“選択と集中”の開発。目指したのは『コーナ前後100mの強さ』|ヤマハ開発リーダーに訊く(1)
2019年のヤマハはMotoGPでコンストラクターズランキング2位になるなど、苦戦した2018年と比べれば改善を示した。新たにヤマハのモトGPグループのグループリーダーに就任した鷲見崇宏氏に、開発の狙いなどについて訊いた。
MotoGPに参戦するヤマハは、2019年シーズンに2勝を挙げ、コンストラクターズランキング2位を獲得。苦戦にあえいだ2018年シーズンから獲得ポイントも大きく増加(281→321)するなど、調子は上向きつつある。
その2019年、ヤマハは改善を果たす足すべく組織の変更に着手していた。鷲見崇宏氏が新たにモトGPグループのグループリーダー(以下GL)に就任し、タイトル獲得から遠ざかっている状況を覆そうと奮闘してきた。
2019年末、鷲見GLは2019年シーズンのマシン開発を振り返って取材に応じた。motorsport.comでは、ヤマハがMotoGP2019年シーズンをどう戦ってきたのかを鷲見GLに尋ねた。その模様を3回に渡ってお伝えするが、第1回となる今回は、ヤマハがマシン開発で目指した点について訊いた。
■エンジンの“どこ”に手を付けるかが重要
近年のヤマハは、バイクの心臓部であるエンジンパフォーマンスにおいて、ライバルに対して大きく差をつけられている。ドゥカティはグリッドで最もパワフルなエンジンを搭載し、ホンダも2019年に大きくパワーを改善したことで、ヤマハは最高速で10km/h近く遅れをとってしまう場面も見られ、ライダーからも不満の声が漏れるようになった。
MotoGPでは、コンセッション(優遇措置)の適用の無いメーカーはシーズン中にエンジン開発を行なえないため、シーズン終了後のテスト期間に実施するエンジン開発が、新シーズンの行方を大きく左右することになる。ヤマハは2019年シーズンに向けたエンジン開発において、“コーナー前後100メートル”を重視していたと鷲見GLは語った。
「2017、18年は難しいシーズンでした。なかなか勝てず、アップデートパーツを多く作って挑みましたが、結果に繋がりませんでした」と、鷲見GLは過去の苦戦したシーズンを振り返えった。
「問題は多くありましたが、何が問題なのかを絞り、足りていない所はどこかを見つめ直して足場を固めよう、ということを(2019年シーズン前の)冬の間に行なっていました」
「そして皆さん想像がつくと思いますが、ヤマハの強み(コーナリング)が近年は大分弱くなっていました」
「我々は最高速でドゥカティに並ぶエンジンを持っているわけでもありません。だからまずは『コーナー前後100mで、誰にも負けないクルマをきちんと作ろう』というスローガンでやっていました」
「そして車体ではなく、“コーナーを良くするためのエンジン”を開発していったんです」
コーナーを良くするエンジン……それが意味するのは減速、そして加速といったバイクの基本とも言える要素を磨き上げることだ。
エンジンの出力自体は、2018年型から向上を果たしていると鷲見GLは言う。当然さらなる高出力化を達成し、ライバルたちに追いつくことができれば望ましいが、鷲見GLは「(トップエンドの)パワーと中盤(のパフォーマンス)の両方を同時に得る事は難しいため、2019年型はコーナリングから加速までの部分に注力することを狙っていました」と話した。
2018年シーズンから2019年シーズンへと移り変わるなか、ヤマハはそうした目標を実現すべく、ギリギリまで開発を続けていた。エンジン仕様が決定された時期も、セパンテストまであまり時間のない、年が明けた後だったということからも、ヤマハがエンジン開発を最後まで粘っていたことが分かるだろう。
こうして開発されたエンジン、そしてマシンは第7戦カタルニアGPの頃から電子制御などのベースセットが定まってくると、エンジン開発で“狙っていた”良い面が発揮され、安定した競争力を示すようになった。
また、こうした選択と集中の姿勢は、各セッションの過ごし方にも波及。セッティング変更の途中などで、ビニャーレスに「今乗っても混乱するから乗るな」と指示することすらあったようだ。
その結果、ビニャーレスは周囲の状況に惑わされることなく、自分の仕事に集中できた……という効果も現れ、シーズン後半戦ではマルク・マルケス(レプソル・ホンダ)の駆るRC213Vに次ぐ速さを見せるようになっていった。
……第2回「ヤマハ一丸になるために」へ続く。
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