最終戦アブダビGPでパフォーマンスを向上させたフェラーリ。スパークプラグに関する”対処”が成功した証か?

フェラーリは2022年シーズンを通じて、エンジンの信頼性とパフォーマンスを引き上げることに成功した。当初はスパークプラグにダメージが及んだため出力を下げる必要があったが、これを解決。最終戦アブダビGPでは高いパフォーマンスを発揮できたようだ。

Charles Leclerc, Ferrari F1-75

Charles Leclerc, Ferrari F1-75

Mark Sutton / Motorsport Images

 2022年のF1で、開幕当初は高いパフォーマンスを発揮したフェラーリ。しかしその後は徐々にレッドブルに差をつけられ、最終的には大差で敗北を喫することになった。

 ただ最終戦アブダビGPでは戦闘力を取り戻し、シャルル・ルクレールがレッドブル勢2台の間にわって入る2位を確保。これには、フェラーリがエンジンのパフォーマンスと信頼性を、シーズンをかけて引き上げることに注力した成果が現れているようだ。

 フェラーリはシーズン終盤のメキシコシティGPとサンパウロGPで、大いに苦戦することになった。これは、ターボのサイズが標高が高く空気密度の薄いメキシコとサンパウロに合っていなかったことが原因だった。

 しかしそれ以前もフェラーリは、レッドブルに大きな差をつけられていた。シーズン開幕当初、特に開幕3戦中2勝を上げた好調な滑り出しが、まるで嘘だったかのような状況に陥っていた。

 ただ、フェラーリのチーム代表であるマッティア・ビノットはシーズン終盤、信頼性への懸念から、エンジンのパフォーマンスを抑えなければならなかったことを認めていた。

 スペインGPとアゼルバイジャンGPでは、シャルル・ルクレールのエンジンがブローアップ。オーストリアGPでは、カルロス・サインツJr.のマシンから火の手が上がった。これらのいくつかのエンジントラブルにより、その解決策が見つかるまでの間、出力を引き下げることで対処したのだ。

「我々はパワーを少し下げる必要があった。そうしなければならなかったのだ」

 これはビノット代表の言葉である。

 ただ前述の通り、アブダビではエンジンの出力を引き上げることができたようだ。これはつまり、フェラーリが信頼性の問題に対する解決策を見つけたということを示していたと思われる。

 ある情報筋によれば、エンジンの信頼性における懸念は、副燃焼室(プレチャンバー)に置かれたスパークプラグに関するモノだったとようだ。

 2014年に現行のパワーユニットレギュレーションが導入された際、圧倒的なパフォーマンスを誇ったのはメルセデス。エンジンに副燃焼室方式を導入し、高い出力を達成。パワーを武器に、メルセデスはライバルとの差をつけた。

 他のメーカーもこれに追従。今では全メーカーが副燃焼室を使う方式へと移行した。

 フェラーリも当然この副燃焼方式を使っているが、2016年からはテクニカルパートナーのマーレが提供したTJI(タービュラント・ジェット・イグニッション)燃焼システムを採用して進歩。メルセデスとの差を詰めることに成功した。

 それから6年、このシステムを内包したエンジンは大きく進化。TJIシステムにはスパークプラグと燃料噴射システムも含まれており、これらをうまく連携させてパワーを最大化している。

 このシステムでは、噴射する燃料の2〜3%のみを副燃焼室に噴射。残りの燃料は主燃焼室(チャンバー)に送られる。燃料は空気と混合した”混合気”としてそれぞれの燃焼室に送られるが、副燃焼室内の混合気は濃く、主燃焼室の混合気は薄くなっているようだ。

 スパークプラグによる点火は副燃焼室のみで行なわれ、両燃焼室を繋ぐ穴でプラズマジェットを発生させる。その圧力は非常に高く、混合気は主燃焼室のいくつかの部分で自己着火し、これにより炎がシリンダーの全領域に効率的に広がる。

 この方式には、ふたつのメリットがある。

 ひとつ目は圧縮比を高めることができるということだ。主燃焼室内の混合気における燃料を薄くできるということは、異常燃焼を起きにくくすることができるということを意味する。その結果、圧縮比を上げることができ、パフォーマンスを向上させることができるわけだ。

 また、この方式は省燃費にも繋がる。効率的に燃料を燃やすことができるということは、燃え残りが少ないということ。つまり、搭載した燃料をしっかりと使い切ることができるわけだ。レースで使うことができる燃料は最大110kgと規定されているため、無駄を省くという点では特に重要。また、噴射した燃料を最大限まで使うため、パワーの向上にも繋がる。

 フェラーリは、レギュレーションで許可されている最大圧力で燃料噴射システムを使えるように開発を進めた。しかしこの極端なコンセプトは、エンジン内部の温度が上昇することに繋がったという。

 そうなると負担がかかるのはスパークプラグだ。温度が高くなると、物質は膨張する。スパークプラグも例外ではなく、本体の金属部分が膨張してしまうと、絶縁体部分が割れてしまう可能性が考えられる。燃料に点火する電極部分に損傷が及ぶ可能性もあるだろう。

 また副燃焼室を用いるエンジンでは、従来のエンジンとは温度以外にも異なる影響がスパークプラグに及ぶ。ノッキングや振動といった面でも、スパークプラグはダメージを受けるようだ。

 フェラーリのエンジニアは、スパークプラグに及ぶダメージが限界を超えないように、マッピングを調整する必要があった。そのため、出力も下がることになったわけだ。それと同時に、フェラーリにスパークプラグを供給するNGKも、様々な対処を行なったという。情報筋によれば、エンジンが最大出力を発揮する際の要求に応えられるよう、新しい素材などを試したようだ。

 アブダビGPでのフェラーリのパフォーマンスを見ると、エンジンの出力は上がっていたように思われ、スパークプラグに関する問題は解決されたように見える。つまりパフォーマンス向上のための開発が凍結されている今、今後に向けた好材料と見ることができるだろう。2023年のフェラーリは、この部分の信頼性の問題に頭を悩ませることなく、シーズンを戦い切ることができる……その予兆と言えるかもしれない。

 なおNGKは、今季はフェラーリ以外ではホンダ(つまりレッドブル・パワートレインズ)にもスパークプラグを供給していた。今季のコンストラクターズランキング上位2チームが、同じメーカーのスパークプラグを使っていたというのは、興味深い。

 
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