ハーバート降ろしの背後に何が? ファンの悪意に晒され無報酬……F1スチュワードを巡る厳しい現状
FIAがジョニー・ハーバートをスチュワードから外したが、無給のボランティアが有給の仕事を引き受けたことを罰するのは、筋が通っていないだろう。
FIAがジョニー・ハーバートをスチュワードから外すという決定を下した。なぜこんな決断がなされたのだろうか。
FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長ほど、FIAの仕事の中でも責任が重い仕事を無給のオフィシャルに頼ることの不条理と不義を公の場で訴えてきた人物はいない。実際彼は昨年、次世代の人材にプロフェッショナリズムを浸透させるため、新しい「オフィシャル部門」の設立を発表している。
こうした彼の思いは、FIAシングルシーターのディレクターであるニコラス・トンバジスも支持しており、彼はmotorsport.comに次のように語っている。
「善意でやってくれる人たちだけに頼るのは、少し不公平になってきている」
「将来的には、もっとプロフェッショナルな組織にしていきたい。それはボランティアを排除することではなく、レース後の月曜日の朝、すべての決定を分析し、それが正しく行なれたかどうかを確認し、何が改善されるべきかなどを見極めることができる組織を持つことだ」
こうした動きは称賛に値するモノではあるが、現状ではスチュワードは経費のみが支払われる無給の仕事である。そしてその経費は、おそらくワインリストの一番下にあるワインよりもかかっていないだろう。
ライオンの口に頭を突っ込んでいるような、哀れなF1スチュワードは、すべての判断を正しく下すことがほとんど不可能なレースのために1週間の人生を棒に振ることになる。
それだけではない。必然的に注目が集まる弊害として、悪意の標的にされることとも戦わなければならない。F1についてよく分かっているはずの人たちが、つまり不誠実なチーム代表が犬笛を吹いてそうでない人たちを先導し、有害なファン行動(the toxic fandoms)を引き起こそうとしているのだ。
あるオフィシャルは、motorsport.comのスタッフに「これと同等の(つまり無給の)仕事で、もっと大変なものはひとつしかない」と語った。それは学校のサッカーの試合のレフェリーだ。タッチライン際に並ぶ親から口汚く煽られ、『お前の頭をトイレに流してやる』と脅されるのだ。
そう考えると、ボランティアのために小さく声を挙げながら、有給の”副業”をしているということを理由に、ハーバートをスチュワードから外すというのは奇妙な判断であるように思える。
FIAはハーバートについて「FIAスチュワードとしての職務とメディア・評論家としての職務は相容れないということで互いに合意に至った」と発表しているのだ。
ジョニー・ハーバート
motorsport.comの調べによれば、FIAがハーバートをグランプリのスチュワードから追い出すきっかけとなった「相容れない」メディアの役割とは、彼がスポーツベッティングサイト『Betsafe』とパートナーシップを結んでいたことのようだ。
確かにこれは、少々いかがわしい取引だと言えるかもしれない。Paddypower、bet365、William Hillといったオンラインベッティング業界の多くと同様、Betsafeは法人税の支払いを逃れるために、”タックスヘイブン”であるマルタ島に籍を置いている。
このような企業はジャーナリストや有名なメディア関係者にコンテンツやコメントを提供するよう日常的にアプローチしており、それをソーシャルメディアを通じて共有することで、より大きなリーチを得たりしている。
FIA会長は、ハーバートが評論家としてスチュワードの決定についてコメントすることを特に好ましく思っていなかったようだ。マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が2度のペナルティを受けたメキシコシティGPでハーバートがスチュワードを務めていたことを考えればなおさらだ。
たとえその決定を下した責任者がFIAの公式文書を通してその理由を述べたとしても、そうした物議を醸す決断が注目を浴びるのは必然であり、それについて公の場で意見を述べれば、状況はより悪い方向に向かってエスカレートする。
では、ハーバートがそうしたプロフィールを持ったことが、スチュワードとして行動することと根本的に相容れないという理由で不適格とされた原因なのだろうか?
もしそうなら、元F1ドライバーが解説やコメンテーターとしてのプロフィールを持つのは当然のことであり、元ドライバーがスチュワードに起用されたのは現役ドライバーがそれを求めたからだというところまで遡る必要がある。
それとも、賭博サイトで個人的な意見を述べることがFIAにとって好ましくないというのが本当の問題なのだろうか?
もしそうなら、この問題は1月末の暇なオフシーズンのニュースの焦点になるよりも、もっと早く、たとえば昨年10月末ごろに取り上げられ、まだ小さな芽のうちに摘み取られているべきだったはずだ。なぜなら当時と今で、ハーバートに関する状況は変わっていないからだ。
その間のどの時点でも、自発的なスチュワードと両立できない有給の仕事について、賢明なガイドラインを作って伝えることは簡単にできたはずだ。
もちろん、昨シーズン終盤からFIA会長が様々な”有給”職員に解雇通知を出し、FIA内部の内政に勤しんでいたことは承知している。ひょっとしたらそれがこの件の対応遅れを招いたのかもしれない。
いずれにしろF1のスチュワードは現在、宙ぶらりんの状態にある。FIAはオフィシャルのプロ化に向けて一歩を踏み出しており、GPDA(グランプリドライバーズ・アソシエーション)はスチュワードを有給のプロフェッショナルで構成することを望んでいるが、この贅沢のために費用を出すかで両団体は対立している。
一方、根本的な問題は見過ごされている。スチュワードは現在、多くの有害な感情にさらされており、良識ある人のほとんどは、たとえ報酬があってもやらないだろう。
ボランティアを募るべきなのではないか? ああ、これでは堂々巡りだ……
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