
ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
使用禁止になった”画期的”デバイス5:安定したダウンフォース発揮のため……ブロウンディフューザー
F1マシンのパフォーマンスを探し当てるには、少々の才能が必要だ。そして既成概念に捉われない思考、そしてレギュレーションの境界を押し広げる意欲もなければいけない……。

F1マシンの開発は、重箱の隅をつつくようなモノだと言われることがある。そのため、マシンのパフォーマンスを改善するためには天才的な閃きが必要だし、既成概念に捉われない思考力や、レギュレーションへの精通といった能力も必要となってくる。そして、過去の歴史を知っていると、それが役に立つこともある。
最近の良い事例は、ブロウン・ディフューザーであろう。これは自然吸気V8時代の終盤に全盛期を迎え、F1に大きな影響を及ぼした。しかし実は、1980年代前半に登場したモノが元になっている。
オリジナルの考え方では、大きなエネルギーを持つ排気ガスが、ディフューザー内部に直接吹き込まれていた。ただこれは、ドライバーにとってはドライビングを非常に難しくさせた。
排気ガスを直接ディフューザー内に吹くことで、ダウンフォース量を増やすことに成功した。ただそれをコントロールするために、多くのドライバーは、自分のドライビングスタイルを、マシンに適応させるようにしなければいけなかった。
ニューウェイのマジック
エイドリアン・ニューウェイが開発したレッドブルRB6は、2009年シーズン用マシンとして登場した。このマシンは、当時のトレンドとも言えるマルチディフューザーを備えていただけでなく、排気ガスがマシン後部でダウンフォースを生み出すことができるということを再認識させた。

Red Bull RB6 exhausts
Photo by: Giorgio Piola
ニューウェイがこのアイデアを復活させた時、エキゾーストパイプはフロアの上に存在し、ディフューザーの上部から後方に向かって排気が吹き付けられていた。そしてチームはこのアイデアを最初にテストした際、そのポジションを隠すため、ボディワークの上部にエキゾーストパイプを模したステッカーを貼り付けていた。
しかしフロアのすぐ上にエキゾーストパイプを配置することで、空力的なメリットがあることが確認されると、多くのチームがこのソリューションをコピーし始めた。
レッドブルが他のチームに比べて優位に立ったのには、エンジンサプライヤーであるルノーとの共同作業を、早めにスタートすることができたからだ。スロットルをオフにした時にも排気ガスを引き続き排出することができるようになり、安定して高いパフォーマンスを発揮できるようになったのだ。
また、ドライバーがブレーキをかけ、コーナーをクリアしている時もずっと、安定してダウンフォースを発揮することができていた。これによって、1980年代〜90年代のブロウンディフューザーの課題が解決されていた。
しかしFIAは、この使用方法を禁止することを決め、2011年からはエキゾーストパイプの位置をレギュレーションで規制することになった。ただこのパフォーマンスを回復しようと、各チームは奮闘。複数の異なるデザインが登場してブロウンディフューザーと同じような効果を発揮することになった。


もっとも極端な解決策を示したのは、マクラーレンとロータスだった。彼らはエキゾーストパイプを、空力的に最も適した位置に配置しようと考えたのだ。
マクラーレンはエキゾーストパイプをフロアに取り付け、その後方に長いスリットを設けたのだ。そのスリットはスカートのような効果を発揮し、フロアと路面の間をシールすることを狙ったものだ。
ただこのアイデアは素晴らしかったものの、実際に機能させるのは難しかった。チームは熱のマネジメントと、エキゾーストパイプの剛性、そしてフロアの柔軟性にも苦労した。結局、テストでさえ成功させることはできなかった。
一方でロータスは、マシンの前方まで、エキゾーストパイプを伸ばすこととし、側方に向けて排気ガスを吹き出した。これは、テスト時から有望であり、さらにスロットル変化の影響を受けにくかった。その結果、ドライブしやすいマシンとなった。


レッドブルはそれほど複雑ではないデザインを生み出した。彼らはエキゾースとパイプをフロアの上面に配置し、リヤタイヤとディフューザーの間に排気ガスを吹き付けた。これは、タイヤに荷重がかかり変形した際、この付近を流れる気流がディフューザー内部に流れ込む問題を軽減するのに役立った。
ただこのプロジェクトでも、やはりルノーのサポートが必要不可欠だった。レッドブルが排気ガスを活用するにあたって、ルノーはエンジンのスロットルがオフになった場合でも、ガスが吹き出し続けるようにエンジンマップを作ったのだ。
ホットブローとコールドブロー
F1チームとFIAの間には、このソリューションについて論争が巻き起こった。そのシステムは、エンジンがドライバーの指示とは異なる形で動いていたため、FIAは満足しなかったのだ。
しかし排気ではない、冷えた空気が吹き出されていることが知られるようになると、それがゆるされるギリギリのラインとしてみなされるようになった。これは”コールドブロー”と呼ばれ、燃料の噴射とスパークプラグの作動をカットし、まだ回転しているエンジンをエアポンプとして活用することで、エキゾーストパイプからディフューザーに空気を流したのだ。
その後、燃焼を伴うホットブローも使われるようになった。これは燃料への点火のタイミングを遅らせ、トルクマップを変更することで、空力に影響を与える排気ガスを得る必要があったのだ。ただこれは、燃料消費量が増加してしまうのに加え、エンジン自体の寿命にも影響を与えることとなったため、それほど長く使うことはできなかった。ただ控えめにでも使うことで、パフォーマンスは明らかに向上することになった。
FIAの介入
結局FIAはこのソリューションに対して介入。シーズン中に使用を禁止することを決めた。チーム側はロビー活動を行ない、禁止するタイミングを遅らせたが、代わりにエキゾーストブローだけでなく、ブロウンディフューザー自体も使えないようになった。

Ferrari F2012 and F150 side views comparison, captioned
Photo by: Giorgio Piola
FIAは、エキゾーストパイプを設置できる位置を明確に指定したことで、排気ガスをディフューザー付近に吹き出すことが難しくなった。ただ、レギュレーションで禁止されても、なんとかしてメリットを生み出すことができないか……そう考えるのがF1チームであり、その後も様々なソリューションが生み出されていくことになった。
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