかったのは「F1パドックにいなければいけない」という思想があったからなのかと尋ねると、彼はこう答えた。

「そういうことだ。僕たちはそういう全体的な風潮、思想にある意味洗脳されていたように思う。壁にぶつかって、パドックに居場所がないと分かってやっと僕たちはそこを去ったんだ」

「本当にここに早く来るべきだったと思っている。これまでこんなにレースを楽しんだことはない。ここに来られたことに本当に感謝している」

 そういったアレジのコメントを総合すると、F2での参戦資金を捻出するために元F1ドライバーの父親ジャンがフェラーリF40を売却したことは、今考えれば必要のないことだったのでは……そう思ってしまいたくなるが、アレジは父からこんな言葉をかけられたという。

Giuliano Alesi, BWT HWA Racelab and Jean Alesi walks the track

Giuliano Alesi, BWT HWA Racelab and Jean Alesi walks the track

Photo by: Charles Coates / Motorsport Images

「父と話したんだけど、彼はF40を売って良かったと言ってくれた。そうやって投資をしたことで今の君がいるからだ、とね」

「良いことも悪いことも含めてたくさん経験したことが僕を成長させ、これまでとは違うメンタリティを持つことができたから、それは決して無駄にはならないと思う。そのおかげで僕は前よりもずっと謙虚に仕事をすることができるようになった。だからその投資は、これから先30年のキャリアで回収されていくということなんだ」

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 アレジの謙虚さや真面目さは舘監督も認めるところで、「とても21歳とは思えないほどしっかりした社会人で、真面目。これまでにウチで走った(外国人)ドライバーとは比べ物にならないくらい」と語っていた。これまでのキャリアでたくさんの苦労をしてきたことが、感謝を忘れない謙虚な姿勢に繋がっているのかもしれない。

Giuliano Alesi, Kuo VANTELIN TEAM TOM’S

Giuliano Alesi, Kuo VANTELIN TEAM TOM’S

Photo by: Masahide Kamio

「彼(舘監督)に喜んでもらえることは、僕にとっても嬉しいことなんだ」とアレジは言う。

「僕のヨーロッパでの成績は芳しくなかったから、彼にはリスクを背負わせてしまったけど、僕の家族や友人以外、誰も信じてくれていなかった時に、彼は僕のことを信用してくれた。そのことについてはいつも感謝している」

 

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