ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
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ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】

メルセデスF1、痛恨の”マジックボタン”ミスを避けるためにフランスGPに向け小変更を加える?

メルセデスのルイス・ハミルトンは、F1アゼルバイジャンGPで”マジックボタン”を押してしまったことで、目の前まで迫っていた勝利の可能性を手放してしまうことになった。チームはこの再発を防ぐため、ステアリングに修正を加えたようだ。

メルセデスF1、痛恨の”マジックボタン”ミスを避けるためにフランスGPに向け小変更を加える?

 F1アゼルバイジャンGPの決勝レース終盤、赤旗中断からの再スタート直後にメルセデスのルイス・ハミルトンがターン1を止まりきれずにコースオフしてしまった。このミスについてハミルトンは、”マジックボタン”を押してしまったのが理由だと説明したが、チームはこの再発を防ぐための策を講じたようだ。

 アゼルバイジャンGPの決勝レースは、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが、タイヤのパンクに起因するクラッシュを起こしたため、赤旗中断となった。そして残り3周というところからレースが再開されることとなった。

 この中断後の再スタートはスタンディングスタートとなったため、まずは各車が隊列を組んで1周のウォームアップランを行ない、それまでの順位でスターティンググリッドにつき、残り2周の超スプリントレースがスタートした。

 ハミルトンはこのウォームアップラップの際、ブレーキバランスをフロントに寄せ、フロントタイヤをしっかりと暖める作業を行なった。このブレーキバランスを瞬時に変えるボタンは、”マジックボタン”とも呼ばれている。

 ハミルトンはグリッドから好加速を見せたが、レッドブルのセルジオ・ペレスとサイド・バイ・サイドになったところで、誤ってこの”マジックボタン”を再度押してしまったという。その結果ターン1を止まりきれずにオーバーランしてしまい、最後尾まで落ちてしまった。そしてわずか2周ではポジションを取り戻すにはあまりにも短すぎ、痛恨の無得点でレースを終えたのだ。

 ハミルトンはこれについて、自身のミスであると告白しているが、メルセデスもミスが起きにくいマシンを提供するために対策を講じるようだ。

 メルセデスのテクノロジー・ディレクターであるマイク・エリオットは、チームがアゼルバイジャンGPの後に公開した動画で次のように語った。

「ルイスはほとんどミスを犯さない。それが、彼が他のドライバーとは違うところだ」

「彼がミスを犯しにくいマシンを用意するのは、我々の義務だ。我々はそのことを共有し、どのように改善できるかを検討する。そして、次のレースに向けて用意しなければいけない」

 フランスGPまでに行なうことができる対策は、ソフトウエアを変更するか、このマジックボタンに保護カバーを取り付けるという程度のモノかもしれない。そしてハミルトンも、ステアリングを掴むポジションを少し修正する必要があるかもしれない。

 

Photo by: Giorgio Piola

 ハミルトンは、右手でクラッチパドルを操作する際、左手はステアリングホイールの左上の角に置いていることが多い。実は今回問題の原因となった”マジックボタン”は、このハミルトンが左手を置くことが多い位置に近いのだ。これが、アゼルバイジャンでミスが起きた一因だった可能性がある。

 エリオットは次のように語った。

「彼は素晴らしいスタートを切った。彼とペレスは並んでターン1に向かい、その後ルイスは曲がる過程でマジックボタンを押してしまった。残念なことに、彼はそれを押したと感じていなかったようだ」

 このマジックボタンの押し間違いが表面化したのは、アゼルバイジャンが初めてだった。しかしブレーキバランスを動かすという仕組みは、新しいモノではない。

 ハミルトンは、2019年以来ずっと同じレイアウトのステアリングホイールを使っている。そして以前使っていたツインパドルのモノではなく、シングル・ウイッシュボーンスタイルのクラッチパドルを好んでいたようだ。

 レースをスタートするにあたって、ステアリングの左上の角に手を置くのは、このパドルのポジションに対応するためのポジションだったはずだ。そしてクラッチの感触を掴み、コントロールするのに役立っていただろう。

Mercedes W12 steering wheel, rear view

Mercedes W12 steering wheel, rear view

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 一方でチームメイトのバルテリ・ボッタスは、より短いクラッチパドルを使っている。これによって、レースをスタートする際に、左右どちらも使うことができるようだ。

■マジックボタンとは何をするためのモノか?

 話題のマジックボタンは、前述の通りブレーキバランスを変更するために用意されたモノである。走行中、ドライバーたちは常にステアリング上のスイッチを使い、ブレーキバランスを調整しているが、このマジックボタンを押すことで、通常よりもはるかに極端にブレーキバランスが変動するという。

 通常走行中であれば、フロントのブレーキバランスは50〜60%の範囲内で最適な値に調整する。またソフトウエアでも、MGU-Kで回生されるエネルギー量に基づき、リヤの機械式ブレーキの仕事量を調整する。

Mercedes W12 steering wheel detail

Mercedes W12 steering wheel detail

Photo by: Mercedes AMG

 ただマジックボタンを押すと、ブレーキバランスはほぼ完全にフロント寄りに移動する。アゼルバイジャンでのハミルトンは、誤ってブレーキバランスを90%フロント寄りにしてしまった。そのためフロントブレーキがロックしてしまい、ターン1で減速し切れずオーバーランしてしまったのだ。

 このマジックボタンは、レースに向けた準備のためのツールとして備えられたもの。これを使うことによって、フロントタイヤをしっかりと温めるのだ。今季のタイヤは構造が強化されているため、この機能は特に重要だ。

 ブレーキバランスをフロント寄りにすることで、フロントのブレーキディスクとキャリパーで発生する熱が増える。これがブレーキドラムを介してホイールに放射され、結果としてタイヤ内部の温度が上昇することになる。

 これがハミルトンが採った策であり、再スタートを待つ間のハミルトンのマシンから煙が上がっていたのもそのためだ。

 なおステアリングホイールのディスプレイには、様々な情報が表示される。その中には各タイヤの温度情報もあるため、ドライバーは様々な方法を用いて、各タイヤを最適な温度まで温めることを目指すのだ。

 

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